【この回の質問に答えてくださった方】
大正製株式会社2020年入社。研究本部セルフメディケーション研究センター 製剤第3研究室所属。ヘアケア製品やその他OTC医薬品外用剤の開発に約4年従事。
2019年に日華化学株式会社に入社。シャンプー、ヘアトリートメント、頭皮用エッセンスなど、サロン専売のヘアケア商品の処方開発を担う。入社当初より、イーラルブランドに携わり、開発担当者として処方設計やエビデンスデータの取得に携わる。
「白髪のなりやすさ」に大きく影響するものとは
セトッチ: 考えてみたら、私が白髪を気にするようになったのは30代後半からで、周囲の友人たちと比べても、ちょっと早めだなぁと思いました。白髪になりやすい人、なりにくい人っているのでしょうか?
大正製薬 廣岡:白髪のなりやすさは遺伝という部分も大きいですね。
セトッチ:ああ。そういえば、父親は髪の量は多くてふさふさでしたが、白髪が多かった記憶があります。
大正製薬 廣岡:遺伝のほかにも食事、運動、睡眠などの生活習慣は、白髪のなりやすさに大きく関係しています。
セトッチ:では、食事から順番に教えていただけますか。白髪予防にはどんな栄養素を意識してとるとよいでしょうか。
大正製薬 廣岡:まず、美しい髪を作るために必要なのはタンパク質。なぜなら、髪の主成分はタンパク質だからです。また、髪の色のもとになるメラニンとなるアミノ酸も、食事から摂取するタンパク質に含まれます。
タンパク質は、皆さんもよくご存じのように、筋肉や皮膚、血液、内臓など、体のさまざまな部分を作る材料になります。
ダイエット中も筋肉を落とさないようにとか、肌を老化させないようにタンパク質をしっかりとることが大切、といわれるのはそのためです。
タンパク質は肉や魚、大豆食品、乳製品、卵などに多く含まれます。
また、髪の成長をサポートする亜鉛も重要です。亜鉛は細胞分裂が正常に行われるよう働くミネラルなので、美髪や美肌に大切な栄養素としてよく知られています。
亜鉛を多く含む食品としては、牡蠣をはじめとする魚介類、牛肉や豚肉、ナッツ類など。
幅広い食品に微量ずつ含まれます。
そのほか、鉄も重要。
鉄は、髪の色素である「メラニン」を作る細胞「メラノサイト」に、必要な酵素を届ける働きを持っています。
健康な髪が生えるために必要な栄養は頭部の毛細血管を通して運ばれるため、血流を良好に保つよう気をつけたいもの。鉄は良質な血液を作る材料であり、血流をよくするのに欠かせないミネラルです。
レバーや牛肉、大豆製品、魚ではカツオやブリに多く含まれます。
さらに、ビタミンB群も美しい髪や肌のため、ダイエットのため、意識してとりたいビタミン。
摂取した糖質や脂質、タンパク質の代謝を促す働きがあります。
ビタミンB群は、豚肉や鶏肉、マグロ、大豆食品などに含まれます。またビタミンB群の一種、葉酸には貧血を予防する働きもあります。
セトッチ:なるほど。いろいろな食品をとる必要がありますね。
大正製薬 廣岡:一般的に健康維持に大切な食事とよくいわれる「バランスのよい食事」というのが、白髪予防においても大切ですね。
運動で全身の血流アップ! いつでもどこでもできる背伸びもおすすめ
セトッチ:次は運動について。イーラルの大原さん、教えていただけますか。
白髪予防には頭皮の血流をよくすることが重要とのことですが、血流をよくするといえば運動も関係ありますよね。
イーラル 大原:そうですね。白髪を予防するには、毛髪にきちんと栄養が届いていなければなりません。
栄養は血液によって頭皮に運ばれてくるので、血行をよくすることは大切です。
セトッチ:頭皮の血流をよくするというと、運動のほかには、頭皮マッサージがすぐに頭に浮かんできます。
究極の質問ですが、全身運動と頭皮マッサージ、どちらが白髪予防にはより効果的でしょうか?
イーラル 大原:うーん。どちらも大切ですが…。まず、優先するとしたら、全身運動ですね。
まずは全身運動で全体の血液の巡りをよくしておいてから、頭皮のマッサージもすれば、さらによいと思います。
セトッチ:それは、感覚的によくわかりますね。
私は冷え症なので、寒い時期は、手足が冷蔵庫に入っていたお肉のように冷たくなってしまいます。
そんなとき、一生懸命、手や足をマッサージしてもなかなか温まりませんが、ひと駅分くらい早足で歩いて、うっすら汗が出るくらいになると、手足の冷えも気にならなくなっています。
大正製薬の廣岡さん、運動についてはいかがでしょうか?
大正製薬 廣岡:確かに、運動は大切です。
運動によって筋肉を鍛えると、成長ホルモンを促すことができるので、髪の健やかな発育にもよい影響があると思います。特に筋トレと有酸素運動の組み合わせがよいといわれています。
適度な酸素を体内に取り入れることができる有酸素運動は、老化予防に有効といわれており、白髪予防にもおすすめです。
セトッチ:有酸素運動というとジョギングなどでしょうか?
こうした運動をしようと思っても、わざわざ外に出て…と考えると腰が重くてつい…。
大正製薬 廣岡:運動に時間が割けない方や、苦手という方は、家事をテキパキ行う、階段を使うなど、日常生活の中で体を使う時間を増やせたらいいですね。
また、おすすめは「背伸び」です。背伸びなら、いつでも、どこでも、どなたでも、簡単にできますよね。
それでいて自律神経が整う効果が期待できます。
背伸びをすることによって、背中全体の筋肉、背骨の脇の筋肉が伸びて、酸素が取り込まれ、心身のバランスが整うようになります。
セトッチ:えっ、背伸び!?
