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あやしくも美しい 、不思議な絵画の展覧会

吉田さらさ

吉田さらさ

寺と神社の旅研究家。

女性誌の編集者を経て、寺社専門の文筆業を始める。各種講座の講師、寺社旅の案内人なども務めている。著書に「京都仏像を巡る旅」、「お江戸寺町散歩」(いずれも集英社be文庫)、「奈良、寺あそび 仏像ばなし」(岳陽舎)、「近江若狭の仏像」(JTBパブリッシング)など。

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こんにちは。寺社部長の𠮷田さらさです。

今回は、東京国立近代美術館で開催中(2021年3月23日<火>~5月16日<日>)の特別展「あやしい絵展」のレポートです。斬新な視点で選ばれたさまざまなタイプの作品を鑑賞できる興味深い展覧会でした。

そもそも、「あやしい絵」とは、どのようなものなのか。

明治以降、日本には西洋美術の技法や思想がもたらされ、芸術家たちに大きな影響を与えました。そこで生み出された作品の中には、単に美しいだけではない独特の価値観を表現したものもありました。退廃的、妖艶、神秘的、エロティック…。そんな言葉で表される魅惑的な作品を「あやしい絵」として紹介したのが、この展覧会です。幕末から昭和初期にかけて制作された絵画、版画、雑誌や書籍の挿絵など、約160点。それぞれに、あやしさのポイントが違い、作風も多岐に渡るため、なかなか見ごたえがあります。

どの展覧会もそうでしょうが、今回の「あやしい絵展」では、音声ガイドを借りることを、特におすすめします。あやしい絵は目に見える部分だけがあやしいのではなく、その背景もかなりあやしいため、絵のテーマとなった小説の内容や作家たちのストーリーを聞きながら回ると、よりディープに楽しめるのです。ナビゲーターは声優の平川大輔さん。変化に富んだ語り口で、奥深い世界に引き込まれますよ。

 

稲垣仲静 猫 大正8(1919)年ごろ 星野画廊

 

最初に目に飛び込んでくるのは、この猫ちゃんの絵。 猫は美しくもあやしい生き物の代表ですよね。この子も、ただかわいいだけではなく、ひそかにあやしいことを考えていそうな表情です。

 

 

安本亀八 白瀧姫 明治28(1895)年ごろ 桐生歴史文化資料館

 

次に驚くのはこの作品。「生人形」といって、幕末から明治にかけて、寺社の御開帳などで大人気を博したものです。この見事な作品は、そうした見世物で使われたものではなく、生人形師である初代、二代、三代の安本亀八が三人で共同制作をした貴重なもので、当時群馬県の桐生市にあった日本織物株式会社の経営者、佐羽喜六が何らかのかたちで入手したとのこと。着衣や持ち物が新調され、細かな補修もなされているため、まるでできたてのよう、生きているようなリアルさ、あやしい美しさが漂っています。

 

 

曾我蕭白 美人画 江戸時代18世紀 奈良県立美術館

 

西洋文化の影響を大きく受ける以前の、江戸期の日本美術にも、あやしい絵が数多くありました。これは、奇想天外な独自ワールドで知られる曾我蕭白の美人画です。手元のびりびりに破いたものは手紙のようです。女性のあやしい表情から、何かよほどうらめしい文が書かれていたことが想像されます。

 

 

 

 

(右)鳳(与謝野)晶子『みだれ髪』(東京新詩社、明治43年)藤島武二装丁 明治34(1901)年 明星大学

(左)与謝野鉄幹・晶子『毒草』(本郷書院、明治37年)藤島武二 口絵 明治37(1904)年 千葉市美術館

 

明治になり、さまざまな西洋文化が流れ込んでくると、芸術家たちは、自分の感情や欲望を作品でストレートに表現するようになりました。こちらは、女性のあふれるような恋愛感情を歌にしたことで知られる与謝野晶子の『みだれ髪』と与謝野鉄幹・晶子の『毒草』。どちらも女性の感情をゆらめきを象徴するような波打つ髪が印象的に表現されています。

 

 

橘小夢 刺青 大正12(1923)年/昭和9(1934)年 個人蔵

 

幻想的な物語をテーマにしたあやしい絵もよく描かれました。こちらは、谷崎潤一郎の小説『刺青』を題材にした作品です。美しい少女の背中一面に蜘蛛の刺青が描かれ、異様なまでの妖艶さです。

 

 

 

甲斐庄楠音 横櫛 大正5(1916)年 京都国立近代美術館

 

美しく化粧をした女性が謎の微笑みを浮かべています。こちらは、河竹黙阿弥作『「處女翫浮名横櫛(むすめごのみうきなのよこぐし)』に登場する悪女お富。作者自身が、レオナルド・ダ・ビンチの『モナリザ』からの影響を示唆しているとのこと。言われてみれば、確かに似ている。

 

 

(右)甲斐庄楠音 舞ふ 大正10(1921)年 京都国立近代美術館

(左)甲斐庄楠音 幻覚(踊る女) 大正9(1920)年 京都国立近代美術館

 

どこか常軌を逸しているような、もしくは、何かの霊に憑りつかれているかのような不思議な動きと表情。いったい彼女たちに何が起きたのかと、思わず見入ってしまいます。

 

 

岡本神草 拳を打てる三人の芸妓の習作 大正9(1920)年 京都国立近代美術館

 

じゃんけんに似た拳遊びをしている三人の芸妓さん。着物の柄などがまだ描きかけですが、化粧を施した顔と髪だけは完璧。そのせいか、どこか人間離れした異界的雰囲気が感じられます。完成したら、どんな絵になっていたのでしょうか。

 

 

女性の多様な魅力をテーマにした絵が多いためか、ミュージアムショップのオリジナルグッズも女性好みのパッケージになっていますね。こちらは、オートミールを含む原材料で全身保湿をするという「スチームクリーム」です。

 

特別展『あやしい絵展』

東京会場 東京国立近代美術館 2021年3月23日(火)~5月16日(日)

大阪会場 大阪歴史博物館 2021年7月3日(土)~8月15日(日)

 

詳細はこちらの展覧会ホームページをごらんください。

 

𠮷田さらさ 公式サイト

http://home.c01.itscom.net/sarasa/

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