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選手の笑顔に魅せられて~ジャネット・リンからパトリック・チャンまで~

吉田さらさ

吉田さらさ

寺と神社の旅研究家。

女性誌の編集者を経て、寺社専門の文筆業を始める。各種講座の講師、寺社旅の案内人なども務めている。著書に「京都仏像を巡る旅」、「お江戸寺町散歩」(いずれも集英社be文庫)、「奈良、寺あそび 仏像ばなし」(岳陽舎)、「近江若狭の仏像」(JTBパブリッシング)など。

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こんにちは、おでかけ女史組で、おでかけマイスター〈寺社部長〉をしている吉田さらさです。

いつもは寺と神社の旅に関する情報をお届けしていますが、

今日は、わたしの人生においてもっとも大切な趣味のひとつ、

フィギュアスケート鑑賞について語りたいと思います。

まずは、40年以上昔にさかのぼり、

わたしのフィギュア愛の始まりからお話しましょう。

 

 

●ファッションのお手本でもあった選手たち

 

同世代の方なら覚えていらっしゃると思いますが、

わたしを含めた一般的な日本人が、フィギュアスケートというスポーツを

よく知るようになったのは、1972年の札幌オリンピックで、

銀盤の妖精と呼ばれたジャネット・リンの活躍を目にしてからです。

ジャネットは演技中に尻餅をついてしまい、

それでも笑顔で立ち上がって演技を続けて銅メダルを取りました。

現在は、当時よりもはるかにジャンプの難易度が上がっていますので、

転倒後、何事もなかったかのように演技を続けるのは珍しいことではありません。

しかし、フィギュアスケートをはじめて見たわたしたちの目には、

決して諦めないジャネットの姿が、とても感動的に見えたのでした。

吉田さん ジャネット・リン

amana

 

10代はじめのわたしにとっては、ジャネットのファッションも興味の対象でした。

と言っても、当時の衣装は、今のように光り物をちりばめた豪華なものとは違い、ごくシンプルなもの。

それでもミニスカートの着こなしの参考になりました。

そして、あのヴィダル・サスーンのデザインによるヘアスタイル。

ちょっと見は普通のショートカットのようですが、

実は、ジャネットの可愛らしい顔をより際立たせ、

ジャンプやスピンをした時にも美しいように計算され尽くしていました。

 

1976年のインスブルックオリンピックの金メダリスト

ドロシー・ハミルのヘアスタイルも人気でした。

サイドを羽のように膨らませ、スピンの時により美しく広がるハミル・カットは、

当時、ハリウッドで引っ張りだこだった日本人ヘアデザイナー、須賀勇介さんによるものです。今見ると、のちに大流行した聖子ちゃんカットやダイアナカットの原形のようですね。

 

 

●世界に羽ばたいた日本人選手たち

 

そのころは外国人選手ばかりに目が向いていましたが、

日本人選手も次第に実力をのばしていました。

日本で、最初に世界選手権のメダルを取ったのは、あの渡辺絵美さんでした。

渡辺さんに関しては、芸能人としての活動の方が印象に残っている方が多いと思いますが、実は、日本人の女子選手が、今のように世界のひのき舞台で活躍するようになったさきがけでもあったのです。

 

そして時は流れ、いよいよ、日本のフィギュア界最大のスターである伊藤みどりさんの登場です。

トリプルアクセルや、トリプルルッツ+トリプルトゥーループのコンビネーションなど、

みどりさんは、現在でも、女子選手にとってはもっとも難しいとされるジャンプに世界ではじめて成功しました。みどりさん以降、国際大会でトリプルアクセルを成功させた選手は、中野友加里さん、浅田真央選手及び外国人選手2名のみ。

しかも、みどりさんのトリプルアクセルは、その後のどの選手のトリプルアクセルより、高く美しい、完璧なものでした。

今もユーチューブなどで動画を見るたびに、あまりの見事さに驚きます。

男子だって、これほどパワフルなトリプルアクセルを飛べる選手は、そうざらにはいないと思いますよ。

当時よく、「伊藤はジャンプだけの選手で芸術性に欠ける」と言う人がいましたが、

とんでもない!

