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松本千登世/大人の女の爪は噓をつかない。「生き方」を語る

松本千登世/Chitose Matsumoto

松本千登世/Chitose Matsumoto

1964年生まれ。美容エディター。

客室乗務員、広告代理店勤務、

出版社勤務を経てフリーランスに。

自らの経験に基づいた審美眼によって語られる、

エッセイや美容特集がつねに注目の的。

著書に、

『美人に見える「空気」のつくり方 きれいの秘訣81』

(講談社)がある

年齢を重ねるほどに美しく__

 

〝大人磨き〟はこれから

 

 

第5回 大人の女の爪は噓をつかない。「生き方」を語る

 

 

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出会いからもう、四半世紀。「ひと目惚れ」からずっと、存在そのものに憧れ、立ち居振る舞いからファッションまで、会うたび観察し続けている。文章は言わずもがな。美容ジャーナリストの齋藤薫さん、その人である。

 

ある化粧品会社で、女性ばかりのスタッフと打ち合わせをしていたときのことだ。ひょんなことから、齋藤さんの話になり、私たちは、自分が知るエピソードを競うように披露した。いかに素敵な女性であるかを言葉にし合い、盛り上がったのである。

 

 

ここは私の「マニアぶり」を発揮しようと、「齋藤さんの爪って『意外』なんですよね」と自慢げに話を振ってみた。「へーっ、どういうこと?」という反応を期待し、それに対する答えを想定して。すると、皆が口をそろえ、「そうですよねえ」。えっ⁉ どうして知ってるの? 「あの爪を見て、齋藤さんってかわいい人だなあって、思ってたんです」「私も!」「私も!」…私だけじゃなかったんだ、そう思っていたのは。

 

そもそも、なぜ意外なのか? ご存じの通り齋藤さんは、見た目も中身も、頭のてっぺんからつま先まで「完璧」な美しさの持ち主。誰しも無意識のうちに、女っぽい長さに伸ばされ、きれいに彩られた爪を「妄想」していたのだと思う。

 

読者の方々もそうじゃないだろうか? ところが実際は、短く切りそろえられ、ネイルカラーがまったく塗られていないピュアな爪。勝手な思い込みとのギャップは、ある意味とても印象的だった。皆、齋藤さんの爪を知っていたのは、きっとそのため。
爪って、不思議だと思う。美を語るのが職業である女性タレントの爪にパーフェクトなネイルアートが施されていたらそれは説得力を増すし、憧れを抱くが、小さな子どもの手を引く母がもし同じ爪をしていたら、この人はちゃんと子育てできているだろうか、料理や洗濯をしているのだろうかと疑いたくなる。

 

今どきのファッションに身を包み、メイクにもこだわっている女性の爪ががさがさ、ぼろぼろだと、なぜか汚い部屋を想像し、嫌悪感を覚えるけれど、動物園で飼育員として毎日を必死に生きている女性なら、たとえあざだらけの手に無頓着な男性のような爪でも、涙が出るほど美しいと思う。

 

 

女の爪は「生き方」を語るのだろう。生きるうえでの「知性」や「品格」が見えるのだろう。私たちはそれを知っているから、無意識のうちに、相手の爪を観察しているのじゃないか。その人はどう生きているのかを知るために、その人の本質を見抜くために…。私が爪に対して後ろめたさを抱いているのは、どこか生き方に自信がないから。女としてのクオリティに自信がないからなのだと、改めて痛感させられた。

 

しかも、現実的なことを言えば、年齢を重ねるほどに、爪は内臓の健康状態までも顕著に語りはじめる。大人の女の爪は噓をつかない、噓をつけない。つまりそういうこと。

 

 

電車で偶然隣り合わせた女性。視界の片隅でとらえたシルエットは、ファッションもヘアスタイルも、30代くらい。シートに座るや否や、スマホのゲームを始めた彼女の手元に、何気なく視線を移すと? その指先には、ずっとほったらかしにされ続けた爪。思わず顔をのぞき込むと、意外や意外、おそらく私と同世代か。シルエットと爪のギャップ、行動と爪のギャップ…違和感を抱くのはきっと、私だけじゃないと思う。

 

もう一度、意識し直したい。自分の爪はどうあるべきなのか、と。

 

 

 

 

 

撮影/江原隆司

 

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