背伸びを運動ととらえたことがありませんでした。
背伸びなら簡単だし、気分転換にもなりそうなので、仕事の合間などにやってみます!
睡眠不足、ストレスは髪の健やかな成長を阻害する
セトッチ:美肌に十分な睡眠は欠かせない、ということはよく知られているので、きっと美髪にも睡眠は重要ですよね。
大正製薬 廣岡:そうですね。成長ホルモンは睡眠中に最も多く分泌されるので、睡眠不足になると髪や肌の健やかな成長が阻害されます。
特に入眠から3時間後くらいに、眠りが最もが深くなり、睡眠の質もピークになります。そして、成長ホルモンがしっかり出るのは、このときといわれています。
また、適切な睡眠時間には個人差がありますが、だいたい6~7時間はしっかり眠るようにしましょう。
セトッチ:そうですか…。でも50代に入った頃から、どうも寝つきが悪くなってしまっていて…。
更年期症状のひとつなのかもしれませんが、眠ろうとすればするほど、いろいろなことを考えてしまって眠れなくなります。
イーラル 大原:セトッチさん、ちょっとストレスがたまっているのかもしれませんね。
実は、ストレスは白髪の原因のひとつといわれています。
私たちの脳内では、さまざまな脳内ホルモン(神経伝達物質)が働いていますが、ストレスにさらされると、その中のひとつ「ノルアドレナリン」が多く分泌されます。
ノルアドレナリンには覚醒作用があり、過剰に分泌されることで、睡眠障害が起こる可能性が高くなります。
さらに、そのノルアドレナリンと密接に関係してくるのが「色素幹細胞」と呼ばれるものです。
色素幹細胞とは、メラニンをつくってくれる「メラノサイト」のもとになる赤ちゃんのような細胞のことなので、色素幹細胞がないとメラノサイトが合成されず、メラニンが正常につくられなくなります。
なので色素幹細胞はとても重要なものなのですが、ノルアドレナリンが過剰に分泌されると、色素幹細胞の増殖を妨げてしまうので、メラニン合成の低下につながってしまいます。
セトッチ:ストレスって、健康を害する大きな原因とよく言われますが、髪にも悪影響があるんですね…。
大正製薬 廣岡:人間はストレスを受けると、自律神経が乱れて血流が悪くなります。頭皮の血流の悪化は白髪の原因になります。
セトッチ:そういえば…。マリー・アントワネットなどの歴史上の人物の伝説や、著名人の経験談として「ストレスで一夜にして髪が真っ白になった」というような話を聞いたことがあるのですが、そういうことはあり得るのでしょうか?
大正製薬 廣岡:すでに生えている毛髪自体は死んでいる細胞なので、一夜でメラニン色素が抜けるなどの変化が起こることは考えられません。
ですから、一夜にして黒髪が白髪に変化するようなことはないですね。
ただ、極度にストレスを受けた場合に、これから生えてくる毛髪が白髪になる可能性はあります。
また、ストレスは脱毛の原因になり得ますが、白髪は黒髪と比べると脱毛しにくいとされる報告もありますので、極度のストレスを受けた際、白髪ではなく黒髪が多く抜けてしまい、その結果「白髪が増えたように見える」ということはあるかもしれません。
セトッチ:ストレスは抜け毛にもつながるのですね。気をつけたいと思います。
紫外線や摩擦などの刺激から、頭皮や頭髪を守る
セトッチ:白髪の要因となる要素をひとつでも減らしていきたいと思っていますが、食事、運動、睡眠、ストレス。
このほかに、白髪予防のために気を付けるべきことはありますか?
イーラル 大原:紫外線から守ることもぜひ意識していただけたらと思います。
紫外線を受けると毛髪はヤケド状態となり、キューティクルの損傷をはじめ、メラニンが破壊されるリスクがあり、大きなダメージを受けてしまいます。
また、ヘアカラーをした際、染料は「重合」といって、染料同士が手を取り合って毛髪内部で巨大化することで、色として見えるようになります。
ところが、紫外線はその重合によって結んだ手を切り離してしまい、キューティクルの隙間から流失しやすくしてしまいます。
帽子をかぶるなど、紫外線ケアをしてあげることをおすすめします。
セトッチ:そういえば、「白髪は抜くと増える」とよく言われますが、実際、抜いてしまうことで白髪は増えるのでしょうか?
イーラル 大原:白髪を抜くことで毛根に負担がかかり、炎症が起きるなど、頭皮環境を悪化させてしまいます。
そうなることで周りの毛根にも悪影響を与え、白髪の要因となることで、白髪が増えたように感じる可能性はあります。
ですから、白髪は抜かずに、短く切って、頭皮に刺激を与えないようにするとよいでしょう。
セトッチ:頭皮や髪はデリケートなのですね。余計な刺激を与えないことが大切ということでしょうか。
イーラル 大原:あとは摩擦ですね。キューティクルはとても薄くほぼ透明なので、肉眼で黒く見えることはないのですが、強い摩擦や静電気によってパラパラと剝がれ落ちることがあります。
セトッチ:そういえば、最近シルクのナイトキャップが流行っていますね。
眠っている間、枕に接触している髪を摩擦から守るとのこと。摩擦から髪を守るということであれば、ぜひ試してみたいと思います。
白髪予防によいといわれる生活習慣をできるだけ実行して、白髪が増えないよう頑張ります!
取材・文/瀬戸由美子 写真/unsplash