試合数を重ねるにつれ、演技力もどんどん向上しましたし、

そもそも、あのトリプルアクセルひとつで、十分芸術的だと思います。

フィギュアスケートはダンスではなく、スポーツです。

極限まで磨き抜かれた見事な技こそが、スポーツにおける真の芸術というものです。

 

1989年のパリ世界選手権で、みどりさんは、はじめてトリプルアクセルを決め、

日本初、そしてアジア初の世界選手権金メダリストとなりました。

1991年、金メダルを期待されたアルベールオリンピックでは、

ショートで出遅れ、フリーでもトリプルアクセルで転倒。

しかし、演技終了の1分前に再度トリプルアクセルに挑んで成功しました。

超人的な体力、精神力、技術力!

日系アメリカ人選手のクリスティ・ヤマグチに破れて銀メダルにはなりましたが、

永遠に世界のフィギュアファンの心に残る演技でした。

 

 

●ジャンプだけでないフィギュアスケートの魅力

 

次に世界選手権で金メダルを取ったのは佐藤有香さんです。

有香さんの演技はみどりさんとは対象的で、

ジャンプよりもスケーティング技術が高く評価されました。

スケーティングとは、文字通り滑ることです。

 

有香さんは、現在、浅田真央選手などの指導をしている佐藤信夫コーチと久美子コーチの娘さん。

1994年に世界チャンピオンになった後、アメリカに渡ってプロとなりました。

スケーティング技術がさらに評価され、日本よりもアメリカでの知名度の方が高いようです。

現在は、コーチ、振付師、解説者として活躍を続け、しばしばテレビでもお見かけします。近年、めっきりきれいになられ、発見するたびに、「有香ちゃん、がんばってるなぁ」と嬉しくなります。

 

今は、このスケーティングの技術が、SSつまり、スケーティング・スキルとして、採点の重要な要素のひとつとなっています。SSは、スケート靴のブレード(歯)のエッジをコントロールして美しく滑る、ステップ、ターンなどをスムーズにこなす、加速、減速など、スピードを変化させる能力などと定義されます。

 

また、1990年までは、規定(コンパルソリー)という種目がありました。上を滑走して課題の図形を描き、その滑走姿勢と滑り跡の図形(フィギュア)の正確さを競う種目です。これがフィギュアスケートの語源であり、伊藤みどりさんは、このコンパルソリーが苦手であったため、これが廃止されるまではいまひとつ成績が伸びなかったと言われます。今はコンパルソリーはありませんが、それでもやはり、正確なエッジワークで美しく滑ることはフィギュアの基本と言えます。

 

パトリック・チャン2015.12

言葉で書くと難しいし、ジャンプほど派手でもありませんが、見慣れて来ると、「ただ滑っているだけで美しい」と思う選手のSSが高いということも、わかるようになります。現役では、カナダのパトリック・チャン選手、日本人では小塚崇彦選手がスケーティングが美しいとされています。

 

わたしはパトリックの大ファンで、彼の演技中は、いつも視線が足元に釘づけです。

まるで氷の上を飛んでいるかのようなスムーズな動き、自由自在なターンやステップ。

「スケーティングの違いがわかるようになれば、上級ファンの仲間入りよね」などと勝手にほくそ笑みながらテレビで試合を見るのが、わたしの至福の時。皆さんも、次にテレビでフィギュアを見る時は、ぜひ、選手の足元にご注目くださいませ。

 

そのパトリックですが、長く世界の頂点に立っていましたが、2014年のソチ・オリンピックでは、羽生結弦選手の出現により、惜しくも金メダルを逃しました。その後1シーズン休養し、今季から現役復帰。シーズン前半はなかなか調子が上がらず、パトリックらしからぬジャンプの失敗なども見られました。

しかし、先日台湾で行われた四大陸選手権では、「これぞ世界王者の滑り」という風格ある演技を見せ、見事に優勝しました。しかも、ショート5位からの大逆転です。

試合後のインタビューでは、いつも冷静なパトリックが、かつてないほどすがすがしい笑顔で喜びを語ってくれました。何度も世界チャンピオンになった彼も、ここに戻って来るまでには、ものすごく悩み、努力を積み重ねて来たことが伝わって来て感動的でした。

3月末からボストンで行われる世界選手権には、羽生選手や、スぺインのフェルナンデス選手も出場し、ますますハイレベルな闘いが予想されます。楽しみですね。

 

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