ペーサーってなに?
テレビのマラソン中継などで、選手以外に「ペーサー(ペースランナー、ペースメーカー)」という先頭を走るランナーを見かけたことはありませんか。
多くのマラソン大会では目標タイムに向けて先導してくれるペーサーがいます。最近だと、2021年の大阪国際女子マラソンでは、記録を狙う一山麻緒選手を現役男子選手の川内優輝がペーサーとしてついていたのを覚えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
以前から、高橋尚子さんや野口みずきさんが日本記録を塗り替えたベルリンのような大型大会などではペーサーが採用されてきました。最近はPB(プライベートベスト=自己新記録)を狙うランナーが増えてきていることもあり、ペーサーを採用する大会がより増えてきている印象です。
実は、私もごくたまにペーサーをさせていただくことがあります。先日は横浜マラソンの公式ペーサーをさせていただきました。これは私がプロだということではなく、ペーサーとしての練習会に定期的に参加していたことがあるからです。実際にやってみると、まだまだ一般にはペーサーについてよく知られていないな、と感じることもあります。でも、ペーサーを利用することで、より楽に走れるなら、上手に利用するに越したことはありません。
そこで今回は、マラソンのペーサーとはそもそもなにか?利用するメリットや注意点などをご説明してみたいと思います。
ペーサーを利用すると目標タイムを達成しやすい
ペーサーとは、簡単にいえば、目標タイムに向けて先導してくれるランナーのことです。例えば、サブ4(4時間以内に完走)目標ならサブ4のペーサーに、サブ5.5(5時間30分以内に完走)目標ならサブ5.5のペーサーについていけば、目標のタイムで完走することができます。
多くの大会では、15分刻み、もしくは30分刻みで設定、配置されていることが多いです。1人で担当することはあまりなく、ひとつの目標タイムにつき2~5人体制がほとんどです。
大体はグロス設定ですが、ネットタイムで設定している大会もあります。グロスタイムとは、号砲が鳴ってからフィニッシュするまでのタイムのことで、ネットタイムとは自分がスタートラインを通過してから、フィニッシュするまでのタイムのことを指します。
ペーサーはできる限り、最初の1kmから最後の1kmまで、一定のペース(イーブンペース)で、時間内フルに使って走る努力をします。例えば、4時間なら、3時間半ではなく、3時間59分あたりでフィニッシュできるように計算して走るのです。
コースのアップダウンや道幅などで機械のように全く同じとはいきませんが、一定のスピードで走ることは体力の消耗を抑える効果があります。
実は、自分では一定のスピードで走っているつもりでも、スピードが上がったり下がったりしている人は結構多いのです。このような走り方だと早く疲労してしまいます。
ペーサーについていけば、この問題を自分で考えずにクリアできるというわけです。日常的に車を運転されている方なら、ガソリンの使用量などをイメージしていただけるとわかりやすいかもしれません。
また、時間内フルに使うということは、ペーサーより前にいれば必ず目標時間内にフィニッシュできるということになります。自分で時計を見て、細かくペースを計算する必要もありません。例えば、途中でトイレに行って、そのあとどれだけペースを上げるべきかなかなかわからないですよね。
でも、ペーサーに追いつけさえすればOKなら、考えるのも楽だと思いませんか。(ただこれは少しの時間でも体力を非常に消耗するので、時間のロスはないに越したことはありません。)
つまり、ペーサーを利用するとあれこれ頭を使わないで走ることができる、ということなんです。
頭を使うと、疲労が早くなる
脳みそを動かすエネルギーとして、糖質、主にブドウ糖が使用されることを知っている方は多いと思います。頭を使うと甘いものが欲しくなる、というのは、これが原因です。つまり頭を使うということは、糖質を多く使用するということとイコールです。
血液中のブドウ糖が足りなくなると、貯蔵されていたグリコーゲンがブドウ糖に分解され、エネルギー源となりますが、余剰は筋肉や肝臓でグリコーゲンに変換後、筋肉に一時的に貯蔵されて体を動かすエネルギーに使われます。
ランニングに使われるエネルギーは、大きく分けてこのグリコーゲンと脂肪の2つです。よく、運動して20分ほどしないと脂肪が燃えないなどと言われることがありますが、それはこの2つの中で、糖質のほうが効率のよい体が使いやすいエネルギー源なので優先して使われるからなのです。
一般的に、フルマラソンは体格にもよりますが2500kcal以上のエネルギーが必要だと言われています。反面、身体に蓄えることのできる糖質は筋肉のある人でも2000kcalほどが限界だそうです。どう考えても足りません。
だから、フルマラソンでは途中のエネルギー補給が必須。通常、フルマラソンの大会では、エネルギーや水分補給のために、コース上に水、ドリンクだけでなく食べ物を提供するエイドステーションが設置されているのはこれも理由だったりするのです。
(ハーフくらいの距離だと、水だけのことが多いです。)
ここまで書けばおわかりでしょうか。
ただでさえエネルギーが枯渇しやすい距離のレースでは、できるだけ頭を使わないほうが疲労は少ないということです。つまりペーサーを利用すれば、自分で頭を使うことを避けられる=楽に走ることができる、ということにつながるのです。
今年、横浜マラソン2023でペーサーをさせていただいたときのものです。
設定時間は5時間30分(サブ5.5)、5人体制でした。
ペーサーを利用する際の注意、というかお願い
ペーサーは自分のベストタイムでは難しいといわれます。余裕を持って走れる時間設定が必要なので、例えば私だと対応できるのは5時間が限界です。
それくらいの設定スピードだと、ベテランやシリアスランナーは少なく、初めて大会に出たという初心者とか、とにかく完走できればいいという人が多いゾーンです。
ペーサーと走ることに慣れていない人も多く、たまにヒヤッとすることもありますので、注意点も書いてみたいと思います。
まず、無理についていこうとしないこと。
確かにペーサーについていければ目標を達成できますが、実は最初から最後までイーブンペースで走るにはそれなりの慣れとスキルが必要です。特に走り始めたくらいの頃は長距離にそこまで慣れていないので、最初はそこそこのペースで走れても、疲れてくるとペースが落ちるということがほとんどだと思います。
ただでさえ、周りの早いランナーにつられて無理しやすいのがマラソン大会です。
ペーサーに無理についていこうとして、例えばトイレを我慢したりエイドでの補給を躊躇してしまったりでは元も子もありません。
そんな時は無理せず、例えばサブ5のペーサーではなく、後ろからくるサブ5.5のペーサーに変えるなど臨機応変に判断しましょう。
あと、ペーサーの真横にぴったりくっついて走ろうとする人が結構います。特に集団で走ることに慣れていない初心者に多いのですが、ちょっとしたことで足を踏みそうになったり、路面の凸凹などをよける際にも足をひっかけやすいため危ないです。
ペーサーについていくときは、斜め後ろ位で余裕をもって走るようにしてください。真後ろでもいいでしょう。風よけになります。
いかがでしょうか。ペーサーになるための公的な資格は今はなく、走力や経験などで声をかけられてボランティアでやる人がほとんどです。ボランティアとはいえ責任もあり、速く走れるというだけではなかなか難しいこともまた事実です。
期待したレベルでないと文句を言うランナーさんもいらっしゃるのですが、ペーサーをする人は、少なくとも私の周囲はみんなランナーのサポートのために頑張って練習をしたり努力をしています。上手に活用してほしい反面、ぜひ温かい目で見てもらえたら、と思います。