「お話を伺った方」
1995年、東京大学大学院医学研究科修了。東邦大学付属大橋病院皮膚科勤務を経て、2003年、医療法人社団 優恵会 銀座よしえクリニック大岡山院(旧ひろせ皮フ科)開設。2015年、銀座よしえクリニック総院長に就任。銀座・大岡山・表参道・都立大学・新宿・池袋・横浜・六本木の8つのクリニックを展開。著書に『美容皮膚科医が本気で教える肌の悩み別対処法 「若いね」といわれる美肌づくり』(角川フォレスタ)。
血小板の中の成長因子を利用し、頭皮に注射
ギリコ:廣瀬先生のクリニックではシミやシワの改善などとともに、薄毛や脱毛、白髪といった毛髪の悩みに対する治療も行っているということですが、そのひとつがクリニックのHPに「白髪注射」とあるものなのですよね?
廣瀬:そうです。ヒアルロン酸、アミノ酸、ビタミンをはじめ毛髪の成長を促し、頭皮の血流も改善する成分で構成される「Cellbooster®HAIR (セルブースターヘア)」を頭皮に注射するという治療法です。
頭皮にこれらの栄養を与えることで毛根を強化し、毛髪の成長の促進、頭皮の血流の改善を行って、抜け毛や脱毛症、白髪を改善・予防します。
そして多くの患者さんが、これに「CPC-PRP®」を組み合わせた「CPC毛髪再生プラス」という治療を行っています。
セトッチ: CPC-PRP®というのは、自分の血小板を培養したものを注射するという、再生医療を応用した治療なのですよね?
廣瀬:そうです。患者さんから採取した血液から、多血小板血漿(PRP)を抽出し、濃縮したものがCPC-PRP®。
CPC-PRP®を、「Cellbooster®HAIR (セルブースターヘア)」に1㏄プラスして頭皮に注射することで、毛髪の成長を司る「毛母細胞」や、髪の色素を作る「メラノサイト」を活性化し、発毛・育毛を促し、白髪を改善します。
セトッチ:血小板…昔々、小学校の理科で習った記憶がうっすらとあります。確か、ケガをしたときに「かさぶた」を作って、止血する役割があるのでしたよね?
廣瀬:そうです。そして、止血するだけではなく、血小板の中にはさまざまな成長因子が含まれていて、傷の修復も行ってくれるのです。
CPC-PRP®は毛髪だけでなく、目元のシワや目の下のくまやたるみのほか、ほうれい線、毛穴、にきび跡、赤み、口まわりの小ジワなど、さまざまな肌悩みの改善にも用いられている治療法なんですよ。
セトッチ:血小板がそんなにすごい働きをするなんて。知りませんでした!
廣瀬:自分の血液から抽出し培養されたものなので、安全性が高いということでも人気があります。
一般に肌のアンチエイジングに多く用いられている注射を使用しての治療に対し〝自分の体にとっては異物を入れることでは〟と、懸念を抱く方もいます。
例えばシワやたるみの改善を目的とした注射をしたら、過度に効果が出て顔がむくんだようになってしまうのではないかとか、不自然なハリが出るのではないかとか…。
その点、このCPC-PRP®は、もともと自分の血液の中にある血小板から作ったものですから、異物に対する反応、いわゆるア
レルギー反応などが出るといったリスクが低いのです。
自分自身のコラーゲン産生能力を引き上げて、肌や髪を再生していくという仕組みなので、過剰な反応が起こる心配がないというのがこの治療の一番の利点です。
セトッチ:「もともとは自分の体内にあったものを注射する」と理解すれば、確かに安心しますね。
クリニック内の細胞加工施設で生成しているから高品質
ギリコ:白髪注射に使用するCPC-PRP®は患者さん自身の血小板から作るということですが、どこで作っているのですか? 海外ですか? それとも国内ですか?
廣瀬:患者さんから採った血液は、私どもの7つのクリニックのうちの1つ、都立大の院内にある、CPC(Cell Processing Center:細胞加工施設)で作っています。採取した血液を遠心分離機にかけて、赤血球や白血球などを排除し、血小板を抽出して、PRPを生成します。
〔上の写真:都立大の院内にある、CPC(Cell Processing Center:細胞加工施設)でPRPを生成している様子(クリニックHPより)〕
セトッチ:先生の7つのクリニックのうちのひとつに、細胞加工施設があるんですね? それはすごい! こうした白髪注射を行っているクリニックは、どこでも、そうした施設を持っているものなのですか?
