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横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン5 大人女子の恋愛事情 第1話 二年ぶりのプチ大人女子会

横森理香

横森理香

作家・エッセイスト。1963年生まれ。多摩美術大学卒。 現代女性をリアルに描いた小説と、女性を応援するエッセイに定評があり、『40代 大人女子のためのお年頃読本』がベストセラーとなる。代表作『ぼぎちんバブル純愛物語』は文化庁の主宰する日本文学輸出プロジェクトに選出され、アメリカ、イギリス、ドイツ、アラブ諸国で翻訳出版されている。 著書に『コーネンキなんてこわくない』など多数。 また、「ベリーダンス健康法」の講師としても活躍。 主催するコミュニティサロン「シークレットロータス」でレッスンを行っている。 日本大人女子協会代表

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作家・横森理香の連載小説「mist(ミスト)」シーズン5がいよいよスタート。大人女子の恋愛事情を描いた今回の小説は、今話題の写真家・初沢亜利氏の作品とコラボ。コロナ禍の東京の風景を切り取った写真集「東京 二〇二〇、二〇二一。」より選ばれた作品と共に、お楽しみください。

初沢亜利

撮影/初沢亜利 写真集「東京 二〇二〇、二〇二一。」より。

 

第1話 二年ぶりのプチ大人女子会

 

2021年の年末、瞳の家には、二年ぶりにおひとりさま仲間が集まっていた。

12月には感染者数が激減し、東京都も一桁を切っていたからだ。

しかし独り者だと思っていた仲間にも、この二年のうちに男ができていた。

 

同じマンションに住む不幸の塊のような女だった美穂は入籍し、幸せいっぱいだ。

コロナは人をどん底にも突き落とすし、希望も見せてくれる。再婚相手の実家は世田谷にあり、敷地が広いので離れを新居にして住んでいる。

 

 

「わぁ、懐かしいなぁ。まだ二階に自分のうちがあると思っちゃうよ」

わずか数カ月の事だが、かつて住んでいたマンションの瞳の部屋に訪れた美穂は、そうつぶやいた。

「このレトロなマンション、好きだったんだけどね」

「またまた、売っちゃって良かったよ。ろくな思い出ないでしょ?」

 

 

前夫との悔しい想い出、ペットロス、一人で寂しかった時代、セフレとの擦り切れるような関係・・・。

そんなろくでもない想い出が詰まった部屋など、取っておかなくていい。断捨離断捨離、大人女子には断捨離が必要だ。

 

 

「あ、これお土産」

そう言って、美穂は保冷バッグを差し出した。

「お義母さんの実家が富山でさ、親戚がたくさん送ってくれるのよ」

「うわ、大好き! 富山のぐるぐる巻きカマボコ」

保冷バッグから取り出して、瞳は言った。昆布で巻いてあるカマボコは、縁起物としても名高い。

「赤いのもあんじゃん」

「そう、お正月用だね」

お祝い用に、赤く染めた生地で巻いてあるものもあった。

「ちょうどよかった。私、日本酒持ってきたよ」

一升瓶を苦も無く運んできた、桂子が言う。桂子も猫飼いで食いしん坊。大柄でぽっちゃりだ。リモートワークと自粛生活でさらに大きくなっていた。

 

 

「あら素敵、磯自慢じゃないの」

酒飲みの美穂は目ざとい。

「これ静岡の名酒。生産数が少ないから、東京じゃなかなか手に入らないやつ」

「知ってた? 私、静岡で試飲して、美味しくて驚いちゃってさ、みんなにも飲ませたくて買ってきたんだよ」

「え、静岡行ったの? 温泉でも?」

  事情を知らない美穂が聞いた。

「もしかしてインド人?」

瞳が突っ込んだ。桂子とも会うのは二年ぶりだが、ときどきライン電話でお喋りしているのだ。桂子は自粛生活中にハマったオンラインパーティで知り合った、二十歳も年下のインド人と、リモート恋愛していた。

 

「会ったんだねー、リアルで」

「そうなの」

「で、どうだった?」

「なんか、シュッとしてかっこよかったよ。画面上だと顔だけだから、濃いぃけどね。立つと背が高くて、顔小さいの」

「えー、写真ある?」

「あるよ」

「見たい見たい!」

 

 

美穂が大騒ぎするので、桂子はスマホをさらさらスクロールして、静岡で撮ったツーショットを見せた。

「ホントだ」

「いまどきの若者じゃん」

 

その若者は、日本に留学してそのまま就職したコンピュータープログラマーで、静岡に五年住んでいた。当然、理系の眼鏡君でダサださだと思っていた瞳は驚いた。

前髪は金髪に染められ、ジーンズにパーカーで、ビアスまでしていた。

「でしょー? 私も驚いたんだよ」

 

静岡城をバックに、二人で自撮りしたその写真は、手前の桂子がパーンと白飛びしている。後ろの浅黒い若者との対比で、ただでさえ色白ぽっちゃりの桂子は、さらに膨らんで見えた。

 

「なんか親子に見えない? 申し訳なくて・・・」

「いや、見えない見えないw」

「え、名前なんていうの?

 美穂は興味津々だ。

「サッチャブラータ」

「なに? まず名前が覚えらんない」

「でしょう? だから私も、さっちゃんって呼んでるんだけど」

「なにそれウケる!」

 

久しぶりに、みんなで笑った。

大人女子たちが近況を報告し合って笑い合うのも、実に二年ぶりだった。

 

 

「さあさあ、話はあとにして、まず乾杯しよう」

瞳が切り子の二号徳利に日本酒を入れ、色んな猪口の入った籠を出した。

これを取り出すのも二年ぶりだ。

 

「わぁ、可愛い! 私これにする」

美穂がウサギの絵が付いた小さい白いお猪口を選んだ。

「ウサ子に似てる」

美穂はウサギを飼っていたのだ。そのウサギが死んだことが、離婚のきっかけだった。しかし今はペットロスからも離婚からも立ち直り、明るい。

「じゃ私、これ」

桂子が蓮の花の描いてある猪口を選んだ。それは大振りで、むしろ湯呑と言っていい。

「でかくね?」

「へへ、大盛でね

 

瞳は猫の絵が入ったお猪口を選んだ。

家には保護猫四匹がゴロゴロしているというのに、猫グッズも枚挙にいとまない。

 

「はい、じゃ、カマボコつまみに」

富山の昆布巻きカマボコを切って、瞳が差し出した。

「うわ、なんか、縁起いい感じ」

「でしょ?」

「はい乾杯」

「かんぱーい

 

三人とも、久しぶりのプチ大人女子会に胸を膨らませていた。

 

◆「mist」のこれまでのお話は、こちらでお読みいただけます。

◆次回は、3月17日(木)公開予定です。お楽しみに。

 

★初沢亜利さんの写真集「東京 二〇二〇、二〇二一。」は、こちらからどうぞ。

 

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