『魔女の宅急便』の作者・角野栄子さんを4年間にわたって撮影し、創作活動や普段の暮らし、そこに至る人生のあれこれを追った映画『カラフルな魔女 ~角野栄子の物語が生まれる暮らし~』。
監督したのは現在NHKエンタープライズでプロデューサーを務める宮川麻里奈さんだ。
30年以上映像の仕事に打ち込みながら、子育てにも奮闘した宮川さんは、50代の今、どんなふうに自分の年齢や健康に向き合っているのだろう?
(チャーミングな88歳。角野栄子さんの魅力を語ったインタビュー前編はコチラ)
撮影/露木聡子 取材・文/岡本麻佑
宮川麻里奈さん
Profile
みやがわ・まりな●1970年6月生まれ、徳島県出身。1993年、NHK 番組制作局に入局。金沢局勤務、「爆笑問題のニッポンの教養」「探検バクモン」などを経て、2013年「SWITCH インタビュー達人達」を立ち上げる。「あさイチ」などを担当した後、現在はNHKエンタープライズで「所さん! 事件ですよ」「カールさんとティーナさんの古民家村だより」などのプロデューサーを務めている。一男一女の母。
50歳で迎えた転機が、『カラフルな魔女』の原点に
児童文学者・角野栄子さんに魅せられて企画を立ちあげ、NHKでシリーズもののドキュメンタリー番組を作り、さらには今回、映画化まで実現してしまった宮川麻里奈さん。職人肌のプロデューサーだ。
そもそもは、当時放送されていた『ルーブル美術館』みたいな教養番組を作りたくてNHKに入社したという。
「NHKではとりあえず最初のうちは、いろんな番組を担当する仕組みになっています。地方局では特に、のど自慢から高校野球、ニュースの中継、選挙報道にドキュメンタリーまで、なんでも。
そんななか20代で結婚、子どもが二人産まれて、30代は嵐のように過ぎました。で、40代でシングルになり、『制作統括』と呼ばれるプロデューサーになって、無我夢中で走ってきました。
テレビの仕事をしながらずっと感じていたことのひとつは、『インタビューって、難しくて、奥が深くて、面白いな』ということ。そこから、“達人同士にインタビューしあってもらう”『SWITCH インタビュー達人達』のアイデアも生まれました。
『あさイチ』には、テレビの原点ともいえる生放送の緊張感と手ごたえがありました。そのあと『所さん!事件ですよ』などを担当、そうこうするうち長男が大学に入り子育てに終わりが見えて、はっと気がついたら50代が目前に。
そんなとき、ふと『地に足のついた、スタイルのある暮らしを見つめるような番組を作りたいな』と思ったんです。
そのタイミングで角野栄子さんの番組を作ることができた。こんなに心から素敵と思える、取材していて楽しい方と出会えたのは、30年働いてきたご褒美じゃないかと思います。しかもこうして1本の映画という形で残せるなんて、感無量です。何の才能もない私は七転八倒でしたけど(笑)」
いつもは取材してインタビューする側の宮川さん。「自分が取材されるのは苦手」と笑いながら、プライベートなことも話してくれた。
「子どもが小さかった30代は、本当に怒濤の毎日でした。自転車の前と後ろに子どもを乗せて、シーツとか着替えでパンパンになった袋をふたつぶら下げて、自分の仕事用のカバンを背負って、朝夕自宅と保育園の間を激走してました。もう中国雑技団みたいな(笑)。
今思うと、よくあんなことできたな、と。
ただ食事を作ることだけはきちんとやろうと決めて、頑張りましたね。シッターさんを頼む日もありましたけど、夕食は温めればいいように準備してから出ていました。『あさイチ』の放送がある日は朝6時には家を出るんですけど、朝ご飯とお弁当は手抜きすることなくきちんと用意して」
自分のためにも、食事には手を抜かない。
「人一倍食い意地が張っているので、ちゃんと食べていないと、私は何のために仕事をしているんだろう?って、虚しくなってしまうんです(笑)。間に合わせのものばかり食べていると、イライラして、なにかよけいに疲れちゃう。
私、寝ないのは比較的大丈夫なんです。4時間とか5時間睡眠みたいなことが続いてもなんとか乗り切れるけど、食べないことには、耐えられません。
だから朝はしっかり、王様のように食べます。タンパク質、炭水化物、淡色野菜に緑黄色野菜、乳製品に果物は絶対。和食だったらけんちん汁に卵がけご飯とミカン、洋食だったら具だくさんのスープとトーストとフルーツヨーグルト、みたいな。あと、牛乳を飲まないと調子悪いので、必ず」
運動は?
「全然してないですねー(笑)。強いて言えば、階段は3階分は上がる、とか、5~6kmの距離なら自転車で行く、とか。通勤も自転車です。といっても電動自転車なので、何の自慢にもならないですけどね(笑)」
50代、更年期の真っ最中というタイミングだけど。
「今のところ、特に大きな不調は感じてないです。もともと痛みを感じにくい体質みたいで(笑)。
『あさイチ』を担当している頃は、更年期をテーマにいろいろ特集しましたし、情報もたくさん集めましたけど。でも『これは更年期のせいかも』と気にしすぎるとますます調子が悪くなってしまう気がして、あえて意識しないようにしているのかもしれません」
元気の素は、仕事で出会った人たちのリアルな言葉の数々だ。
「誰かの言葉の力って、強いですよね。『SWITCH インタビュー達人達』を作っている時は、私、『達人シャワー』って呼んでいたんですけど、毎週毎週人生の達人たちの言葉を浴び続けていると、どんどん自分のモチベーションが上がっていくんです。
『そういう発想はなかったな』とか『確かに、そう思えばいいんだ!』とか、元気をもらえました。心のありようで、毎日は全然変わるんだと思います。
今回の『カラフルな魔女』には角野さんの中で88年間醸成された言葉がたくさんでてきます。皆さんにはぜひスクリーンで、角野さんの珠玉の言葉と、角野さんというきらきらした存在を、シャワーのように浴びて欲しいです!」
二人の子どもは宮川さんのご飯を食べて順調に成長し、難関大学にも揃って一発合格。
「その子どもたちに、最近よく言われるんです。『お母さんはサメとかマグロみたいに、ずっと泳いでいないと死んでしまうタイプだから、定年退職したら腑抜けになりそうだね』って(笑)。ですからこれからも、自分が好きなこと、夢中になれることを探し続けていきたいと思っています。
そう、角野さんの言う『誰もがひとつだけ持てる魔法』ですよね。それを探すこと、探そうという気持ちを持つことが、大事なのかなって思います」
『カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし~』
児童文学作家・角野栄子さんに4年間密着したドキュメンタリー映画。カラフルなファッションと個性的な眼鏡がトレードマークの角野さんは現在88歳。波瀾万丈な人生を送りながら持ち前の冒険心と好奇心で多くの苦難を乗り越えてきた。『魔女の宅急便』をはじめ多くの名作を生み出し、2018年には「児童文学のノーベル賞」と言われる国際アンデルセン賞・作家賞を受賞した彼女の、創作の原点とは。今も連日長時間パソコンに向かい、精力的に創作に明け暮れる、その元気の素は? 語りは宮﨑あおいさんが担当している。
2024年1月26日(金)より角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー
配給:KADOKAWA
監督:宮川麻里奈 音楽:藤倉大
語り:宮﨑あおい
Ⓒ KADOKAWA