とがちゃんです。ますます! いい男度がアップの井浦新さん。出演の ドラマ「探偵の探偵」(フジテレビ系)が7 月9日にスタートしましたね。インタビューは、家族連れで賑わい、子供たちの笑い声が飛び交う都内のとある公園で。撮影は、カメラを持って走る井浦さんと、追いかけるカメラマン平間至さんとの真剣勝負なコラボレーション! 心地よい緊張感に包まれた現場から、俳優としてのこれまでとこれから、さらには、子育ての話まで…絶対他では聞けない、超”本音”が飛び出しました!
イイ男の肖像
井浦 新
Arata Iura
撮影に出かけた公園で、しきりとファインダーをのぞきシャッターを押す。瞬間の出会いを永遠に慈しむかのように。人の手がつくり出す「もの」の美に強く惹かれるという、原点を聞いた。
近道を選びたくない。いかに歩数の多い人生を送っていくか
なぜだか気になる俳優だった。決してきらびやかではないのに、映像の中で独特の存在感を残す。ときに素朴な青年であり、ときに狂気じみた男であり。ただどんな役であろうと、いつも井浦新には、どことなく文学的な薫りがする。昨今では大人の色気も帯びて、さらに人気と評価が高まってきた。
「モデルから役者の仕事を始めて、正直、続けたいかと言われたらそうでもなかったんです。自分の人生を賭けられる仕事だ、と思えたのは30歳を過ぎてからと遅いんですよ」
きっかけは、若松孝二監督との出会い。およそ人間の業を描ききるといわれた監督と、5本を組んだ。
「それまでもいろいろな監督に鍛えられましたが、自分の存在の全部を使ってくれた監督ですね。『そんな芝居しかできねえのかっ!』と、よく怒鳴られて、食らいついていこうと思った。そこからですね、芝居がおもしろいと思えるようになったのは。それまでは自分ができる役しか受け入れなかったんですけど、今は真逆になりました。できないと思うからこそ逃げずにやります」
予定調和の芝居は苦手。何が生まれるか、予測できない現場がおもしろい
もの静かな印象だが、口調は思いがけず熱い。
「若かった頃は行き場のない怒りとか抱えていて、失敗もいっぱいしました。そうしないと自分を保てなかったから。今、『刀』はいつでも抜ける準備があるから、だからこそ抜かなくていい」
演技は「人間をつくっていく作業」だという。
「自分の中にあるものを切り刻んでから、もう一回集めてみるとか、自身をまったく封印して、今まで見て取り込まれている心象や記憶を模索しながら、まったく違う人間をつくっていくとか…。やってもやってもキリがないからこそ、やりがいがあって」
恋愛物語について経験は生かされますかと尋ねると、わずかに間があった。
「役として撮影中は本気です。でも狂おしいほど愛してしまうのも、現実でなく芝居をもってするからおもしろいんですよ」
俳優業と同時に、ファッションデザイナーとしても知られ、また美術や民俗学への造詣が深く、「日曜美術館」(NHK Eテレ)での案内人を務める。
「専門的なことを言っても噓くさくなるから、あくまで一美術ファンとして、作品に出会った瞬間に、自分が何を感じるか。脚色なく心のままに伝えていこうと思ってやっています」
いっぱい食べて、笑って、泣いて。自分が育ったときと同じように子育てしています
東京都下の、豊かな自然に囲まれて「ザリガニ釣りなどしながら」育った。
「人肌が感じられる、手作りの民芸品」が多々あった家。幼年期、教師だった親に連れられて行った登呂遺跡への旅が、後年の井浦をつくった。
「縄文にはまりまして(笑)、そこからです。絵や彫像、器、工芸品、社(やしろ)、人物…、興味を持つととことん探究したくなる。例えば宮本武蔵とは何者か。掘り下げていくと絵も書も描いたと知る。いても立ってもいられず、晩年を過ごした熊本へ出かけていく」
より饒舌になり、話はとめどなく広がっていった。10代から全国津々浦々を、さながらお遍路のように巡り、五感で捉えた光景やものをカメラに残し、自分なりの文化の解釈をしてノートに記してきた。
「たどっていくと、そこには必ず人間が命を吹き込んで作った美しい『もの』があるんです。好きでずっと続けてきた経験が、今、伝えるという役目をいただけるようになって。芝居も含め、ゆっくりかもしれませんが遠回りしてきてよかったと思えます。自分の活動、目標に対して、近道なんか絶対選びたくない。これからも行く道の歩数をいかに多くするか。学びって、たくさんの時をかけてするものだと思うんです」
美しい生き方だ、と思える。
profile
1974年生まれ。ファッションモデルとして活躍後、’99年、映画『ワンダフルライフ』で俳優デビュー。代表作に『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』ほか。7月9日スタート、ドラマ「探偵の探偵」(フジテレビ系)に出演。一般社団法人・匠文化機構理事長。京都国立博物館文化大使を務める
撮影/平間 至(平間写真館TOKYO) ヘア&メイク/橋本孝裕(SHIMA)
スタイリスト/田中伸紀 取材・文/水田静子