羽生結弦選手が平昌五輪エキシビジョンの楽曲に選び、大きな話題を集めた『ノッテ・ステラータ(星降る夜)』。聴く人のハートを優しく包みこむような、せつなく甘く清らかな歌声の持ち主が、イタリア生まれの若きテノール・トリオ、イル・ヴォーロだ。
ピエロ、イニャツィオ、ジャンルカ……、メンバーの3人は14、15歳の時にイタリアのオーディション番組で才能を見出され、ユニットを結成。圧倒的な歌唱力と美しいハーモニー、”貴公子”と呼ばれる端正なマスク、そして、イタリア民謡からオペラ、ポップスまで幅広く歌いあげるボーダーレスな魅力で、世界中にブームを巻き起こしている。
結成10周年の記念イヤーを迎え、今まさに、日本でコンサートツアー中の彼らに、緊急インタビュー。
音楽にかける愛と情熱、仲間に対する思い、今後の活動について話を聞いた。
イル・ヴォ―ロ 2009年、イタリアで結成された若きオペラトリオ。『グランデ・アモーレ』がメガ・ヒットし、パヴァロッティに認められ、ドミンゴ、バーブラ・ストライザンドらと共演。世界中にファンを持つ、若き実力派。
インタビュー撮影/武重到 取材・文/浦上泰栄
大ヒットナンバー『グランデ・アモーレ』のMVが、ユーチューブで再生回数1億回を突破。レジェンドにも認められた奇蹟のユニット!
サードアルバム『グランデ・アモーレ』(2015年)がプラチナセールスを記録し、MVのネット再生回数は1億回を突破。ワールドツアーでは20万人を動員するなど、クラシカル・クロスオーバー(クラシックとポピュラーの垣根を越えた音楽)の世界で圧倒的な人気を誇る、イル・ヴォーロ。彼らの音楽はどうやって誕生し、どんなふうに世界を揺るがせてきたのだろう?
ピエロ・バローネ 1993年6月24日生まれ、シチリア出身。オペラのアリアを豊かな声量でドラマティックに歌い上げ、全盛期のR・パヴァロッティを思わせる。知的でクール、同時に笑いのセンスも備えるリーダー格
ピエロ もともと僕たちはそれぞれにオーディション番組に出ていたのがデビューのきっかけです。若い僕たちがイタリア民謡を新しい解釈で歌うことに驚かれ、3人でユニットを組むことになったのです。「若き三大テノール」として。すると当時、イタリア音楽を世界に広める活動をされていた偉大な先輩、今は亡きルチアーノ・パヴァロッティさんが応援してくださり、そのおかげで彼のファンの方たちも僕らを応援してくれるようになったんです。それから「10代の若者が伝統音楽をやるのが面白い!」と話題が広まり、いつしか僕らと同世代や、もっと年下の若い子たちが、イル・ヴォーロの歌を愛してくれるようになったんです。それ以来10年、オペラのクラシックも歌うし、オリジナルのポピュラーも歌っていますが、イル・ヴォーロがベーシックに目ざしているのは、イタリア音楽の魅力を多くの人々に知ってもらうことです。
ジャンルカ カンツォーネから始まって、年月とともにポップス、ラテンなど、僕らが歌う音楽のジャンルはどんどん広がっています。でも、僕らの音楽のベースにあるのはイタリアの伝統的なメロディだし、その魅力を伝えたいという情熱にまったく変わりはありません。
ジャンルカ・ジノーブレ 1995年2月11日生まれ、アブルッツォ出身。まるで彫刻のように端正な顔立ちのイケメン。艶と深みのあるヴェルベットボイスでロマンティックに歌い上げ、聴く人のハートをとらえる。
イニャツィオ イタリア人は音楽をこよなく愛していますが、僕たち3人が育ったのは、その中でも特別に音楽好きな家庭でした。それぞれが、おじいちゃんやお父さんの影響を受け、イタリア民謡やオペラを聴きながら育ちました。伝統音楽のすばらしさに目覚めることができたのも、オーディションで僕らが出会えたことも、すべて家族のおかげですね。
イニャツィオ・ボスケット 1994年10月4日生まれ、ボローニャ出身。ソウルフルで輝くようなシャウトから、繊細に歌い上げるパートまで、自由自在な歌唱力が魅力。ユーモア溢れるトークが楽しいムードメーカー
10周年記念のコンサートツアーは日本からスタート! イル・ヴォーロの生歌声に震えた!
