気持ちよく暮らす「生活のしきたり」
季節の行事のすごし方や、親戚・ご近所とのおつきあい。恥ずかしくなく普通に暮らすため、カジュアルな決まり事を覚えましょう!
ここでは、各テーマごとに全部で84の「しきたり」をご紹介します。
教えてくださるのは、生活研究家の阿部絢子さんです。
このパート【気持ちを伝えるための「心づもり」】では、相手に自分の気持ちを伝えるさいのしきたりをご紹介しています。
今回は最終回、しきたり69:受け取ってうれしい寒中見舞いの葉書は立春までに出そう、についてです。
●気持ちを伝えるための「心づもり」●
相手に自分の気持ちを伝えるには、電話、携帯、パソコンなど現代の機器がいろいろありますが、昔ながらの手紙、葉書なども、忘れたくないものです。
電話や携帯での会話は、相手を拘束しがちですし、パソコンも扱えなければ、気持ちは伝えられません。紙に書くだけの手紙や葉書なら、いつ、どこでも、相手の好きな時間に読んでもらえます。
ここはひとつ、現代のメールにも通じる、古くから使い慣れた手紙や葉書を見直してみたいと思います。
しきたり84(最終回)
受け取ってうれしい寒中見舞いの葉書は
立春までに出そう
立春前の、本当に寒い時期、気遣いをしたいのが、親であり、年配者や先輩などです。久しくお目にかかっていない先輩には、寒中見舞いの便りを差し上げたいもの。こんなとき、手軽なのが葉書での便りです。好みにあった綺麗な葉書が選べますし、手短に書けるところも、葉書のいいところです。年賀状を出しそびれた人、ずっと気になっていた人、長い間ご無沙汰していた人などに、寒の見舞いを兼ねて差し上げてはいかがでしょうか。
寒さへの気遣い、ご無沙汰の失礼、近況、春を待つ明るい話題、周囲の変わった出来事などを書きますが、素直な気持ちを率直に伝えるのが大切です。葉書一枚であっても、受け取る身としては嬉しいもので、そこから元気をもらい、相手からも返事がくれば、なお、出した身も嬉しいのです。
ただ、寒中見舞いの便りは立春までなので、忙しい一月はあっという間にすぎていきますから、寒中見舞いの予定があれば、心づもりしておきます。
私は、年末年始をボランティア活動で過ごすことがあり、寒中見舞い状を出すようにしてはいますが、それも忘れることが多くなりました。そんなとき、立春には「立春大吉」の葉書を出すとよいと先輩に伺いました。これからは、立春大吉も便りのひとつに加えようと思っています。
■おわりに■
自然相手だった農作業中心の暮らしから、いまは、人と人との結びつきが中心の暮らしへと時代も変わってきました。自然もさまざまに姿を変化させますが、それ以上に複雑で難物なのが、人間という生き物です。現代の暮らしは、無人島ででも生活しない限りは、人と人との結びつきがあって成り立っていますから、家族も社会も、昔よりはるかに複雑で、ひと筋縄ではいかなくなっています。そのせいか、人は迷いや悩み、問題も抱えてしまうことになるのです。
誰しも気持ちよく暮らしたい! と願わないはずはありません。複雑な結びつきから起こる迷いにどうしたらいいのか、どうやって悩みを乗り切ったらいいのか、どうしたら家族が円滑な関係になるのか、社会で生きるためには何をどうしたらいいのかなど、複雑で難物な、人がつくり上げた現代社会や家族関係のさまざまな問題の、すべてではありませんが、暮らしを心地よくする習慣について、私はいまの社会や家族の実情に合わせて、応えたはずだと思っています。
これまでも、またこれからも、なにより大切なのが、家庭というごく小さな結びつきだと、私は考えています。この小さな結びつきに暮らす、一人一人のみんなが、気持ちよく過ごせること。これは、どの時代にも最も尊重されなければならないことではないでしょうか。そこに、しきたりや習わしをうまく役立たせていく裁量が、いまの私たちに求められているのだと思います。
しきたりや習わしを見直してみて、私は先達者たちの丁寧な暮らしの営みを見たような気がします。私たちの急ぎすぎ走りすぎ、何事もお金で解決しようとする暮らしを反省しなければ……。これからは、ゆっくりと穏やかな暮らしを手元に戻していきたいと、いま真剣に思っています。
阿部 絢子