しっかり染めながら、しっかりケアで安心
セトッチ:40代前半で白髪染めを始めた頃は、2~3カ月に1回でしたが、最近は白髪が増え、2~3週間もたつと、染めたくなります。
昔に比べるとすごく頻度が上がっていると思います。ただでさえ、年齢を重ねて、髪も若い頃に比べてパサつきがちで、ツヤもなくなったことを実感しているのに、さらに白髪染めでダメージを受けるのはつらいです。
なので、染めるにはいろいろな方法があると思うのですが、できるだけ髪を傷めない方法を知りたいです。
【この回の質問に答えてくださった方】
入社後7年、洗剤用酵素の研究を担当。その後、ヘアケア研究所にて、黒髪メラニンのもとを使った白髪染めの商品開発(リライズブランド)に10年携わる白髪ケアのエキスパート。 〔撮影:山田英博〕
2003年入社以来、美容室専売品のパーマ、ヘアカラー、ヘアケア、スタイリングの製品開発に従事し、ヘアケアブランド「コアミー」の開発も担当。現在は頭皮や毛髪の基礎研究のマネジメントを行っている。
2019年に日華化学株式会社に入社。シャンプー、ヘアトリートメント、頭皮用エッセンスなど、サロン専売のヘアケア商品の処方開発を担う。入社当初より、イーラルブランドに携わり、開発担当者として処方設計やエビデンスデータの取得に携わる。
花王 島津:できるだけ白髪染めによる髪へのダメージを軽減したいというそのお気持ち、よくわかります。
一般に、白髪染めと呼ばれているのは「酸化染毛剤」。
薬機法(※)の分類では、「医薬部外品」(医薬品と化粧品の中間に位置するもの)にあたります。
※薬機法 正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」。医薬品や医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品について、開発・承認・製造・販売・広告などに関する規制を定めた法律。
また、酸化染毛剤には、白髪染めとはまた違う「おしゃれ染め」がありますが、おしゃれ染めも「髪の毛の内部に色を入れ、髪の持っているメラニン色素を分解して明るさを調整する」という髪を染めるメカニズムは白髪染めと同じです。
ただ、白髪染めは色がない白髪に濃い茶色(ほぼ黒に見えるような、黒に限りなく近い色も含む)を入れて黒髪との色の差を少なくすることを主目的としているため、「しっかり色がつく」よう設計されています。
一方、おしゃれ染めは、好みの色をきれいに出すことを主目的としているため、「ブリーチ(髪にもともとあるメラニン色素を壊す)力とその上に重ねる色の濃さを調整して好みの色を表現できるように設計されている」という違いがあります。
そのため、おしゃれ染めでは、白髪が染まりにくいといわれています。
例えば、よくあるふたつの薬剤を混ぜるクリーム状の製品。これは「酸化染毛剤」の分類になります。
〔ふたつの薬剤を混ぜるクリーム状の製品例花王「ブローネ ルミエスト」。少しくらい白髪があっても明るい髪色を楽しみたい、という人に向け、ピンクやアッシュ系など選ぶのが楽しいカラーバリエーションは全12色。黒髪も白髪もバランスよく染まります。ひと箱でセミロングヘア1回分ですが、残ったものは次のためにとっておけるのもうれしい〕
また、近年ホームカラー用商品として人気の泡タイプや2種類のクリームやムースが一緒に出てくるエアゾール式も、同じく「酸化染毛剤」で、「医薬部外品」に分類されるものです。
〔泡タイプの製品例がこちらの花王「ブローネ 泡カラー」。毛束の根元まで行きわたりやすい超浸透泡が、自分ではチェックできない後頭部の髪や髪の内側などにもすべり込むので、染め残しの心配がありません。ホームケア初心者、不器用さんにおすすめ〕
これらの「酸化染毛剤」は「アルカリ剤」「酸化染料」「過酸化水素」などがおもな成分。「アルカリ剤」には毛髪を膨らませて、キューティクルの隙間を広げる役割があります。
