“自分磨き”のための大人の手習い
Vol.10 【最終回】
女優の羽田美智子さんが、精神科医で禅僧の川野泰周さんに「すきま瞑想」についてお話を伺う本連載。最後は、「歩く瞑想」をご紹介します。
「歩く瞑想」
坐禅で固まった体をほぐしながら、歩いている間も瞑想を続けて体と心を解放する方法です。足の裏だけに意識を集中して、歩くことを味わいます。
歩く動作から伝わる
足の裏の感覚に集中して
川野 心の中で「かかとが上がる」→「つま先が上がる」→「移動する」→「足がつく」と唱えながら動き、足の裏に感じるそれぞれの感覚に注意を向けます。こちらも呼吸瞑想と同じく、足の裏にだけ意識が集まるので、いろいろな考えを遮断することができるのです。
羽田 ひとつのことに集中するって、簡単なようで意外とできないものですね。
川野 “うまくやろう”とか“~しなくちゃ”と思うと、今この瞬間に意識を向けることが難しくなります。そして“うまくできなかった、やっぱりだめだった”と自分を責める気持ちが生まれて、不満やストレスをため込むことに。
羽田 「頑張らなきゃ」という思い込みを捨てることが、肝心なんですね。
川野 そのとおりです。ありのままの自分を肯定して、そんな自分を慈しむこと。これができる人は、軸がぶれることなく人にも優しくできるのです。
羽田 これが、日本人が苦手といわれる「自利利他」ということなんですね。
川野 はい。羽田さんは先ほど人には照れくさくて言えないことも、神さまや仏さまの前では素の自分が出せる、とおっしゃっていましたね。それは神や仏と向き合うことで心がほどけ、ありのままの自分を受け入れることができているのだと思います。素直にこれができるというのはすばらしいことです。
羽田 ありがとうございます。教えていただいた瞑想を、ぜひ生活に取り入れたいと思います。
足の裏の感覚に意識を集中する際、足元は見ずに背筋を伸ばし、目線は数メートル先の地面に落として。胸に置いた手を、もう片方の手で覆う「叉手(しゃしゅ)」にし、肘を張ってゆっくりと歩きます。床の感触や、足の裏の皮膚や腱の伸び縮みを感じながら、歩くことを味わいましょう
お話を伺ったのは…
Taishu Kawano
川野泰周さん
1980年生まれ。精神科・心療内科医。臨済宗建長寺派林香寺住職。RESM新横浜睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長。医学部卒業後、建長寺専門道場にて禅修行、2014年より上記寺院の住職に。寺務のかたわら、クリニックにて精神科治療に従事。薬物療法と並行して、禅やマインドフルネスの実践を含む心理療法を取り入れた治療に定評がある。『ずぼら瞑想』(幻冬舎)など著書多数
撮影/宮本直孝 ヘア&メイク/木下 優(ロッセット) スタイリスト/坂本久仁子 構成・原文/向井真樹