こんにちは、寺社部長の?田さらさです。
今年は本当に素晴らしい展覧会が続いており、中でも、今回ご紹介する特別展「桃山─天下人の100年」(2020年10月6日~11月29日/前期展示10月6日〜11月1日・後期展示11月3日〜29日)は別格的な充実ぶりです。
京都の名刹に行かないと見られない著名な障壁画や各地の博物館が保有する焼物や漆器類など、「えっ、これが一度に東京で見られるの?」と驚くような名品たちが、東京国立博物館に集められています。
武将たちが天下統一を目指して戦った安土桃山時代は、日本文化が西洋文化と接触して生まれた新たな価値観が花開いた時代でもあります。ヨーロッパの人々がもたらした鉄砲が合戦の形を変えたのと同様に、大名たちに献上された品物が伝統的な絵画や工芸に影響を与え、それまでとは大きく異なる華やかな美の世界を作り出したのです。西洋世界との接触は、天文12年の鉄砲伝来から寛永16年の鎖国まで、ほぼ100年間のこと。この展覧会では、その100年の間に生み出された華麗なる桃山芸術の世界を堪能できます。
この時代に活躍した織田信長、豊臣秀吉、徳川家康など、武将たちの絵姿も見られます。合戦や策謀だけでなく、文化の発展にも大きく貢献した偉大な方々です。
桃山文化の前段階である室町時代後期の美術も鑑賞できます。桃山時代と言えばすぐに思い浮かべる黄金の屏風などは、すでにこの時代から存在しましたが、室町時代に重んじられた格式や儀礼などは、桃山時代になると薄れていきます。ここで扱われているのは、織田信長による足利義昭の京都追放の年までの作品です。現在NHKで放送中の大河ドラマ『麒麟がくる』も、ちょうどそのあたりの時代を描いています。武将たちが激しい主導権争いを繰り広げる一方で、優雅な美術品も数々作られていたことに驚きます。
国宝 観楓図屛風 狩野秀頼筆 室町~安土桃山時代・16世紀
東京国立博物館蔵 前期展示
今も昔も紅葉の名所、京都の高尾で遊山する人々が描かれています。室町時代の形式美から、桃山時代の自由闊達な表現への過渡期的な作品です。
1543年に鉄砲が伝来し、その6年後にフランシスコ・ザビエルがやってきました。織田信長はキリスト教と西洋人を受け入れ、城郭建築や服装など、さまざまな面で西洋文化を取り入れた斬新な文化を生み出しましたが、続く豊臣秀吉はバテレン追放令を出し、徳川幕府は、鎖国体制を確立しました。この間の西洋文化の影響により、美術の潮流は大きく変化しました。
重要文化財 聖フランシスコ・ザビエル像 江戸時代・17世紀
兵庫・神戸市立博物館蔵 10月6日(火)~10月25日(日)展示
肖像画の下に、ラテン語と万葉仮名でザビエルの名が記されています。江戸時代初期にはすでにキリスト教が激しく弾圧されるようになっていましたが、この絵は密かに信仰を守った人々の間で制作されたと考えられています。
重要文化財 泰西王侯騎馬図屛風 江戸時代・17世紀
兵庫 神戸市立博物館蔵 通期展示
描かれているのは、神聖ローマ皇帝、トルコ皇帝、モスクワ大公、タタール王。キリスト教と異教の王が対峙する躍動感ある構図。イエズス会が宣教活動の一環として行った西洋絵画教育を受けた画家が描いたと考えられています。この時代に日本人がこんな立派な西洋風絵画を描いていたとは。
重要文化財 日本図・世界図屛風 安土桃山時代~江戸時代・16~17世紀
前期展示
世界地図は、ヨーロッパから来た人々によってもたらされたものを基に描いたのでしょうが、当時の日本人が、ここまで世界と自国の形を認識していたことにも驚かされます。
重要文化財 花鳥蒔絵螺鈿聖龕 安土桃山時代・16世紀
九州国立博物館蔵 前期展示
聖龕(せいがん)とは、キリスト教の聖人の絵などを納めるための調度品のこと。見事な蒔絵を施したこの作品は、イエズス会の注文により輸出用に作られたものです。
織田信長と豊臣秀吉が天下を取った時代を、安土桃山時代といいます。豪華絢爛な文化が花開き、やがて瀟洒な美へと変化していく、日本美術の白眉とも言える時期です。
国宝 檜図屛風 狩野永徳筆 安土桃山時代・天正18年(1590)
東京国立博物館蔵 前期展示
長く子供に恵まれなかった豊臣秀吉が、晩年に授かった子、鶴松のために建てた御殿の壁を飾ったものと考えられています。檜がのたうつ大蛇のように見える大迫力の構図。
国宝 楓図壁貼付 長谷川等伯筆 安土桃山時代・文禄元年(1592年ごろ)
安土桃山時代・文禄元年(1592年ごろ)京都・智積院蔵 通期展示
愛児鶴松はその後、早世。秀吉が鶴松の菩提を弔うために建てた祥雲寺の客殿を飾った障壁画で、現在は、智積院が保有しています。狩野派の様式美とは異なる繊細さと奥深い魅力をたたえています。
数々の文化の担い手になったとはいえ、この時代の武家の人々の本分は、もちろん戦闘です。趣向を凝らした甲冑に身を包み、見事な刀剣を携えて、野山を駆け回っていたのですね。それらは実用にも優れていたとのことですが、今見ると、素晴らしい芸術品でもあります。
銀箔置白糸威具足 安土桃山~江戸時代・16~17世紀
愛知・徳川美術館蔵 通期展示
戦乱の時代が終わると、美術にも、安定と静けさが戻ってきます。世の中の動きと美術の世界には、密接な関係があることがよくわかります。
重要文化財 松鷹図襖・壁貼付 狩野山楽筆 江戸時代・寛永3年(1626)
京都市(元離宮二条城事務所)蔵 通期展示
関ケ原の戦いに勝利した徳川家康が、京都御所の守護と将軍上洛の際の宿舎として築城した二条城の二の丸御殿の大広間を飾る障壁画の一枚。よく映画やテレビドラマでも見かける、徳川将軍と諸大名が対面する場所です。安定した威厳のある構図が、将軍の地位を象徴しているようにも見えます。
日本美術ファンだけでなく、戦国武将ファン、日本刀マニアの方なども、多面的に楽しめる今回の展覧会。オリジナルグッズも充実しています。
豪壮なトラの顔のパスケースが目を引きます。
南蛮美術、キリシタン文化に興味のあるわたしは、こちらも気になります。ザビエ湯って、いったいどういう発想なのかな。
今回の特別展も、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、日時指定の事前予約が必要です。人気が高い特別展は、会期終盤近くになると満員になることもよくありますので、早めに予約を入れることをお勧めいたします。
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