秋田内陸線、皆さんご存知でしょうか。
秋田県北秋田市鷹巣(たかのす)と、仙北市角館を結ぶ鉄道路線です。
大正の時代に、日本三大鉱山であった、阿仁鉱山からの鉱石を運搬する目的で、最終的に鷹巣ー角館を繋ぐ鷹角線(ようかくせん)とするための建設が進められ、昭和9年に鷹巣から米内沢(よないざわ)間の阿仁合線が開通、その後戦争による中断があり、戦後はさらに路線が延伸。
昭和45年には戦後しばらく放置されていた角館側からの路線も開通しましたが、後の阿仁鉱山の閉山や、国鉄の経済破綻の危機にもより鷹角線の工事は中断されます。
しかし昭和59年、秋田県と当時の沿線8町村の共同出資により、秋田内陸縦貫鉄道株式会社が設立され、様々な産業や生活の向上のため、経済圏を結ぶという住民の悲願であった「鷹巣ー角館」は、紆余曲折を経てやっと平成元年4月1日に94.2kmが全線開通となりました。
この、秋田内陸縦貫鉄道が運営する秋田内陸線は、美しい山の景色を堪能できる人気の鉄道です。
今回は角館から、秋田内陸縦貫鉄道本社がある阿仁合駅まで、いつものお友だちと約1時間半の旅。全車色が違うそうで、私たちが乗ったのはオレンジ色でした。
1両編成の気動車(2両編成の場合もあり)の車両内には、秋田犬の子犬が雪の中で遊ぶ姿が大きく転写されています。その他、小さめポスターも張り巡らされ、シートにも小さな秋田犬の柄がありました。座席の窓側についている、ジュースなどを置く小さなテーブルというんでしょうか、あれには路線図が書かれていて、そこにも犬の足跡がデザインされています。
そんな可愛らしい車両でガッタンゴットンと60キロぐらいの速度で揺られ、ゆっくりと進んで行くので乗り心地がいいし、景色も十分に楽しめます。
途中、紫色の車両とすれ違いました。ゆっくりとはいえ、雪を蹴散らして向かってくる姿にはちょっとした迫力があります。
角館から阿仁合(あにあい)までは4つのトンネルがあり、北秋田市と仙北市の境にある十二段トンネルは、秋田県内の鉄道トンネルでは最長だそうで、ひたすら真っ直ぐなこのトンネルでは、出口が見えたときに振り向くと、数秒間入り口と出口が見えるポイントがあるんです。勾配の天辺でそれが見えるらしく、それを写真に撮るのはちょっと無理があります。見たい方は実際に行って確認してきてください。私たちは、「見えた!」と、大喜びしてきました。
他のトンネルでも、出口近くのカーブの先に見える小さな光がどんどん近づき、まばゆい光の中へ飛び出す瞬間を車両の先頭、鼻先で体感し、なんともいえない解放感や清々しさに似たような感覚を得られます。
阿仁合駅に着いたときには、逆方向から赤い車両が走ってきました。帰りには青と、クリーム色の車両も見ることができました。
内陸線では貸し切りやイベント用の、お座敷列車も運行されるんですよ。畳敷きになったり掘りごたつが登場したり、県内ニュースでも取り上げられることがよくあります。いつかは乗ってみたい。
阿仁合には内陸線資料館があり、秋田内陸線の歴史を知ることができます。奥に進むと昔のお座敷があります。囲炉裏と、熊の剥製がお出迎え。そして、本物の熊の毛皮に座ってきました。
阿仁という地域は、北海道や東北地方、北関東や甲信越地方にかけての山岳地帯で狩猟をする人たち、「マタギ」と呼ばれる人たちの里でもあります。37~38年前の「マタギ」という映画は阿仁を舞台に、阿仁で撮影された作品です。
毛皮におそるおそる触ってみたところ、密集した艶のある黒い毛は硬く、しかし痛いわけではなく、昔の防寒着としても大変重宝されたことがよくわかります。
資料館には他に、内陸線の数ある撮影ポイントでも人気が高い大又川橋梁の、紅葉時期のジオラマもあり、本物はどんなに美しいかと想像しました。
資料館を出たあとは、異人館へ。
その昔、産銅日本一にもなった阿仁鉱山には、明治12年に来日したドイツ人技師らの官舎として西洋風建物が2棟造られ、それが異人館として見学できるようになっています。ルネッサンス風ゴシック建築のハイカラな建物、中は撮影禁止だったので、外観だけ。
