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十和子道第7回「これなしでは生きている甲斐がないと思うもの。それは…」

君島十和子

君島十和子

君島十和子. 1966年生まれ。モデルとして活躍後女優に。1996年、結婚を機に芸能界を引退。現在は自身のコスメブランド「FTC」のクリエイティブディレクターとして数々のヒットを生み出している。2女の母。

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取材期間1年以上、収録写真は約400点。自宅で撮影し、オール私服で登場した〝ライフスタイルブック〟の決定版、それが『十和子道』。発売されるや瞬く間に大増刷され、なんと6刷を記録した大ヒット本です。その本のもととなった連載(過去にOurAgeにて配信されたもの)の一部をお見せします!

十和子道 第7回

「これなしでは生きている甲斐がないと思うもの。それは…」

 

〝これなしでは生きていけない〟。

そういうものって案外少なく、つきつめれば「家族」ぐらいで、それ以外のものなら、ないなりになんとかするし、なんとかなるのでは…と、思えます。

 

でも〝これなしでは生きている甲斐がない〟と思うものはけっこうあって、それはやりがいのある仕事だったり、夢中になれる趣味だったり、おいしい食事だったり…。

 

私にとって中でも一番大事なもののひとつが本です。

私は夜寝る前には必ず本を読みます。

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たった5行しか読めないくらい眠くても、必ず本を手にとって開き、ページをめくる。

お決まりの読書タイムはお風呂と就寝前のベッドの中で。

これはもう若い頃からの習慣で、安眠の儀式になっているのかもしれません。

 

週に1回はぶらり(いや、きりり)と本屋さんへ行きます。

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お気に入りは渋谷の東急百貨店本店の中にあるMARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店さんです。

 

こちらはとにかく広くて、品揃えがよく、何度も通っている見慣れた光景のはずなのに、来るたびに「本の市場みたい」と、軽く興奮。必然、早足で店内を歩き回ることになります(早く本のラインナップをチェックしたくて)。

 

まずは新刊コーナーを見て、雑誌や新聞の書評などで気になっていた本をチェックし、次は歴史(日本史、世界史)、ガイドブックのコーナーというのがお決まりの最短コース。

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時間があるときは、文庫本、エッセイや実用本(健康、美容、料理なんでも)のコーナーまで足をのばし、買う本を吟味します。

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君島家に嫁いだとき、私が実家から運び出した荷物はトラック一台分ほどあり、その大半が本と靴でした。新居(主人の実家)の一部屋のほとんどを占拠してしまうことになり、泣く泣くかなりの本を処分したことがあります。

 

それ以来、特にハードカバーの単行本は本当に欲しい本だけ、残しておきたいと思える本だけを買おうと決めたので、適当に選んでなんとなく買うようなことはしません。

 

もう一か所、関西出張の折に必ず立ち寄る本屋さんがあります。

伊丹空港の9番ゲートと10番ゲートの間にある小さな小さな本屋さんですが、本のチョイスが秀逸で、中でも旅関係の本はどれも欲しくなるようなものばかり。

 

読書量ですが、単行本なら月に2、3冊。文庫本なら5、6冊ぐらい読みます。

 

小説、歴史、哲学、エッセイ、ミステリー、実用、ノンフィクション…「嫌いなおかずはありません。なんでもおいしくいただきます!」という、いつもお腹をすかせた食いしん坊みたいに、あれやこれや読むので、我が家の本棚には『ブスの瞳に恋してる』の横に『女性ホルモンの増やし方』、その真上には林真理子さんの『正妻』、その横に『團十郎 復活』があったりと混沌した状態、カオスです…(笑)。

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本を買った日は、旅に出るための飛行機や電車のチケットを手に入れたときのように、心がウキウキと弾みます。