取材当日は、ラジオ出演のほかはオフだったので、リラックスした表情で話も弾んだ
世界中の女性たちを夢中にさせる彼らのチャームには定評がある。南米ではアイドルスターとしても大人気で、彼らに恋する女性たちがステージに向かって色とりどりのプレゼント(時にはブラまで!)を投げるシーンもお約束なのだとか!
5月13日に始まった日本ツアーの観客は、女性に限らず彩りゆたか。10代、20代の若者たちからイル・ヴォーロのおじいちゃんおばあちゃん世代まで、幅広い層の観客と3人が一体になり、会場が温かい空気に包まれる。会場は東京文化会館大ホールをはじめとするクラシックの名ホールばかりだけど、オペラの名アリアから、軽快なイタリア民謡には手拍子も響き、ドラマティックなポップスも堪能、曲の合間ごとに拍手と『ブラボー!』の喝采が湧き起こる。イル・ヴォーロも客席に向って手を振り、時には投げキッスをサービス、そしてMCには笑いが絶えない。マイエイジ世代には、ちょうど息子くらいの年頃の彼らだけど、ダイナミックな歌声や見せ場を心得た佇まいには、大人の色気もたっぷり! ハートがドキドキして、血中のロマンチック濃度が高まっちゃいそう。
ジャンルカ 日本に来て印象的だったのが、お客様のマナーがすばらしく良いこと。僕たちの音楽を静かにとても注意深く、熱心に聴いてくださる姿に感動します! 南米やヨーロッパの観客も、日本のみなさんと一緒だとよいのですが(笑)。客席のみなさんともっと言葉を交わせるように、次回の来日までに日本語をマスターしてくるので、楽しみに待っていてくださいね。
イニャツィオ 日本でコンサートできることを、うれしく思います。アリガトウゴザイマス! 今回は大阪でも公演をやるので、楽しみです。コンサートに来てくださるみなさん、「オオキニ!」会場でお会いしましょう!(大阪に行ったら”おおきに”と言いたいと、イニャツィオは繰り返し練習をしていた)
ピエロ 僕は、ステージに立つ時、「自分自身の感動を伝える」ことを大事にしています。だって、僕自身が感動していなかったら、曲のメッセージをお客様に届けることなんて、できないでしょう?! そしてぜひ、歌を聴きながら、僕ら3人と恋をしているような気分に浸っていただきたい……だって、僕たちはイタリア人ですから(笑)。いつも、「愛よ届け!」と願いながら、歌っています。
3人 「♪ アモ~~~~レ!!!!」
ラジオの収録中も、興が乗ると声を合わせて歌いだす3人。歌うこと、声を出すことが楽しくてたまらない様子
2016年にはフィレンツェで盛大に、『イル・ヴォーロ with プラシド・ドミンゴ 魅惑のライブ~3大テノールに捧ぐ』という屋外コンサートが行われた。その模様が、映画になり、日本でも7月19日から公開される。今回のツアーに足を運べなかった人も、映画館で彼らの美しい歌声を堪能できる。どんな映画なのかしら?
ジャンルカ コンサートが行われたのはフィレンツェのサンタ・クローチェ広場。ライトアップされた幻想的な広場で、僕たちと夏の夜のひと時を過ごす……。そんなロマンチックな時間を楽しんでもらえると思います。劇場で観ていただけたらうれしいな!
