南果歩さんが、ギリシャ悲劇の舞台に立つ。
重い? 難解? そんなイメージを軽やかに裏切って、
彼女が演じるのならきっと、バイタリティあふれる明るい舞台になるはず。
撮影/萩庭桂太 ヘア&メイク/黒田啓蔵(Three PEACE) スタイリスト/中井綾子(Crêpe) 取材・文/岡本麻佑
南果歩さん
Profile
みなみかほ●1964年1月20日、兵庫県生まれ。1984年に映画『伽倻子のために』(小栗康平監督)の主役でデビュー。『夢見通りの人々』(89)でエランドール新人賞、同作と『螢』(89)でブルーリボン賞助演女優賞、『お父さんのバックドロップ』(04)で高崎映画祭最優秀助演女優賞を受賞。近年の主な出演作に、舞台『パーマ屋スミレ』(12、16)、ドラマ『定年女子』(17)、映画『オー・ルーシー!』(18)などがある。オムニバス映画『21世紀の女の子』は2019年新春公開予定。
ギリシャ悲劇は、自分の人生を
俯瞰で見ることを教えてくれます
南果歩さんは、いつも明るい。
ここ10数年、取材で何回かお目にかかっているけれど、いつも元気で、素敵な笑顔を見せてくれる。
2018年12月の舞台公演に向けてインタビューに応じてくれた今回も、真っ赤なニットワンピースで、元気な姿を見せてくれた。今回演じるのは、王女イオカステ。ギリシャ悲劇『オイディプス王』のキーパーソン、オイディプスの妻で実は母でもある役だ。
「古典劇を演じるチャンスはなかなか巡ってきませんから、やれるときにやっておきたいんです。しかも今回は注目の若手演出家・杉原邦生さんが演出して下さるし、主役のオイディプスを演じるのが、まだ22歳の中村橋之助さん。きっとすごく現代的な、新しい『オイディプス』が生まれると思うんです」
本作は、紀元前に生み出されたギリシャ悲劇の最高傑作。
先王を殺害して王位についたオイディプスは、妻イオカステとの間に4人の子どもを持ち、国を治めていたが、ある日、自分が殺した先王こそ実の父であり、妻は自分の母だったと知る・・・・・。すごいお話!
「私も10代の頃、演劇を学んでいた学校でこの物語を知ったのですが、運命の中で人間が駒のように動かされていく、重たい話だという印象でした。でも30ン年後の今読むと、イオカステの強さ、愛情を裏打ちにした強さが理解できます。
人間は確かに運命に左右されるかもしれないけれど、でもすべてが決められているわけじゃない。宿命としてある程度は定められていても、それに抗い、変えていけるものもあるはずだって、今読むとそんなふうに感じます」
今の私たちにも通じる何かが、その舞台にはきっとあるはず。
「人が悩むときって、自分の心の中をじーっと見つめていますよね。だから追い詰められてしまうし、逃げ場を失ってしまうし、希望を失ってしまう。でも時間が経ったり視点を変えることで、必ず突破口は見つかるんです。
ギリシャ悲劇は長いタームで人間の営みを映し出すし、人間をこう、俯瞰で観る視点を教えてくれるんですね。物語を見ながら、自分のこともふっと俯瞰で観ることができるようになる。そういう意味でギリシャ悲劇は、今の私たちにとっても、良い教材になると思います。
20歳のとき、映画で主演デビュー。以来スクリーンやテレビドラマで数多くの作品に出演してきたけれど、舞台の彼女も素晴らしい。キレの良い身体能力とよく通る声、卓越した演技力で、いくつもの作品に挑戦してきた。
「でもね、自信はないんです。ふだん、夢を見ない人間なんですけど、舞台の前だけ恐い夢を見て、汗びっしょりで目が覚めます。
初日、幕が上がる直前はいつも舞台袖で幕をつかんで、後悔しているんです。”どうして私はこの仕事を受けてしまったんだろう? なんでこれをやろうと思ったの? できるわけないのに! もう、2度と舞台なんかやるものか!”って(笑)」
それでも、舞台が始まれば生き生きと演じ、熱い拍手を受け、カーテンコールを繰り返し、千秋楽まで駆け抜ける。
「ですから私、自信はないけどギリギリまで頑張るという、揺れている状態が好きなんです、きっと。揺れていないと、そのくらいの気持ちで臨まないと、舞台は良い物にならないと思っているから。
ギリギリのところで成立しているものが新鮮だし嘘がないし、観る人に届くと思うから。今回もきっと、揺れます。ギリギリのところまで自分を追い詰めて、舞台に立つと思います」
さまざまな経験を乗り越え、すべてを笑顔に変えてきた果歩さんが演じるギリシャ悲劇は、どんなものになるのだろう?
(「私の人生、面白い!」とプライベートを語った、インタビュー後編はコチラ)
『オイディプスREXXX』(オイディプスレックス)
ソポクレス作のギリシャ悲劇を気鋭の若手演出家・杉原邦生が手がける注目の舞台。
2018年12月12日(水)~24日(月・休)
KAAT神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉
出演:中村橋之助、南果歩、宮崎吐夢ほか