日本の漢方薬のふるさと
奈良の薬草園と薬草料理のお寺を巡る/前編
寺社部長の吉田さらさです。
全国の寺社を中心とした旅情報をお送りしています。
今回は、先日わたしが参加した、
普段とはちょっと違う視点で奈良県内を巡るツアーをレポートします。
名づけて「漢方ツアー」
奈良県が日本における漢方薬や生薬のふるさとだということをご存じでしたか?
まずは簡単に、奈良県と薬の関係についてご説明しておきましょう。
日本書紀に「611年に聖徳太子のおばさんである推古天皇が、
宇陀地方(現在の奈良県東部)で薬猟りをされた」という記述もあるように、
古代の奈良では、薬がとても重要なものと見なされていました。
大和朝廷は、中国から医薬術を導入し、薬を輸入して、病に苦しむ民衆を助けました。
この民衆救済の考えは、仏教の教えによるもので、その後、寺社から民衆への施薬につながっていきます。
当時の薬は原料のほとんどが自然由来のものだったため、
薬用になる植物を確保することが大切でした。
中国などから種や苗の輸入も行われましたが、
国内で薬用になる植物を探し、栽培することに力が注がれ、薬草園が作られました。
それらのうちいくつかは現存し、有名な製薬会社に発展したところもあります。
江戸時代になると、富山とほぼ時を同じくして「置き薬」のシステムも生まれました。
行商の方が日本中を回って箱に入った薬を置いて行き、使った分だけお金を払うものです。
このシステムは昭和になっても続きました。
遠方から来た薬屋さんが、子供に紙風船などの景品をくれたことを覚えている人もいるんじゃないかな?
今回の「漢方ツアー」は1泊2日。
奈良交通と奈良県「漢方のメッカ推進プロジェクト」の連携企画でした。
一般向けのツアーではありましたが、テーマが限定されているため、
漢方や薬草の情報を仕事や普段の生活に役立てたいと考えて参加する方が多く、
みなさん、興味津々。どこに言っても、かなり突っ込んだ質問が飛び交いました。
訪問場所は、まず薬草園。
田村薬草園は、田村薬品工業という会社の付属施設で、
約370 種の薬草と約180 種の薬木の計550種程を栽培育成しています。
標本園と実験園に分かれており、見学できるのは標本園。
かんきつ系果樹、シャクヤクなどお馴染の植物もたくさんあり、
係の方が詳しく説明してくださいます。
「なるほど、この見なれた植物も、実は薬になるのか」と、たいへん勉強になりました。
今回はツアーのコースでしたが、事前に申し込めば、個人でも見学できます。
(ただし4月~10月のみ)
特に、5月頃には美しいシャクヤクの花が咲き誇る様子を見られるそうです。
申し込み先など詳細は以下のホームページから。
http://www.tamura-p.co.jp/yakuso/index.html
さて、次に訪ねたのは…
次に訪ねたのは三光丸クスリ資料館。
三光丸は、700年も前からあるお腹の薬です。
鎌倉時代後期には「紫微垣丸(しびえんがん)という名で造られていました。その後、後醍醐天皇により「三光丸」と名付けられたとのこと。
そのような長い歴史を持つこの薬は、
現在は、株式会社三光丸で製造、販売されています。
当主の米田家は中世の大和国で勢力をほこった豪族の流れを汲む家で、現在も、その米田家がこの会社のオーナーです。
しかも、この会社の製品は、今もって三光丸だけというから驚きです。
奈良の薬の歴史は本当に奥深い。
会社の敷地内にある「クスリ資料館」には、
三光丸に関する資料だけでなく、日本と奈良における和漢薬の歴史がわかる
展示物がたくさんあり、どなたでも無料で見学できます。
昔の薬のポスターや景品のデザインが、レトロで今見るととても新鮮。
株式会社三光丸のホームページはこちらです。
お泊りは、洞川温泉(どろがわおんせん)。
大峯山(おおみねざん)・山上ヶ岳の登山口にある山里の温泉地です。
大峯山は今もって女人禁制の場所もある修験道の山で、洞川温泉は、門前町として夏期には山上ヶ岳の蔵王堂を目指す修験者や参詣者で賑わうそうです。
夜には旅館街に明かりが灯され、風情豊かな街並みが見られます。
お宿では、大和トウキという薬草を使ったバスソルト作りの教室も行われました。トウキだけでは独特のにおいが気になる人もいるため、
アロマテラピーの精油も混ぜて使います。
作ったものを自宅に持ち帰って使ってみると、とてもリラックスできて素敵なバスタイムとなりました。
※バスソルト作りの体験教室は、常時開催しているものではなく、今回のツアーのための特別イベントです。
洞川温泉観光協会のホームページはこちらです。
漢方薬と薬草を巡る奈良の旅は後編に続きます。