廣瀬:いえ、「どこでも持っている」のではないと思います。こうした特定細胞加工物製造施設は、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律第35条第1項」の規定により、厚生労働省が管轄する地方厚生局からの許可が必要です。
銀座よしえクリニック(医療法人社団 優恵会)は国の定める基準をクリアし、認可された細胞加工施設を院内に設置しています。
セトッチ:厳しい基準があるのですね。
廣瀬:日本で再生医療は、法律によって管理されていて、PRP治療を行うには認可が必要です。厚生省が厳しい基準を設けていて、それに合格した医療機関でしか行えません。
セトッチ:ということは、こうした細胞加工施設を自分の院内に持っていないクリニックは、外注というか、どこか外部の施設に細胞の加工をオーダーするのですか?
廣瀬:はい。専門機関に依頼するか、または、市販の細胞加工キットのようなものが何種類かありますので、そうしたキットを購入して行っている医療機関もあります。
セトッチ:市販のキット? それはなんだかお手軽なイメージです。素人が聞くと、大丈夫なんだろうか…と不安になります。
廣瀬:もちろん、心配は無用です。キットでもきちんとしたものを作ることは可能です。ただ、私たちのクリニック内にある施設は、幹細胞も培養できるほどの設備が整っているので、キットを使って調剤したものより、クオリティが高いということは言えると思います。
セトッチ:やはりそれに特化した専門の施設が作っているもののほうが、品質が高いというのは当然といえば当然ですよね。
廣瀬:なお、血小板を利用して行う治療は、再生医療の中でも安全性の高いものの部類に入るんですよ。
手動と機械で頭皮に注射。施術後は刺激を避けて
セトッチ:それでは、クリニックを訪れたときに患者さんが体験すること、つまり治療までの流れを教えてください。どんなことをしますか?
廣瀬:まずは診察ですね。患者さんの髪悩みを伺って、治療方針を立てます。それから治療の詳細をご説明し、リスクや副作用についてもお伝えします。
それから血液検査+血圧検査をします。何か基礎疾患を持ってないか、また、これから治療を始める際に体に問題はないかをチェックします。
セトッチ:先生…、注射というからには、針で刺すんですよね? 頭皮にどうやって刺すのでしょうか(プルプル…)。
廣瀬:頭皮に何百カ所も細かく入れていきますが、これは手動と機械を併用します。細かい針で頭皮全体に薬を入れていきます。
〔上の写真:銀座よしえクリニックHP「ミノキシジル注射」より〕
セトッチ:仕事帰りにクリニックに立ち寄り、治療を受ける人もいるそうですが、美容院でヘアカラーなどをする感覚で手軽に受けられちゃうんですか?
廣瀬:いえ。これはやはり医療行為なので、決して「手軽」ではないです。
来院したらまずは洗髪をして、頭皮を消毒してから注射をします。
終了した後、消毒をして整え、軽く消毒液を流し、髪を乾かして帰宅していただきます。注射した直後の整髪剤の使用はNGです。
セトッチ:帰宅後は洗髪してもいいのですか?
廣瀬:お湯で髪の汚れを軽くとる程度であれば。
翌日からは、軽く洗髪しても大丈夫です。カラーやパーマは2週間以上あけるようにしてください。
ギリコ:毛髪は1cm伸びるのに約1カ月かかるため、治療の効果を感じるまでに少し時間が必要なのですよね?
廣瀬:1クール(2週間に1回×5回)を基本としていますが、効果を感じるまでには個人差があります。
ギリコ:痛みや副作用はありますか?
廣瀬:治療には軽い痛みを伴うことがありますが、ごくわずかで、ほとんどの方が耐えられる程度のものです。
稀にですが、軽い副作用(赤み、腫れ)が出ることはあります。
ギリコ:ほかに、控えたほうがよいことはありますか?
廣瀬:治療中はアルコールの摂取や過度の喫煙は控えたほうがよいと思います。また、刺激の強いヘアケア製品の使用も避けるようにしてください。
毛髪や色素を作る細胞が元気なうちに治療をスタート
ギリコ:白髪に悩んでいる人は私の周囲にもいっぱいいるので、こういう治療法があることを教えてあげようかなと思いますが、この治療ができないという人もいるのでしょうか?
