気持ちよく暮らす「生活のしきたり」/56:賃貸集合住宅の住人と家主とのつきあいは話し合いが大切
季節の行事のすごし方や、親戚・ご近所とのおつきあい。恥ずかしくなく普通に暮らすため、カジュアルな決まり事を覚えましょう!
ここでは、各テーマごとに全部で84の「しきたり」をご紹介します。
教えてくださるのは、生活研究家の阿部絢子さんです。
このパート【上手なおつきあいのための「心得」】では、心地よいつきあいに関するしきたり44~61をご紹介します。
今回は、しきたり56:賃貸集合住宅と家主とのつきあいは話し合いが大切、についてです。
●上手なおつきあいのための「心得」●
家族、友人、恋人、親戚、子ども同士、仕事など、人と人とのコミュニケーション=つきあいほど難しいことはありません。電車の中で肩が触れた、触れないの言い争いから喧嘩となり、重傷を負ってしまった、近所のピアノの音がうるさいと、近所づきあいが疎遠になってしまったなど、つきあいはときとして争い事にもなり、そのために人を傷つけてしまうことだって起こりかねません。
我慢すべきときは我慢、言うべきときは言う、そして、かかわりのないときにはかかわらない、といったように、つきあいにはほどよい距離感を保つことが欠かせません。すべて自分の価値観と同じと思うのではなく、人には人の考え、思い、思惑などがあり、無理してつきあっても決してうまくいくとは限らないのです。
しきたり56
賃貸集合住宅の住人と家主とのつきあいは
話し合いが大切である
賃貸集合住宅の住人は家主さんとのつきあいが大切ですが、家主さんにとっても地元地域の住人とのつきあいも無視できません。
長く暮らしていた賃貸集合住宅でのこと。この集合住宅には、ほんの少しだけ建物のまわりに土地があり、そこには楠が大きく生い茂り、夏は日陰をつくってくれて涼しく、秋の木漏れ日はキラキラと輝いて美しく、小さな土地でも自然が感じられ、賃貸でも快適な暮らしができていました。家主さんが自然を大切になさる方で、楠をはじめ、紅葉、枇杷、無花果、紫陽花などさまざまな植物を植えてこられたからです。
ところが、古くから住んでいる地域住人と、この集合住宅は間近にあり、春になると、楠から落ち葉が舞い、隣接したお宅へ枯れ葉がたまることになってしまいました。隣接した住宅の方が家主さんへ、枯れ葉がたまり始末されていないと訴えたのです。
家主さんと隣接住人とは、これまで長いおつきあいをこの地域でしてきましたし、土地は家主さんのものですから、集合住宅の一住居人がとやかく言うことはできませんが、できれば穏やかな話し合いで、樹齢五十年の楠がこれからも生きるための何らかの手だてを見つけてほしいと願っていました。それは、この賃貸集合住宅に暮らす半分くらいの人の願いでもあったのです。
でも、家主さんと隣接住人との話し合いでは、その願いは聞き入れられませんでした。これは家主さんと隣接住人とのつきあいの度合いによるものとも考えられます。というのは、家主さんと隣接住人とのつきあいがもっと親しければ、初めからなんとか枯れ葉の対策を話し合っていたでしょう。樹木から枯れ葉が散るのは、五十年という長い年月の間にあったはずで、いまここで初めて散ったわけではないのですから。
親しければ親しいほど、最初からフランクに話し合い、なんとかできたはずです。しかし、人間の勝手なつきあいのせいで、被害をこうむったのが楠です。樹齢五十年の楠は、バッサリ根元から伐採され、日陰も木漏れ日も、すっかり失ってしまったのです。楠にとってこれほど迷惑な話もありません。
また、賃貸居住者の言い分が聞かれない、というのもおかしな話しです。賃貸ですから家主さんの持ち物には違いありませんが、居住者にも落ち葉掃きを引き受けさせるだけの、家主さんと居住者とのつきあいがあってもいいと思います。家主さんの人柄にもよりますが、フランクな話し合いを居住者と持つことも、賃貸集合住宅の家主さんの仕事ではないかと思うのです。
つきあいには話し合いが大切です。自分だけの勝手な都合や意見だけではなく、みんなの意見が聞き届けられる仕組みを持った集合住宅が理想です。特に賃貸集合住宅では、居住者の意見を聞く家主さんが必要だと思います。
次回は、しきたり57:近所迷惑になるとあらかじめわかっていることは、家主やご近所に伝える、についてご紹介します。