ハーバード大学医学部客員教・授根来秀行さんが、いつ頃から睡眠と心の関係に注目していたのかについて連載担当Dr.根来番のぐうたらライター・いしまるこがインタビューします。
前回のインタビューは下のリンクをご参照ください。
【特集】ハーバード大学Dr.根来の体内向上プロジェクト
睡眠指導で東大生の休学が減った!
いし 睡眠と心の関係には、いつ頃から注目していたんですか?
根来 2000年に大学院を卒業して、3年後に東大の講師になった頃ですね。東京大学医学部の第二内科、腎臓・内分泌内科、保健センター、東京大学大学院新領域創成科学研究科と、全部兼任したんです。
いし 任されまくりですね〜。
根来 新領域創成科学研究科は、いろんな学部の最先端の人が集まって新領域を作るというできたてホヤホヤのキャンパスで、宇宙線研究所とかいろいろあったんですよ。そこを軸に職員や学生の健康を守り、パフォーマンスを上げるための保健センターを立ち上げるというので、責任者を任されました。
いし 病気未満の人が対象ですね。そこではどんなことが見えてきました?
根来 目立ったのは、睡眠が乱れてくると、そのうち体調が悪くなったり、病気になるというパターン。学生では、季節性のうつ病になって休学する人が多かったのですが、典型的だったのは、いわゆる五月病になる生徒たちです。
当時は「自律神経失調症」と診断され、「気の持ちよう」と片づけられていました。だけど、僕は間違いなく睡眠との因果関係があると思っていて。というのも、長い休みの間、昼までだらだら寝てしまって、夜に眠れなくなるというパターンが非常に多かったんですよ。
いし 東大生に親近感が湧くなあ。
根来 学生たちの生活スタイルを咀嚼(そしゃく)し、早寝して決まった時間に早起きする、7時間睡眠を確保するといった生活指導を行い、メンタルで脱落する生徒をずいぶん減らすことができました。
いし 今ほど「予防医学」が注目されていなかった時代に、さすがです。
根来 近年ハーバード大学医学部では、自分の行動や生活習慣を変えることで、より健康な体を自分自身でつくっていくという「ビヘイビア・ヘルス」に取り組んでいますが、その考え方は医師としての僕の原点に重なるんです。
連休中のだら寝で東大生も五月病に…
東大生が五月病に陥る背景に、連休中の不規則な生活による体内時計の乱れがあると推測。弁当箱ほどの大きさのホルター心電図計を24時間装着させ、心臓の1拍1拍を全部計算して自律神経の状態を調べるという、気の遠くなるような作業をしていたそう。今ならコンピューターのデバイスで一目瞭然。
根来秀行さん
Hideyuki Negoro
1967年生まれ。医師、医学博士。ハーバード大学医学部PKD Center Visiting Professor、ソルボンヌ大学医学部客員教授、奈良県立医科大学医学部客員教授、杏林大学医学部客員教授、信州大学特任教授、事業構想大学院大学理事・教授、社会情報大学理事。専門は内科学、腎臓病学、抗加齢医学、睡眠医学など。最先端の臨床・研究・医学教育の分野で国際的に活躍中。本連載から生まれた『ハーバード&パリ大学 根来教授の特別授業「毛細血管」は増やすが勝ち!』『ハーバード&ソルボンヌ大学 Dr.根来の特別授業 病まないための細胞呼吸レッスン』(ともに集英社)が好評発売中
いしまるこ
いつまででも寝ていたいぐうたらライター。寝つきが悪く、つい夜更かしして、朝からどんよりしがち
撮影/角守裕二 イラスト/浅生ハルミン 取材・原文/石丸久美子
※次回は、睡眠の質が低下した大リーガーの自律神経を整えた呼吸法について、根来先生にお伺いします。