専門医による診断で認知症が早期で分かった時、病院ではどのような治療をするのでしょうか。医師で群馬大学名誉教授の山口晴保先生に詳しく教えてもらいました。
教えてくれた人
山口晴保さん
Haruyasu Yamaguchi
医師、群馬大学名誉教授、認知症介護研究・研修東京センター長、日本認知症学会名誉会員。脳βアミロイド沈着機序をテーマに30年にわたり病理研究を続け、その後、臨床研究に転向。より実践的な認知症医療・ケアに取り組んでいる。著書多数
早期発見できれば、できる限り進行を遅らせることも
「最近、もの忘れが激しい…」と、自分自身や家族に認知症の疑いを感じたら、不安を抱えて過ごすよりも、できるだけ早い段階で専門医を訪れたいもの。「認知症も早期発見・早期治療がとても重要です」と山口晴保先生。
「早期発見の利点は、まず、脳の神経細胞の変性による認知症でなければ治るものもあり、早くその治療に取りかかれること。また、認知症のごく初期で発見できれば、進行を遅らせる薬での治療を開始でき、本人が実感を伝えて薬の種類や量を相談しながら、よりよい治療を行えます。
自分がどうしたいか、軽度のうちに考えて医師や家族に伝えることで、“認知症とともに生きる生活”が自分にとってより望ましいものになり、そのことがまた、認知症の進行を遅らせることにもつながるのです」
診察は脳神経内科、老人科、精神科などでもできますが、より専門的なのが「もの忘れ外来」や「認知症外来」。こうした専門外来には、日本認知症学会や日本老年精神医学会などの専門医がいるのでおすすめです。
進行を遅らせる投薬治療
「残念ながら、認知症を根治させる薬はまだありません。現在、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症で使われている、抗認知症薬はすべて進行を緩やかにするものです」。
薬は計4種類で、作用する場所により薬は大きくふたつのグループに分かれます(下記参照)。
ほかに、妄想や興奮などの行動・心理症状を抑制するために、非定型抗精神病薬、抗不安薬、抑肝散(ヨクカンサン)などの漢方薬が処方されることもあります。
コリンエステラーゼ阻害薬
アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症になると、学習や記憶に重要な神経伝達物質であるアセチルコリンが少なくなります。このアセチルコリンを分解する酵素「コリンエステラーゼ」の働きを抑えるように働く薬。吐き気や下痢、食欲不振、精神面では興奮傾向になるなどの副作用が出る場合があります
- ●アリセプト(一般名/ドネペジル)
- ●レミニール(一般名/ガランタミン)
- ●リバスタッチパッチ、イクセロンパッチ(一般名/リバスチグミン)
NMDA受容体拮抗薬
脳内の興奮性の神経伝達物質である、グルタミン酸の作用を弱める薬です。過剰な興奮による脳神経の損傷を抑え、認知機能障害の進行を抑制します。作用の仕組みが違うので、コリンエステラーゼ阻害薬と併用されることもあります。めまいや眠気などで、元気がなくなるなどの副作用が
- ●メマリー(一般名/メマンチン)
ポジティブケアが進行を遅らせる
もの忘れが強くなっても、生活管理に問題がなければ認知症ではありません。前段階の軽度認知障害(MCI)ということもあります。この場合は、早い段階からライフスタイルを改善することで、元に戻ることもあります。「治療において最も重要なのは、認知症と診断されても悲観しすぎず、本人も家族も前向きにとらえて“少しでも笑顔でいる時間を長くする”ことを考えることです。実は、これが進行を遅らせる秘訣でもあります」
写真/高橋ヨーコ 取材・原文/山村浩子