「本を読むことは旅に出ることに似ている」と、おっしゃった方がいましたが同感です。

例え1時間でも15分でも、つかの間ひとりになって、ここではない別の世界に移動する楽しさは格別。この幸福をまさしく「旅」と呼ぶのだろう、と。

バッグには必ず文庫本を1冊。会社でも会議や打ち合わせの合間のちょっとした休憩時間に、すかさず本を手にすることもあります。たった5分の読書でも何よりの気分転換になるんです。

 

飛行機や新幹線の中は絶好の読書時間ですが、本をうっかり忘れてしまうことも。

そのときの落ち込み方はけっこう激しく「うーん、もったいない! やっぱり出かける直前にバッグを替えたのが敗因だわ…」と、離陸するまで(新幹線なら東京から新横浜あたりまで)ぶつぶつ、いじいじ(笑)。

 

よく「積ん読」などと自嘲気味におっしゃる方がいますが、私はまだ読んでない本がどさりと積んであるのを見ると、うれしくて思わずにやにやしてしまいます。

 

以前、知り合いの編集者が新刊を紹介されるページ(書評ページ)を担当されていて、お仕事で読まれた本を「もしよかったら」と、くださったことがあったんです、全部で27冊も! うれしくてうれしくて、今でも忘れられないプレゼントのひとつです。

 

入浴中に本(主にカバーをはずした文庫本)を読むのも1日の大きな楽しみです。

 

ここ1年くらい“お風呂に持ち込みたい本№1”は池井戸潤さん。

ご多聞にもれず、ドラマ『半沢直樹』で池井戸ワールドにハマり、以来ほとんどの著書を耽読。どの作品もどうしてこんなに面白いんだろう…と、一度読み始めるとちょっとやそっとのことではやめられません。

心地いい予定調和、ドラマティックな勧善懲悪、カタルシスを覚える爽快感はもちろんですが、私は、登場人物が自分の立場や自分の欲望と葛藤しながら行動を決めていく、その感情とプロセスにとても惹かれます。

 

自分だったらどのように動く? 正義は貫ける?と。

 

そのときどきの登場人物にぴしゃりとハマるセリフは、ラインマーカーで線をひきたいくらい素晴らしいです。

「あぁ、ちょっとのぼせてきちゃったけど、やめられない。あと1ページ…せめて10行…」と読んでいるうちに、のぼせちゃう。

入浴中の読書には大変危険な本なんです(笑)。

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林真理子さんは昔から大好きな作家さんで、小説からエッセイまで、ほとんどの作品を読ませていただいています。見城徹さんと共著で出された『過剰な二人』は、大いに刺激を受けた一冊でした。

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お二人の情熱は天賦のものだということ。それは社会的な成功によって培われたようなやわなものではなく、売れなくても貧乏していてもいじめられても、少年少女の頃から焦がれるような「熱」はすでに内包されていたのだな、と。

人並み外れた努力や向上心を生む「過剰」とも評されるほどの「熱」。

それは特別な才能なのだということがわかりました。

 

「環境に左右される程度の情熱や、吹けば飛ぶようなプライドなんかいらないわ!」と、読後、お二人の「熱」が伝播したのか、小さく猛った私です(笑)。

 

時間を気にせず好きなだけ読めるのなら、そのとき手にする本はきっと村上春樹さんです。

 

若いころとても好きで、初期の作品といわれるものは、夢中になって読みました。

中でも一番好きだったのは『羊をめぐる冒険』。それ以降の作品は、残念ながらきちんと読めていません(エッセイは別にして)。

 

私にとって村上作品は、ちょっとした合間や移動中に…と、時間の隙を縫うようには読めない本なんです。

できることなら、お気に入りのお茶をたっぷりとポットに入れて、自宅の暖かい部屋で気が済むまで読みふけりたい。上質で洒脱な文章の世界にどっぷり浸りたい。どこまでも広がっていく風景の描写にうっとりしたい。ストーリーの結末はほかにもあるのでは…と悶々と悩みたい。

 

だから今は手をだせないでいます。いつかのための、とっておきの作家さんです。

 

 