こうして広がったキューティクルの隙間から「酸化染料」を入れ、髪の内部に浸透させます。
毛髪内に浸透した染料は、酸化して結びつくこと(重合)で発色します。同時に、「過酸化水素」の作用によって、もともとあるメラニン色素を分解して髪色を明るくすることで、きれいに発色するよう働きかけます。
この方法は、黒髪を明るく染めるおしゃれ染めも、白髪をカバーする白髪染めも基本的には同じ。
色もちはだいたい1~2カ月間といわれています。しっかり髪の内部まで染めて、色を長持ちさせるのに効果的な染め方です。
ただし、染料を髪の内部に浸透させるために、毛髪を膨らませることで、キューティクルも広がるので、髪にはある程度の負担にはなります。
セトッチ:「キューティクルを広げる」と聞くと、すごく傷む状況をイメージしてしまいます。髪の中の成分が抜け出ていってしまうような…。
アリミノ 田中:これは私からお答えしましょう。髪の毛の構造は、よく「のり巻き」に例えられるのですが、いちばん外側の「のり」にあたるのが「キューティクル」です(参考:のり巻きのご飯にあたる部分をコルテックス、具材にあたる部分(芯の部分)をメデュラといいます)。
キューティクルは半透明で、うろこ状に少しずつ重なるよう8枚前後、平たく重なっています。
キューティクルの重なりが多い人と少ない人など、個人差があり、キューティクルの重なっている枚数が多くて層が厚い髪ほど、太くて硬い髪になります。
また、通常はこのキューティクルとキューティクルの間は閉じていて、さらにそこには脂質成分が存在します。
健常な毛髪ではこの脂質成分が髪の内部組織を守る働きをしていますが、染毛剤はキューティクルを開いて脂質成分を分解して染料を入れるので、キューティクルを開いたままにしておくと、髪の中の成分が流失してしまう恐れがあるのです。
セトッチ:なるほど。「髪が染まるメカニズム」は見方を変えれば「髪が傷むメカニズム」でもあるということですね、う~ん悩ましい。
しっかり染まるということは、イコール傷みやすいといわれる理由がわかりました。
「しっかり染めたい」でも「ダメージを減らしたい」というふたつの望みは、相反する望みということですよね。難しいですねぇ…。
花王 島津:そこで、キューティクルが広がったままにしないよう、染めたあとに、トリートメントなどで表面をコーティングしてキューティクルの開きを抑え、髪の成分の流失を抑えるケアが大切になります。
近年は、染毛剤にトリートメント成分が配合されていて、染料が髪の中に入っていくのと同時に、ヘアケア成分も髪の内部に浸透させるようになっているものも増えています。
セトッチ:そういえばサロンでは必ず、トリートメントメニューとセットになっているコースをすすめられますね。
アリミノ 田中:サロンでは、白髪染めをする際に、トリートメントをオプションでプラスできるメニューも充実しています。「染める前のトリートメント」「洗い流す際のトリートメント」「ドライヤーで乾かす際のトリートメント」など。
こうした数種あるオプショントリートメントが、髪の成分が抜け出る危険性の高いタイミングでカバーし、傷みを可能な限り防いでくれます。
髪のプロである美容師さんが、こうしたケアをしっかりしながら、髪を染めてくれるというのが、サロンで髪を染めるいちばんの魅力だと思います。
セトッチ:ホームカラーもサロンでの染毛も、ともに今は白髪染めをしながらヘアケアもできるというのはいいですね。染毛剤も染める方法も、どんどん進化しているのはうれしいです。
表面だけを染めるカラートリートメントやヘアマニキュアはダメージが少ない
セトッチ:そういえば最近は、「カラートリートメント」と表記されている製品を売り場や広告で多く見かけるようになっていて、気になっていました。
名前からして、いかにも髪によさそうですよね。髪が傷まないというイメージですが、染毛剤とはどう違うのでしょうか?
