強すぎるメガネ・コンタクトで、現代人の目は疲弊している
千葉県佐倉市の「眼鏡のとよふく」が、目の不調の駆け込み寺と呼ばれ、全国からお客さんが押し寄せるのはなぜでしょうか。視力1.2とか1.5とか、遠くまでしっかり見える技術が身上であると思うかもしれません。しかし、どのような目が「いい目」かは、時代や年齢、環境により変わりますし、一人ひとりの個性によって異なると、とよふくさんは言います。
太古の昔、狩猟生活だったころの人々は、遠くの獲物を捉えるために遠視が多かったそう。しかし農耕文化の普及によって、道具を使った手元の作業が増え、次第に遠視→近視へ変わっていったという説があるそうです(現代では、欧米は遠視、アジアは近視が多い傾向にあります)。日本で高い視力が良しとされるのは、かつての軍国時代、徴兵制のもとで視力検査が義務づけられ、遠くの敵を見つけられるのが優れた兵士、とされたことの名残かもしれません。
そう考えると今、誰もがパイロットやハンターなど、遠くをくっきり見なくてはならない任務にないのに、このIT社会で、遠くまで見渡せる視力が必要でしょうか? むしろ現代人が留意すべきなのは、パソコンやスマホなど、近距離の画面を見続けても疲れにくい目、ではないでしょうか。ただし、元々ヒトの目は、長時間のスマホ作業や読書を続けるようDNA設計されていないので、近距離作業にも気をつけてほしいですが……とよふくさんは「くっきりはっきり」への警鐘を鳴らします。
遠くがくっきり見えるメガネで近距離作業を続けていたら、目はピント調節のため余計な力を使い、それだけでぐったり疲れてしまいます。これがどれだけ健康をむしばむエネルギーロスになっているか、多くの方は気がついていないそうです。
まして、40歳を過ぎて老境にさしかかり、省エネモードになっている目を、度の強いメガネやコンタクトレンズで視力1.2や1.5まで上げると、目が「無理!」と悲鳴をあげ、脳がパンクするのも無理はありません。このように、必要以上に見えすぎる目にしてしまうことを「過矯正」と呼びます。目のトラブルの大半は、過矯正のメガネやコンタクトが元凶なのです。
長時間作業をするうちに、目がショボショボと渇き、全身の凝りやだるさに悩まされる……「よく見えるはずなのに、調子がよくない」と悩む方の多くは、目のストレスが脳神経を通じ全身の不調へつながっています。しかし過矯正の状態で何十年も過ごすうちに、それが常態化し、感覚が鈍り、疲れているという感覚さえ麻痺してしまっているため、目が原因であるとはとうてい気づかないのです。
40代以上の目に必要な視力は、手元のスマホやパソコンを見るには0.4~0.5、遠くを見るにも0.8程度あれば充分。むしろ、視力という数値よりも、色彩や質感、奥行きなどを捉える「視覚」の豊かさが、物事を豊かに見るためのカギになってきます。たとえば、携帯カメラではなく、一眼レフカメラで世界を捉えるような感覚です。そのためとよふくさんでは、まず上げすぎの視力を「ゆるめる」ことから始めます。
筆者の目も、長年の過矯正メガネとコンタクトでガチガチに凝り固まり、眉間にはクッキリとしわが刻まれていました。2時間近くにおよぶ「両眼視機能検査」(両目で同時に行う左右の目のバランスを測る検査)の間、「がんばって見ないで」「ふわっと見てください」「勘で答えてください」と、不思議なアドバイスを受けました。
たしかに今までの視力検査では、正しく答えようと、C字型のランドルト環の向きを必死に追っていました。とよふくさんの言葉に促され、じょじょに目の力みが取れ、こわばった表情がゆるんでいきます。目の力がゆるむと、それまで見えなかったものが見えてきます。「よく見なくちゃ」という視力至上主義の呪縛がとけていくのです。
そして、不調を生み出している元凶(=過矯正のメガネやコンタクト、凝り固まった姿勢や思考習慣)を突き止め、「視力を下げて目をゆるめるメガネ」をかけることが、人生を豊かに生きるために必要だと教えてくれるのです。
次回は、とよふくさんの「ゆるめるメガネ」をかけたときの、衝撃的な感想などをお伝えします。
早川さや香
富山県出身。編集ライター・出版プロデュース、「株式会社スタジオポケット」代表。健康・美容系の書籍を多く手がける。著書に『一人前の仕事術』(インデックスコミュニケーションズ)、編著に『未来につなぐわらごはん』(集英社)『なぜか3兄弟全員が東大合格!「勉強しろ」と絶対言わない子育て』(講談社)など。
https://profile.ameba.jp/ameba/studiopocket
「視力を下げて体を整える 魔法のメガネ屋の秘密」
著 早川さや香 監修 眼鏡のとよふく
集英社