こんにちは! オペラ歌手の田村麻子です。
今回はいよいよ「肺活」の重要なポイントである「腹式呼吸」について学んでいきましょう。
みなさんも、オペラ歌手が信じられないほどの肺活量を持って、朗々と歌いあげるのを聞いたことがあるでしょう。私たち歌手は、肺いっぱいに溜めた息を歌に乗せながら、一定の強さで息が途切れないように歌いあげます。
それには訓練が必要なのですが、声楽家ではない方でも肺活量は鍛えられるものなのです。どんな人でも、訓練すれば、肺活量を増やせます!
反対に、鍛えないと、年々、肺活量は衰えていってしまうものなのです。
田村麻子さん(たむらあさこ・ソプラノ歌手)
国立音楽大学声楽科、東京藝術大学大学院、マネス音楽院(米)首席修了。国内外のコンクールにて上位入賞。日韓共催ワールドカップの前夜祭3大テナーコンサートでは故・パヴァロッティ等と共演。2015年には米大リーグのナショナルズに招聘され、対ヤンキース戦にて外国人歌手として初めてアメリカ国歌斉唱の栄誉を得る。メトロポリタン歌劇場管弦楽 、BBC交響楽団等、国内外で多くのオーケストラと共演、また世界各地の歌劇場で主演を務める。www.asakotamura.com
私がつねづね口にする言葉は、「オペラは筋肉」!です。
歌うことは、深く息を吸って吐くという体の内部にある筋肉の動きに、喉や舌の筋肉を駆使して成り立ちます。歌の訓練とは、すなわち筋トレなのです。
肺活量が多いと、血に流れる酸素の量を増やすことができます。レッスンが終わったあと、生徒さんの顔がびっくりするほど血色がよくなり、生き生きとしてツヤもよくなるのですが、これは血流がよくなるせいでしょう。
そして免疫力もアップします。
ヨガでも呼吸を大事にしますよね。外界から酸素を取り入れ、体内で消費して二酸化炭素を放出することは、生命活動の根源にあります。浅い息ではなく、たくさんの酸素を取り入れる深い呼吸法は、免疫力アップにもつながるのです。
腹式呼吸は、「お腹を使って呼吸する」のではありません
さて腹式呼吸というと、漠然と「お腹を使って呼吸をすること」というイメージを持っていないでしょうか。
残念ながら、それはちょっと間違ったイメージです。人間の肺は胸郭のなかに収まっていて、お腹では空気は吸えません。
腹式呼吸といっても、実際に呼吸をするのは、肺です。そして肋骨の下に位置する横隔膜が、息を吸いこむと下にさがります。
横隔膜が下にさがると自然と内臓が押されるためにお腹が出たり、吐くときには逆にお腹がひっこんだりして見えますね。
この腹式呼吸、誰でも眠っているときは自然に行なっているのです。しかし、起きているときはできないので、それを意識的に行うのが、声楽における腹式呼吸の練習です。
まず、肋骨を大きく広げるつもりで、息を思いっきり吸いこみましょう。
体がまん丸にふくらむイメージで、吸ってみて下さい。
それから吐くときは、丹田を押すようなイメージで吐いていきます。
「丹田」とは、おへそより指3、4本分下がったところにあるツボのこと。ここに力を入れるつもりで、息を吐ききってください。
人間の肺はどんなに吸っても、まだスペースが残っているものなのです。息を吐ききっても、まだ空気が肺のなかに残っています。
ですので、どれだけ意識的にいっぱい息を吸っても、あるいはとことん吐ききっても、まだ大丈夫。
このオペラ式「肺活量を増やす」レッスンは、満腹時は避けてください。小腹が空いたくらいの状態がやりやすいと思います。
やってみるとわかりますが、胃にいっぱい食べ物がつまっていると、息を吸って横隔膜が下におりたときに、苦しいのです。たくさん息が吸えません。
そのため私たちオペラ歌手も、本番の2時間前には軽い食事を済ませ、胃が軽い状態で舞台に臨みます。
8カウントで、5回にわたって息を吸いましょう
では、さらに具体的な呼吸法を一緒にやってみましょう。
①まず大きく息を吸ってみましょう。
自分がまん丸な雪だるまになったようなイメージで、息を吸っていきます。
そして息を止める。
そのまま8カウント、数えましょう。
②次に肩のあたりに息を入れるつもりで、息を吸ってみて下さい。
息は吐かないで、続けて吸ってください。
8カウント、数えましょう。
③次に、顔の下半分に息を入れるつもりで、息を吸ってみて下さい。
息は吐かず、続けて吸ってください。
8カウント、数えましょう。
④次に、頭の上に息を入れるつもりで、息を吸ってみて下さい。
息は吐かないで、続けて吸ってください。
8カウント、数えましょう。
⑤可能な人は、ここで最後のひと息を吸ってみて下さい。
8カウント、数えましょう。
⑥息が苦しくなって我慢できなくなったら、息を吐きます。
シーッというような音をたてるつもりで、息をゆっくり吐いていきましょう。
では動画で、私と一緒に腹式呼吸を訓練してみましょう。
いっぱい空気を吸ったために、酸素過多で頭がくらくらする方もいるかもしれませんが、心配ありません。
最初は難しいかもしれませんが、この練習を繰り返しやっているうちに、徐々に肺活量が増えていきます。
一般の方たちに向けて私が行なったレッスンでも、練習した方は確実に肺活量がアップしました。
参加された生徒さんたちからは、
「息が切れなくなった」
「ウエストが細くなった」
「深い呼吸ができるようになった」
といった嬉しい感想が送られてきています。
呼吸も筋トレですから、ぜひとも毎日行うことで、呼吸のための筋肉を鍛えて強くしていきましょう!
次回、第6回はいよいよ「肺活」最終回! 声を出すための舌と唇の訓練です。
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取材・文/黒部エリ