年齢を重ねるほどに美しく__
〝大人磨き〟はこれから
第6回 年齢とともに訪れる体型の変化。くびれは大人の女を試す、リトマス試験紙
今で言うところの、坂上忍さんだろうか、有吉弘行さんだろうか、はたまた小籔千豊さんなのだろうか。いつの時代にもあえて毒に包んで真理を説く「世直し役」がいるもので、四半世紀近くがたつ今も、「その人」が放ったある言葉を思い出す。
「胸の大きな女より、腹の凹んだ女のほうが断然、魅力があるよね。胸は持って生まれたものだけど、腹は努力だから。信用できるんだよ、『谷間』より『くびれ』のほうが、さ」
当時、私はまだ、ただ一方向のみに向かう「美の基準」しか持ち合わせていなかった20代半ば。そんな浅はかな自分に、この言葉はずっしりと重くのしかかった。
ああ、いい女は、意志がつくるんだ。いい女って、内面が見た目に表れている人なんだ…。きっとそういう意味での、谷間よりくびれ。だから、くびれこそがいい女の条件。肝心なその人が誰だったかは、すっかり頭から消えてしまったのだけれど、「名言」だけが心の中で独り歩きし、年齢を重ねるほどに深みを増していった。
ところが、である。最近になって、ずっと信じてきたこの価値観がぐらりと揺らぐ。ある夏の日、遠目にそうとわかるほど「ナイスボディ」の女性と道ですれ違ったときのこと。ウエストが丸見えのショート丈トップにローライズのデニムショートパンツというまるで水着のような装いに、同性ながら目を奪われた。気づかれないように観察すると、贅肉のない、きれいなくびれ。きっと筋トレもボディケアも怠っていないのだろう。
そう思いながら、ふと顔に視線を移すと…あれっ? どう贔屓目に見ても、その格好とは不似合いの、大人すぎる大人。強い意志でつくり上げていたのかもしれないけれど、これ見よがしのくびれには、悲しいかな、知性のかけらも感じられなかった。それどころかむしろ、痛々しくだらしない印象に見えたのだ。ああ、大人にとってくびれってなんだろう? その「正解」ってなんなんだろう? この些細なでき事をきっかけに、深く考え込んでしまった。
年齢とともに訪れる体型の変化は、誰にも平等に起こりうる。それを最小限に抑えるために、食事を考えたり、運動を続けたり…そんな日々の小さな心がけを継続して積み重ねた結果の大人のくびれは、整った生活や丁寧な生き方を感じさせるからこそ、美しいのだと思う。ただ、それが「目的」になり、「自慢」になり、「売り」になったとたん、安っぽくなって不潔感が漂う。
大人は、くびれに分別や節度が表れるということか? だから私たちはきっと、ほったらかしにしない、でも必死になりすぎない、そんなバランスのいいくびれを目指すべきだろう。わかりやすく言えば、洋服をまとったとき、奥にくびれを「妄想」させる、そんな絶妙な引き締め感。それがもっと先を知りたいと思わせる「奥行き」になるのではないか、そう思うのだ。
そういえば、と思い出した。ある男性のカメラマンが撮影中に何気なくつぶやいた言葉。
「『色気』と『エロ気』の違い、わかる?」
色気は奥行き、エロ気は見た目。色気はもっと知りたいと思わせる複雑な魅力、エロ気は頭の中身まで透けて見える単純な刺激なのだ、と。単なるしゃれを超えた意味を知って、深く納得したもの。
くびれは色気とエロ気の差を見抜く決め手なのかもしれない。大人の女を試す、リトマス試験紙…。
撮影/江原隆司