“自分磨き”のための大人の手習い
Vol.10 【最終回】
女優の羽田美智子さんが精神科医であり禅僧でもある川野泰周さんに「すきま瞑想」についてお話を伺っていく本連載。情報過多な社会で、人々の価値観やモラルも変わりつつある今、私たちの体や心には疲れがたまっていると川野さんは言います。少しでも肩の力を抜いて前へ進むには、どうしたらいいのでしょうか。
今を楽に生きるために
今日からできる3つのこと
01
呼吸に集中して
フル回転している脳を小休止
10年前と比べ、情報量は1000倍以上といわれます。しかし私たちの脳の情報処理速度は昔と変わらないため、つねに脳内はマルチタスク(複数の作業を同時にもしくは短期間に並行して行うこと)状態に置かれているといえます。「私のクリニックには、脳が疲弊し、極度の疲労からうつ病や不安障害、自律神経失調症など、さまざまな不調を抱えた方が訪れますが、そのたびにマインドフルネスを提案しています。重要なのは、いったん脳をリセットして休ませてあげること。心を無にするのではなく、ひとつの対象に注意を向けるような瞑想をすることを指導します。例えば、ふわふわに泡立てた洗顔フォームで顔を洗う、好きなコーヒーをひと口ずつ大切に味わうなど、どんなことでもいいのです。これが"今"に集中できて、脳の疲れを取るのに有効な方法なのです」
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02
「ごめんなさい」で終わらせずに
「ありがとう」をつけ加える
謝罪の場面で結びの言葉をどう表現するかで、相手の心や脳のとらえ方が変わるといわれています。「ごめんなさい、失礼しました」では、自分がだめな人間だと刷り込まれ、相手にも失敗した印象が残ります。それに比べ「申し訳ありませんでした。でもこのような時間を作ってくださってありがとうございました」とつなげれば自分は前向きになり、相手も叱っただけでなく感謝されたと穏やかな気持ちが加わります。「"ありがとう"には自己肯定感を高める力があります。自分を大切にして他者に感謝することはとても大切なこと。言葉の力を借りて自他の心を変える取り組み、今日から始めていただきたいですね」
03
自分自身にねぎらいや
いたわりの言葉をかける
「自身が困っているとき、苦しいときこそ、"頑張っているね、それ以上無理をしなくていいよ。あとは時の運ですよ"といった言葉をかけてあげて」と川野さん。そのためにマスターしたいのが「慈悲の瞑想」。「大切な人を思い浮かべて、"あなたが幸せでありますように、あなたが健康でありますように、あなたが安全でありますように、あなたが心安らかに暮らせますように"と祈ります。次に自分に対しても、同じ祈りの言葉を繰り返します。この瞑想で、自分を大切にしていなかったことや、人に優しくする気持ちを持っていることに気づき、心が豊かになります。ぜひ試してみてください」
お話を伺ったのは…
Taishu Kawano
川野泰周さん
1980年生まれ。精神科・心療内科医。臨済宗建長寺派林香寺住職。RESM新横浜睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長。医学部卒業後、建長寺専門道場にて禅修行、2014年より上記寺院の住職に。寺務のかたわら、クリニックにて精神科治療に従事。薬物療法と並行して、禅やマインドフルネスの実践を含む心理療法を取り入れた治療に定評がある。『ずぼら瞑想』(幻冬舎)など著書多数
次回は、いよいよ実践。「すきま瞑想」を羽田さんが初体験します!
撮影/宮本直孝 ヘア&メイク/木下 優(ロッセット) スタイリスト/坂本久仁子 構成・原文/向井真樹