〔カラートリートメントの製品例、花王「ブローネ カラートリートメント」。パールプロテインエキスなど3種の美容成分を配合。美容室で染めた髪色にも合わせて選べるカラー展開で、〝白髪染めはサロン派〟にも人気。染めている時間も楽しめるようアールグレイの香りというのも画期的!〕
花王 島津:カラートリートメントは、薬機法で言うと「染毛料(化粧品)」に分類されます。
染毛剤が髪の中心部まで染料を入れるのに対して、カラートリートメントは、髪の表層部(キューティクルの内側くらいまで)に色をつけるイメージです。
染毛剤のように、アルカリ剤でキューティクルを広げるということをせず、キューティクルの隙間から染料を徐々に浸透させていくので、髪への負担はほとんどありません。
また、頭皮や髪をケアする成分を染料とともに入れていくので、傷みにくいです。ただし、これだと1回で一気に染めることはできないので、数回使用して徐々に白髪を目立たなくするという方法です。
セトッチ:髪の表面に色をつける方法というと、ヘアマニキュアもありますよね。
マニキュアも「外側をコーティングするだけ」ですよね。これも傷まないというイメージなのです。
花王 島津:ヘアマニキュアも、カラートリートメントと同じく「染毛料(化粧品)」に分類されます。
これも、カラートリートメント同様、キューティクルの隙間から染料を入れる方法で、髪の表層部(キューティクルの少し内側くらいまで)に色をつけます。カラートリートメントと違って、浸透促進剤という染料をより多く浸透させるための成分が入っているので、1回の使用である程度白髪をカバーできますが、色もちは2週間くらいで、染毛剤よりも短くなります。
セトッチ:そうなんですね! ヘアマニキュアも染料を髪の毛の中に入れるのですね。
マニキュアというネーミングから、「爪に塗るマニュキュア」のように、表面をコーティングするだけなのかと思っていました。
花王 島津:染毛剤ではないので、しっかり染めるというよりは、白髪を目立たなくするという感じです。
脱色しないので、染める前の髪色より明るくすることはできないという性質もあります。
でも、ツヤやハリが出るので、そこがヘアマニキュアの魅力です。
そのときだけ、さっと白髪を隠せる一時染めは神商品!
セトッチ:頭皮への刺激を考えると 次の白髪染めまでどのくらい間隔をあけたほうがよいでしょうか?
アリミノ 田中:頭皮に関してはターンオーバーが約28日ですので、1カ月に1回であれば、問題ないといわれています。
イーラル 大原:髪へのダメージを考えると、白髪染めの間隔はできるだけあけるに越したことはないのですが、白髪が気になる感覚には個人差があると思いますので、目安としては、短くても2週間程度はあけるとよいと思います。
理由としては、髪にアルカリが残留することでダメージが進行してしまいますが、シャンプーなどで髪を健康な状態(等電点pH4.5~5.5)に戻してあげるのに2週間ほど(pH調整能力のあるシャンプー使用の場合は1週間ほど)かかるためです。
でも、もっと頻繁に自分で染めたいという場合は、先ほどお話に出たカラートリートメントを使用するのもよいでしょう。
毎日使用しても問題ありません。
アリミノ 田中:そのほか、「一時染毛料(または一時着色料)」と呼ばれる、毛髪の表面に着色剤を付着させて、一時的に着色する製品もあります。これは分類としては化粧品です。
コロナ禍で白髪染めをあまりちゃんとしていないときにも、リモートミーティングのときはさっと塗ってカバーできるということで、人気が急に高まりました。
〔上の写真:サロンで白髪染めしておよそ1カ月経過したライター、セトッチの髪。生え際の髪が顔の周囲をぐるりと1cm以上白くなっています〕
〔上の写真:アリミノの一時染毛料「カラーストーリー プライム ポイントファンデ」を使用し、さきほどの写真の伸びていた生え際の白髪を隠してみました。ブラシに少量とったら、数回、髪の白い部分をなでるだけでここまでカバーできました! 簡単でしかもとても自然な感じに! 下の写真:これがアリミノ カラーストーリー プライム ポイントファンデ M。パウダー状の染毛料がしっかり白髪を隠し、塗布したあとに髪の根元がぺたんこになる心配もありません。サロン専売品〕
アリミノ 田中:一時染毛料はマスカラ やファンデーションのような感覚で、ピンポイントで、隠したい白い髪の表面に一時的に色を塗るだけですから一度のシャンプーで洗い流せます。
こうした商品を上手に活用して伸びてきた白髪を目立たなくし、染毛剤を使って染める頻度を下げるというのも、ダメージを減らすひとつの方法です。
一時染毛料はドラッグストアなどでも買えますし、サロンで購入できるものもあります。
〔ドラッグストアでも手軽に買える白髪用一時着色料(一時染毛料)花王「ブローネ ヘアマスカラ」。使うたび感心するのがブラシの秀逸さ。髪に塗布しやすく、さっときれいに染められます。しかも速乾! この連載の担当編集者ギリコも愛用しているそうで、「これがないとお出でかけできない」とのこと〕
セトッチ:なるほど。染毛剤でしっかり染めて、白髪が気になってきたら、一時染めで次のカラーまでの期間を長くするという手もありますね。
カラートリートメントを日常的に使ってにつねにきれいな色をキープするというのもよさそうですし、こんなにいろいろ商品があるなら、自分に合った「白髪染め計画」が立てられそうで、うれしいです。
取材・文/瀬戸由美子