熱海というと温泉やお宮の松のイメージですが、熱海駅からほど近いところに大正浪漫あふれる、名邸「起雲閣」があります。
大正8年、海運王の内田信也氏によって別荘として築かれ、のちに鉄道王の根津嘉一郎氏によって洋館や庭園が整えられました。
その後、昭和22年には旅館として生まれ変わり、志賀直哉、谷崎潤一郎、太宰治など多くの文豪にたちに愛された宿でもあります。
現在は熱海市指定有形文化財として一般公開されており、NHKの朝ドラ「花子とアン」のロケ地にも使われた場所なので、知っている方も多いかもしれませんね。
趣のある薬医門(やくいもん)をくぐって、見学者玄関へと向かいます。
最初の部屋が「麒麟」の間。驚くほど鮮やかな壁の色が目に飛び込んできます。かなりインパクトがありますよ。
これは「加賀の青漆喰」と呼ばれる金沢独特の技法を取り入れた壁だそうです。北陸新幹線のグリーン車にもこの色が取り入れられているそうですよ。
そして、特徴的なポイントがもう一つ。「入側造(いりかわづくり)」という、座敷と同じ高さに揃えた畳廊下で囲まれたつくりは、今で言うバリアフリーになっています。
別荘を建てた内田氏が当時車椅子で生活していた実母を気遣って、段差のない空間を作ったと言われています。今でこそバリアフリーという言葉は当たり前に耳にしますが、当時は画期的な事だったんじゃないのかな。
また、この座敷から眺める風景がとても素敵でした。微妙な歪みのある大正ガラス越しに、根津氏が自ら13年の月日を費やして作った庭が広がります。「鉄道王」根津嘉一郎とは、みなさんもご存知の根津美術館を造った人ですよ。
こちらは「玉姫の間」に併設されたサンルーム。一面の窓と天井のアール・デコ調の美しいステンドグラスから柔らかな光が差し込みます。
たくさんの日光を取り入れるために、天井も屋根もガラスで葺かれているそうです。カラフルなモザイクタイルが敷き詰められた床は、北欧の絨毯のようにも見えます。さすがに歩いてみるとひんやり冷たく、タイルのでこぼこが感じられました。
洋館が続きます。
こちらは、「玉渓(ぎょくけい)」と名前が付けられた部屋。
中央に見えるのは暖炉です。よく見るとサンスクリット語の装飾やインドの仏様のレリーフが施され、向かって右にはステンドグスの窓、左には床柱代わりの太い柱、天井の一部には竹材が使われているなど、各国の建築様式が取り入れられ独特の雰囲気を放っています。
当時、かなりの費用を掛けて作られた建物なのだということがわかりますね。
先ほどのサンルームも、こちらの部屋のステンドグラスも、国産初のステンドグラスを製造した宇野澤辰雄氏の作品だそうです。
国会議事堂にあるステンドグラスも宇野澤氏の作品なのだとか。そんな作品を間近に見られるなんて幸せですね。
更に廊下を進むと、螺鈿(らでん)細工によって模様が施された西洋館「金剛」があります。ここには、絶対見逃せないローマ風浴室があるんですよ。
浴室内は広く、なんとなくテルマエロマエの雰囲気ですね。浴槽を覗いてみるとかなり深いので、きっと浴槽の中の段に腰かけて、半身浴を楽しんだのではないかしら。
ステンドグラスの窓、テラコッタ製のカランは当時のものが残されていて、小さいけれど、とても凝った作りで素敵でしたよ。
根津氏が庭作りを進める中で温泉が出ることがわかり、洋館に合わせてローマ風浴室が作られていったのだそう。なんとも贅沢ですね。
さて、ここまできてもまだ半分です。このあとも見どころ満載ですので、続きは後編で。
起雲閣