骨董店などが集まる古門前エリアは、上質の日本文化が香るところ。その一角に店を構え40余年となる「染司 よしおか(そめのつかさよしおか)」は、伏見に工房をもつ染色家であり、日本の伝統色の研究者として知られる吉岡幸雄さんの工房で手掛けた品々が購入できるお店です。
若い頃は、出版・広告の仕事で活躍した吉岡幸雄さんが、江戸時代から続く染屋の五代目として本格的に染色の世界に乗り出したのは、昭和63年のこと。古代の染色のひとつ貝紫の研究家でもある父、常雄さんの思いを受け継ぐように、日本の伝統色および染色法の再現に取り組みます。
さまざまな遺物の中でも、時の流れに損なわれやすい古代の布。今に伝わる僅かな名残りから、当時の壮大な色彩の世界を復元する仕事は、失われた技術の研究と試行錯誤の積み重ねなくしては達成できないもの。東大寺や薬師寺などの国宝をはじめとする、古代や平安の美を伝える貴重な品々の吉岡さんの復元の取り組みは、国内外から高く評価されると共に、日本の美の根源を現代の人々に知らしめる多数の著作となっています。
それらの研究・著作や復元作業だけでなく、一般の人でも身近に日本の色を感じて欲しい…との染屋五代目の吉岡さんの思いから、染められた品々が揃えられているのが「染司 よしおか」です。店内に一歩入ると、美しいさまざまな色彩が目に飛び込んできます。その色は、鮮やかながら、おだやかで、まるで目立つことを控えたような奥ゆかしさを湛えています。絹や麻、木綿などに染められた色は、すべて自然界に育った植物の花や実、樹皮や根から生まれた色。自然界の色の調和を彷彿とさせる、隣り合わせた色同志が互いの存在を慈しむように並んでいるのです。
ここに揃う品々は、伏見にある工房の地下100メートルから汲み上げられた水で染めたもの。銘酒の産地伏見の良質な水は、染めの美しさには欠かせないものだそう。江戸時代から続く染屋の優れた技術で染め上げられた品々です。
ポーチやバッグ、座布団などが棚に置かれた中で、私のおすすめは、絹や木綿などでできたストール。生地自体の種類も多く、その表情も豊かです。薄手のものを襟元に巻けば、顔が明るく、肌色も美しく見えてきます。肌色を引き立てる色の効果は、やさしい自然の色ならではのなせる技ではないでしょうか。
薄手のストールは、単色だけでなく、2色異なる色を組み合わせて使うのも素敵です。特に旅行などにその素晴らしさを発揮するのが、このスカーフで、気温の微妙な変化やファッションの変化づけにも重宝します。自然の色の美しさは、身に付けることでその魅力をさらに感じるもの…。ぜひご自分の肌で確かめてはいかがでしょう。
また、店内でもうひとつ、特に心惹かれたのは、正絹の風呂敷。その微妙な色の美しさから、贈り物を包むだけでなく、外出時、この風呂敷をもっていれば、品よくものが運べると思われます。まさに一生そばに置いておきたい逸品になるのでは…。
京都の旅にぜひ寄りたい“美しい色に出会える”お店です。
染司 よしおか
京都市東山区西之町206-1
☎075‐525‐2580
営業時間:10:00~18:00 夏期休暇、年末年始休み
http://www.textiles-yoshioka.com/
小原誉子ブログ「ネコのミモロのJAPAN TRAVEL」