その近くに阿仁河川公園・北緯40度カントリーパークがあります。今は雪のため公園内に入ることはできませんが、桜の時期にはお花見で賑わいを見せる公園。川岸の雪にはずっと奥から続く動物たちの足跡があり、カケスが雪の枝で歌っていたり、普段は感じとられないような未体験の自然がありました。
雪の中を散策したあとは、この日のおでかけ1番の目的、阿仁合駅構内にある「こぐま亭」の名物、馬肉シチューを。
一大鉱山であった阿仁の地方は「馬肉を食べて馬力をつける」と言い伝えられたため、昔から馬肉を食べる習慣がある地域だそう。「里山のカフェ&レストラン こぐま亭」は、本格的な洋食がお手頃なお値段で食べられます。
なんといっても名物である馬肉シチュー・黄金ライス添えがやはり人気。考案したのは、こぐま亭の麻木シェフ。東京の老舗レストランで料理長を努めた、鷹巣出身の方。
シチューには贅沢にゴロッと大きめの馬肉が入っていて、その馬肉は口に入れると柔らかく、ホロッとほどけますが、とろけるのではなくちゃんと歯ごたえが残っていて食べごたえがあります。しっかりとお肉の美味しさが味わえます。酸味まろやかなデミグラスソースがとてもよく合っていて、これは食べにきてよかったと思えた一品。お値段1000円と、超リーズナブル!
ちなみに今回は単品での注文でしたが、サラダ&スープセットは100円でプラスできます。100円ですよ!いいんですか?!と聞きたくなるほどお得です。
田舎のローカル線の駅構内で、こんなに美味しい本格的な洋食がこのお値段で食べられるなんて、これは嬉しい驚きでした。評判通り、いやいやその評判と、私の想像のさらに上をいった美味しさです。黄金ライスはターメリックを使ったバターライス。これもまた美味しいったらありません。ぜひたくさんの人に食べてもらいたい。「この地域を代表する名物料理、誰もが何度も足を運びたくなるような料理を出し続けたい」という麻木シェフの情熱が深く感じられました。
帰りは、行きも撮影した人気の撮影ポイント大又川橋梁(おおまたがわきょうりょう)の上から、反対側も撮影。撮影ポイントではスピードを落としてくれるのも、嬉しい。
この橋梁には鉄橋の上に鉄骨で組んだ枠が無いので、まるでゴンドラにでも乗って空中を散歩しているかのよう。随所で目にする撮り鉄と言われる方々、もちろんここにもいらっしゃいました。手を振ったら振り返してくれました!
下から撮る大又川橋梁はもちろん素敵ですが、車両の中から下を撮った写真も、我ながら素敵!と自画自賛(笑)
四季を通じて様々なイベントや景色が見られる秋田内陸線。春は桜に、カタクリの群生地では紫色の花が溢れ、夏は花火に、田んぼアート、秋は息を飲むほど美しい紅葉、冬は絶景の雪景色に、森吉山阿仁(もりよしざんあに)スキー場というところまで足を伸ばせば、アイスモンスターと呼ばれる樹氷をゴンドラで鑑賞できます。
毎年2月10日に開催される小正月行事・上桧木内(かみひのきない)の紙風船上げは、毎年お仕事が重なり行きたいけれどまだ行けずにいます。大きな紙風船が空高く昇っていく様は、幻想的でただただ見とれるばかりだそうです。いつかは行こう!と思っています。
秋田内陸線は、土日祝日はホリデーフリーきっぷを購入すれば、往復・途中下車、その日1日限定乗り放題です。全線タイプ2000円と、鷹巣駅ー松葉駅間のAタイプ、角館駅ー阿仁合駅間のBタイプがそれぞれ1000円と、こちらもリーズナブル!
随時運行していますので、いつ行っても予約なしで乗ることができますが、1日10本の運行ですから、1本逃すと次の列車まで2時間近く待つことも。事前に時間を調べて行ったほうがいいです。
他に平日限定の、ウィークデーフリーきっぷもあります。
旅行のご予定がある方、「どこへ行こう?」と迷ったなら、ぜひ1度、スマイルレール秋田内陸線の旅をしてみてはいかがですか?