今回の取材で「心に残る一冊は?」と聞かれ、ふと口をついて出たのが村木厚子さんの『あきらめない』でした。

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厚生労働省の郵便不正事件で冤罪を被った方の本です。

 

この本には厚生労働事務次官(現在は退任)から一転、無実の罪で逮捕、拘留、無罪が確定するまでが、恨みつらみ一切なしに、ただ淡々と書かれています。

キャリアを奪われ、罪人として扱われ、信頼していた部下が次々と保身のために虚偽の発言をしていくのを裁判で目の当たりにする地獄のような日々…。

 

でも村木さんは絶望することなく、「自分がブレずにあきらめなければ必ず真実は明かされる」と、巨大な権力に屈することなく静かに正義の声を届け続けます。

初めて読んだときは子どものようにわんわんと声をあげて泣いてしまいました。

 

この本は「あきらめないことの大切さ」と「働く女性へのエール」にあふれていて、どれほど励まされたことでしょう。

 

釈放された後も、「逮捕されても、なにがあっても、ふだんの生活に戻ったなら、またコツコツと目の前の仕事をし、そこで存在感を示すのが人間のあり方だ」というようなことを書かれていたと思うのですが、その言葉が、今も私の支えになっています。

 

誰かと自分を比べることなど意味のないことかもしれませんが、村木さんの舐めた辛酸や超えてきた艱難辛苦を思うと、「私ごときが簡単に、疲れたとか、無理とか、限界、なんて言えない」と、不安や疲労で萎えかけた心も奮い立つんです。

村木さんの本はきっと私が抱えている何かに触れたのでしょうね。

 

何度も読みたくなる本やフレーズには、そこに自分にとっての課題やメッセージが潜んでいるはずだと思っています。

「そうか。私は今、遅まきながら、働くことの意味や試練や意思や覚悟を感じているのね」と。

本が面白いのはこんなフィードバックがあるからかもしれません。

 

 

10代、20代は「知りたいことと知らないことだらけ」で、あふれ出る好奇心を満たすべく本を読み、

30代は子育てと仕事で目が回るような忙しい日々を過ごす中、ひとときこの現実から逃避できる癒しという異空間を本に求めました。

40代になると、心の持ちようや人としてのあり方、人生の作法や真理が知りたくなって、今まで手にすることはなかった哲学や宗教学や自己啓発的な本を読む機会も増えました。

 

 

さて、いよいよ50代。

私はどんな本とめぐり合い、どんな旅をするのでしょうか。

本は生きるヒントと栄養と勇気を「お好きなだけどうぞ」と差し出してくれる。

でもその栄養や勇気は漫然と与えられるものではなく、「引き出すのは読者であるあなたですよ」と言っていると思うのです。

だからこの人生が終わるときまで、わくわくと本を読み続けるんだと思います。

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★お風呂を共にした文庫本たち。

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「浴槽の蓋の上に本を置き、ハンドタオルで濡れた指をいちいち拭きながらページをめくるのですが、湯気ですっかりふやけてしまって。

本には申し訳ないとは思いつつ、やめられません」

 

 ★マンガも読みます!

『いつかティファニーで朝食を』マキヒロチ/新潮社

アラサーOLが実在する飲食店で朝食を食べるという構成のグルメマンガ。女性が抱える葛藤や恋愛模様がグルメにゆるりとからみながら展開していく。「娘から読むように言われているマンガで、いつの間にか私が買うハメになったという…。娘のおこずかい支出削減計画の策略にハメられた思うんですけど(笑)」。

 

十和子さんが学生だったころは、『ベルサイユのばら』『ガラスの仮面』『SWAN』など、少女マンガの決定版はもれなく読破。

「でもうちに弟がいたので『ドカベン』も愛読していました」。

マンガの守備範囲も広い!

 

撮影協力/MARUZEN&ジュンク堂書店 渋谷店

撮影/冨樫実和 取材・文/稲田美保 ヘア/黒田啓蔵

*オールカラー、自宅で撮影、オール私服、収録写真400点

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