イル・ヴォーロの取材にうかがったのは、彼らが生出演したFMラジオ番組『小山ジャネット愛子 Botanica(ボタニカ)』を放送中のスタジオ。ステージの上では貴公子の彼らだが、生放送の合間にリラックスして過ごす姿は、まさに”イマドキ”の若者。シャイで内気と噂に聞いていたジャンルカが、ツアーに同行する日本人カメラマンにイタリア語のレッスンをして大はしゃぎ。意外? に人懐こい素顔が垣間見えた。イニャツィオはスタッフに冗談をいったり、スマホで野球の試合を観戦したり、元気いっぱい。ただひとりピエロは、静かに目を閉じて考え事をしている。三者三様の個性を持つ彼らは、お互いのことをどう思っているのだろう。
3人で動画を撮ろうと大騒ぎ。手慣れた様子でスマホを操る。
ピエロ 「音楽は僕たちの人生そのものですが、プライベートではスポーツやポップミュージックを楽しむごく普通の20代ですよ。
陽気でポジティブなイニャツィオには、いつも元気を貰っています。彼はほら、パーフェクトな男性でしょ。前はかなりおデブさんだったけど、ダイエットしたから、ホラ(笑)」
イニャツィオ 「ノー、ピエロ、それは言わない約束でしょ?!(笑)」
ピエロ 「(笑)。ジャンルカは内気で内向的な男の子だったけど、仕事でいろんな人に会うようになって、すっかり社交的になったよね」
ジャンルカ 「いつもそんなにハイテンションなの?」と聞かれますが、はい、毎朝目覚めた時からこんな感じです(笑)」
イニャツィオ 「僕なんか毎朝どころか、生まれた時のうぶ声も、『ア〜、ア〜、アア〜♪』って、大きな声で歌ってるようだったって、両親にいわれたから(笑)」
ピエロ 「さて、僕はみんなの魅力的なところだけをしゃべったのだから、僕のこともいいことだけ話してね!」
イニャツィオ 「こうと決めたらやり抜く強さがあって、プロとしての意識が高いピエロを、僕は尊敬しているよ。ジャンルカはまじめで、まるで日本人みたいなんだ。完璧主義を貫く気持ちの強さがすごいと思う」
ジャンルカ 「イニャツィオは楽しくて、心がとても広い男です。ピエロはいつも真摯な態度で仕事に向かっているし、グループの将来についてもしっかり考えていて、頼れる存在だね」
ピエロ 「僕たち性格はバラバラだし、10年の間にいっぱいケンカもしたけど、やっぱり最高のトリオだと思わない?」
イニャツィオ&ジャンルカ 「その通りだね!」
「最高のトリオだよね!」と手を組み合う3人。ステージに出る前にもこうして息を合わせるのだそう
息の合ったところで、最後に10年という節目の年を迎えたイル・ヴォーロの今後について聞かせて。
イニャツィオ 「歌う経験を重ねて、声も歌唱法も変わってきました。『バローロ(長期熟成され、深みのあるイタリアの赤ワイン)のような歌声だ』と言ってくださる方もいます。モデナ出身のスタッフにいわせると、『熟成した高級バルサミコ酢のような歌声よ!』(バルサミコ酢は主産地モデナの誇り)って (笑)。これからも、僕たちの歌声をもっと多くの方に聴いていただきたいです」
ジャンルカ 「日本から始まったワールドツアーを成功させることが、当面の目標です。そして、詳細についてはまだお話できませんが、年末に10周年を記念するビッグプロジェクトが控えているので、楽しみに待っていてください」
ピエロ 「結成5周年の時も、『5年後にイル・ヴォーロはどうなっていると思う?』と聞かれ、『この3人で10周年を迎えたい』と答えました。いま、僕たちに答えられるのは、3人はとてもいいトリオに育っていること、そして『50年後も絶対に一緒に歌っていたい』ということですね」
●INFOMATION
『IL VOLO IN CONCERT』
5/13 ~横浜みなとみらいホールを皮切りに、東京・大阪を含む6ヵ所でコンサート。
5/21 東京文化会館大ホール
5/22 大阪フェスティバルホール
問 テイト・チケットセンター ☎03-6379-3144
最新アルバム『MUSICA〜愛する人よ』
「ノッテ・ステラータ(星降る夜)」、オリジナル新作3曲を含め、全12曲を収録。
(ソニー・ミュージックレーベルズ)
映画『イル・ヴォーロwithプラシド・ドミンゴ 魅惑のライブ〜3大テノールに捧ぐ』
7/19よりBunkamura ル・シネマほか全国順次ロードショー
取材協力:ミュージックバード制作『小山ジャネット愛子Botanica』(毎週日曜日午前11時から12時55分まで、全国の提携コミュニティFMを通じて生放送)
https://www.facebook.com/JanetBotanica/