廣瀬:特定のアレルギーを持っている方、自己免疫疾患を持つ方、妊娠中または授乳中の方、重篤な皮膚疾患を持つ方は、治療が適していない場合があります。まずは医師の診断が必要です。
ギリコ:治療によくない影響を及ぼすので、気をつけてほしいということはほかにありますか?
廣瀬:白髪の治療結果には、遺伝的要因やホルモンバランスが影響しますが、生活習慣も重要です。栄養バランスのよい食事、適度な運動、十分な睡眠など、健康的な生活習慣を心がけることが大切です。特に、ストレスは髪の状態と密接にかかわっていて、過度なストレスは白髪や脱毛を悪化させることがあります。
医療で提供できるのは、原因に対して改善できる範囲内のことです。
白髪や脱毛に関していえば、①栄養を与えて、②血流を改善し、③成長因子を与えること。
ですから治療と並行して、生活習慣の改善を意識していただくことも重要ですね。
「こういう生活習慣は白髪や抜け毛に関係あります」と患者さんにはお話ししていますが、あとは本人がどこまで努力できるかということになります。
セトッチ:最初の診察で、「これは治療を行っても無理だな」と判断されるケースもあるのですか?
廣瀬:老化、加齢、病気などにより、髪を作る毛母細胞や、髪色を作るメラノサイトや、その元になる色素幹細胞などが完全に機能を失った場合です。こうした場合は、治療で改善するのはもう難しいですね。
セトッチ:それらの細胞にまだそうした機能が残っているのかは、診察で判断できるのでしょうか? それとも、やってみないとわからないのでしょうか?
廣瀬:そうですねぇ。やってみないとわからないこともありますが、「これはもう難しいな」と診察で判断できることもあります。例えば、ダーマスコープ(拡大鏡)で頭皮を見たときに、通常毛穴から2~4本の細い毛がひょろひょろっと出ているので、その状態でしたら可能性はあり、ある程度期待できるというふうに判断できます。
でも、完全に毛穴が閉まってしまっている状態だと「治療しても無理だろう」という判断になります。
ギリコ:毛穴が完全に閉じてしまったら、もうダメ…なんですね。そう考えると、白髪や薄毛などは気になり出したら、早めに治療するほうがよいということですよね。
廣瀬:頭皮は髪の毛を育てる畑のようなもの。あまりにも長く畑をほったらかしにしておくと、急に栄養を与えてもすぐに土壌を改善するのは難しいように、頭皮も改善するのが難しくなってしまいます。
ですから、頭皮の状態が悪化し始めたら、早めに治療を開始したほうがいいです。もし、「白髪」や「抜け毛」などが気になったら、お早めにいらしてくださいね。
セトッチ:先生のクリニックには、全国から患者さんがいらしていると聞きました。
廣瀬:はい。私たちのクリニックには、飛行機や新幹線を使って遠方から来る方もいます。毛髪再生だけでなく、肌の治療も含めたCPC-PRP®の治療としては、1カ月で150名くらい、年間1500~1800人くらいの患者さんがいらっしゃるので、これまでトータルで5000~6000人がこの治療を受けたということになります。
セトッチ:そんなにたくさんの方が受けているのですね。驚きました! 今日は詳しいお話をありがとうございました!
<取材を終えて>
セトッチ:ギリコさん、白髪注射ってすごいですね。世の中進んでいますね。びっくりしちゃいました。
ギリコ:再生医療は本当に日進月歩なので、まだまだ進化していくと思いますよ。
セトッチ:そうなんですね~。勉強になりました!
ギリコ:今後も私のアンテナに引っかかった白髪対策、白髪染めしている人におすすめの情報を見つけたら、即セトッチさんにお知らせしますから、お楽しみに!
銀座よしえクリニック銀座院
東京都中央区銀座2-5-11 V88ビルディング5階
診療時間/10:00~14:00、15:00~19:00
土日祝日は10:00~14:00、15:00~18:00
(予約制)予約はWebまたは電話にて。
総合窓口電話(フリーダイヤル)0120-398-885
CPC毛髪再生プラス(CPC-PRP®+セルブースターヘア)
1クール(5回セット)¥350,000(税込み¥385,000)
(1回あたり¥70,000(税込み¥77,000))
※CPC毛髪再生プラスは、1回の採血で5回分生成します。そのため1クールは必ず5回セットとなります。
取材・文/瀬戸由美子