ハワイへの旅を考えるとき、何度か行ったことのある人なら、今度はどこに泊まろうか、あの店にも行ってみたい…と考え始めるだけで浮き立つ気分に!
そんなとき、「大人だったら、こんな過ごし方や楽しみ方のスタイルもあるよ」と、そっと耳打ちしてくれるような本が、『大人心の、気ままなハワイ』。
暮らすように旅をする、というサブタイトルも、時間的&気分的にゆとりが出てきたOurAge世代の心に甘く響きます。
ところで「暮らすように旅をする」という言葉、ゆったりと肩の力が抜けた感じで憧れますが、実際にはどうすればそんな風に過ごせるのでしょう?
漠然とした疑問に、ページを繰るたび、著者ならではの「暮らすような時間」が披露されていきます。お気に入りの拠点はオアフのノースショア。気が向くとバスや車であっちこちお出かけ。好きなところに好きなだけ時間をかける、欲張りすぎないという贅沢な大人の旅。「そう、こういう過ごし方をしてみたいの!」と共感できるポイントがたくさんあるのです。
マーケットで大束で売られているクレソンを見て喜び、その日は早速おひたしやらに料理して、野菜好きの夫とクレソン祭り。わっおいしそう~、ナムルも試してみたい!
公営ゴルフコースでひと汗かいた後は、レモネードを飲んで定番おかずのカレーを買って帰る。こんな気軽な感じでスポーツできるなら、私だって!
隣町の歴史ある“ちいさい図書館”へ行き、ハワイアン・ノンフィクションコーナーで本を探す。誰にも邪魔されず静けさと趣味にひたれるなんて、至福すぎるひととき!
著者が選んだハワイでのロングステイ先は、バケーション・レンタル(バケレン)。バケレンとは、マンションや戸建てのオーナーたちが、自分たちが利用しない期間、貸し出している物件のことです。そんな物件がたくさん登録されているサイトから見つけた一室が自分たちの気分にぴったりだったのだそう。
そういったバケレンの選び方から街やビーチの散歩、おいしいもの、フェスティバル、手作り教室の体験談etc.必要なものにはアドレス紹介もついています。
そのどれもが、出会った(見た)人を愛情たっぷり目線でとらえた描写や、会話の端々から仕入れたようなプチネタ付きでおもしろく、そこも大きな読みどころ。クスッとつい笑っているうち、著者のおおらかな人柄に引き込まれていきます。
そもそも、どんなきっかけからこの本が生まれたのか。
誕生秘話などを、本書内の魅力的な写真も交えながら次ページでご紹介していきます。
長年、雑誌や書籍の編集業に携わってきた著者の田中真理子さんは、ハワイ旅歴35年。子どもが小さかった頃、子連れでも気兼ねなく楽しめるからとコンドミニアムやバケレンを利用するようになったそう。
「画一的なホテルとはちがって、オーナーの人柄や味が感じられるのがバケレンのおもしろみです」。子どもが大きくなり、今は夫と2人のハワイ時間をおだやかに満喫。
そんな35年間の家族旅はもちろん、普段の日々のこだわりまで、編集者の習性で(!?)いつもこまめにカメラに収め、写真集製作サービス(Photoback)で文庫本サイズにまとめている田中さん。その膨大なフォトアルバムを見た出版元の担当者が、これはおもしろい!と興味を持ったことがきっかけで、今回の本が生まれました。
余談ですが、旅以外の日々のこだわりというのは、例えば、いつも食べている味噌汁。そのフォトアルバムはテレビでも紹介されたのだとか! さぞや具沢山でおいしそうで、バリエーションに富んでいたんだろうなあ…。
自身の旅の記録がベースとわかると、興味やこだわりの偏り方も当然。“ださかわいい”に魅かれたり、さとうきび列車が気になって調査してみたり、その偏りっぷりがまたオリジナリティあふれて魅力的。大急ぎの買い物三昧や食べ歩きは卒業して、自分のこだわりをとことん追求しに行くのもいいかも、と触発されます。
ほとんどの写真は著者が長年撮りためてきたものですが、本を作るにあたり、よりわかりやすいカットを、と撮り直しに行ったものもあるそう。見せ方への(もちろん読みやすい字の大きさや量も)こだわりも編集者ならでは、です。
表紙を飾るプルメリアのレイに始まり、ヤシの木と空の爽快なコントラスト、色彩豊かなマーケットの食材、深い歴史のある建物…どの写真にも太平洋に浮かぶこの楽園への愛着があふれています。
著者は、自由に気ままに、ハワイでの旅の時間を豊かに楽しむコツについても
さらにこっそり教えてくれます。
たとえば、夫とふたりの旅行だけど、別行動したいっ、と思ったらどうする? 次ページへ
OurAge世代が夫婦ふたりで旅するとして、旅の途中、夫と行動を別にして、気兼ねなく一人でブラブラしたい、と思うときもありますよね。でもいざ一人になると、場所によっては正直、心細い気分にも…。
そんなときはどうするか。
著者が行くのは、いつ行っても訪問者が少なくて静かな植物園。ただ、ちょっと静かすぎて不安になるので、心の中で「同行二人」と考えるのだそう。植物にすごく詳しい友人と一緒にいるつもりで、語りかけるように歩く…。
経験を重ねてきたからこそ、自分らしく時間を楽しむための切り替えが旅の参考になります。
また、手作りへの愛も。
ビーチコーミングで集めたビール瓶の蓋は、日本に帰ってからリースにして飾っているもの。買ってきた布で次回のステイ中に使うエコバッグを作ったり。逆に、バケレンの部屋の壁にはミュージアムの半券や買い物メモを貼り重ね、自宅の冷蔵庫っぽくなったなあ、と眺めながらリラックス(笑)。
ハワイでの時間や出来事と、普段の暮らしがゆるやかにシンクロしている様子が、なんだかいい。自然体で遊び心があって、真似したい。
「ひとりひとり、その人なりのハワイの楽しみ方があると思うんです」。
自分ならどんなスタイルで過ごすか、自由な空想が広がっていく幸せな一冊です。
http://www.koishikawashokan.co.jp/
文/川口貴子