いきなりコンサートを開催して歌うと聞いて、驚くと同時にワクワクが止まらない。
清潔で上品な存在感、演技派・個性派と呼ばれ、幅広いファンを持つ俳優の彼女が、いったいどんな歌を、どんなふうに歌うのか? そしてどうして歌おうと思ったのか?
そもそも50代の今、どんなふうに毎日の暮らしを楽しんでいるのか?
いろんなことが聞きたくて、新人歌手・小林聡美さんに会ってきた。
撮影/露木聡子 ヘア&メイク/北 一騎 スタイリスト/藤谷のりこ 取材・文/岡本麻佑
小林聡美さん
Profile
こばやし・さとみ●1965年5月24日生まれ、東京都出身。1982年映画『転校生』(大林宣彦監督)の主演でフィルムデビュー、日本アカデミー賞新人賞を受賞。ドラマ『やっぱり猫が好き』『すいか』、映画『かもめ食堂』など、独特の雰囲気と精緻な演技で幅広い支持を集めている。2014年の映画『紙の月』では日本アカデミー賞助演女優賞を受賞。
歌を? 私が? 人前で?! 小林聡美さんが歌手デビュー!
4月、きっと桜が満開の頃、2デイズ4ステージのコンサートを開く。とはいえこの話、本人からの発案ではない。WOWOWが企画する俳優によるコンサート「NIGHT SPECTACLES」シリーズの第2弾。
オファーを受けたとき、小林聡美さんご自身の反応は?
「歌自体は好きですけれど、人前で歌ったことはなくて。ですからコンサートをするということが、どんなことか想像がつかなくて。でも想像がつかないからこそ、なんかこう、あまり気負わずに『じゃあ、やってみようかな』と」
GOサインが出て、そこから先は聡美ワールド。ユニット名は「チャッピー小林と東京ツタンカーメンズ」に決まった。
「スタッフの方たちといろんな意見を出し合っているうちに、みんなが『チャッピーっていう感じだよね』って(笑)。聡美→チャトミ→チャッピーって、私も昔、ひとりかふたりにそう呼ばれたこともあったし。ちょっと恥ずかしいですけどね、マジシャンみたいで。バンド名のツタンカーメンズというのは空から降りてきたんです、私の中に(笑)」
歌うのは、少々ディープな昭和歌謡らしい。
「私は、小学校6年生くらいのときにキャンディーズとかピンクレディにどっぷりハマった世代なんです。キャンディーズ、好きでした!
そもそも昭和歌謡って、メロディが優しいっていうか、あたたかいですよね。肌に合うのは私自身が昭和生まれだからかもしれないですけど、なにか地元に帰るみたいな(笑)。
歌詞も余白がたくさんあって。ちあきなおみさんの『喝采』なんて、子どもながらに、ドラマチックな雰囲気に圧倒されましたし。昭和歌謡のエッセンスは私の体の細胞に、否応なく染みこんでいると思います。
でも今回歌うのは、みんなが聴いたことのある昭和歌謡というより、もっとレアな(笑)。私が生まれる前の曲が半分以上だったりします。
リズムとかテンポがよくてワクワクして、元気になる曲が多いです。ですから、踊るつもりはないんですけど、自然とこう、踊らないで歌うほうが難しい楽曲ばかりで(笑)」
もちろん「人前で歌う」と決めた以上、生半可では臨まない。徐々にボイストレーニングも始めている。
「ボイトレを始めて、あ、歌ってこういうふうに歌うんだ、あ、声ってこうやって出すんだって、一から教えていただいています。以前はテレビを見て、この人あまり歌うまくないなと思っていた人が、実はどれだけうまいのか、自分で歌ってみて初めて気付きました(笑)。
歌い方にもいろいろあるんですね。それはそれですごく面白い。いや、面白がっている場合じゃない! 今、必死です」
自分の声は好きですか?
「私の声は低いので、高い声の人はいいなと思ったりしますけど、声って骨格にも関係していますよね。だからもう、こういう顔だからこういう声なんだろうなと(笑)。人の声を聞いて素敵だなとは思っても、自分がこうだったらいいなとは、あまり考えたことがないです。
これはもう授かったものですから、自分が好きにならないで誰が好きになる?と。欲を言えばいろいろありますけど、この人生はこの声なんだと思って仲良くしていきたいです」
サポート陣も強力だ。舞台演出は小泉今日子さん、ゲストに阿部サダヲさんと、これまた個性ビンビンの援軍がつく。
「小泉さんとは10代の頃から何度かお仕事をご一緒させていただいています。同世代だからか、話していて楽しいですね。
彼女は社会のことや周りのことを的確に見ていて、きちんと指示もできるし体現もできるし、本当にすごいプロフェッショナルな方で、尊敬しています。どんなふうに演出してくださるのか、楽しみです。
阿部さんは、2度ほど共演させていただきましたけど、お互いあまりおしゃべりをするタイプじゃないので、雰囲気しかわかりません(笑)。でも大好きです。繊細な部分と、とてつもない破裂力を持っていらっしゃるというか、振り幅の大きい魅力的な俳優さんですよね。グループ魂(阿部さんがボーカルを担当しているバンド)の破壊力もすごい。
そんな方とのステージは、いつか人生を振り返ったときに走馬灯の一場面になるんじゃないかと思います(笑)」
小林聡美さんの歌を聴きたい、だけじゃなく、そのときその場に居合わせたい。そう思わせるコンサートだ。
「とにかく私は自分が納得できる準備をして、そのときできる最大限のパフォーマンスをする、それだけです。ってこの、パフォーマンスという言葉も言い慣れないのでちょっと恥ずかしいんですけど(笑)。
歌で人を力づけたり慰めたり、本当に素晴らしいことだと思うんです。それをチャッピー小林として体験できるのであれば、最高の宝物経験になるはずですし。とにかく観客の皆さんに楽しんでもらうこと、それだけが私の願いです」
コンサートは体力勝負。ステージに立って歌うのは、心身共に楽じゃない。そのための日頃の体力作りやケアの話はインタビュー後編で詳しく。素敵なたたずまいとキレイな笑顔の秘密は、日々の暮らしの中に隠されているようで・・。
(小林さんが元気な理由についてのインタビュー後編はコチラ)
『小林聡美 NIGHT SPECTACLES チャッピー小林と東京ツタンカーメンズ』
WOWOWが手がける、俳優によるコンサートシリーズ第2弾。小林さんの“体に染みこんでいる昭和歌謡”をテーマに選曲、演出は小泉今日子さんが担当する。ゲストに阿部サダヲさんが出演。
2024年4月6日(土)、7日(日) 神奈川県横浜赤レンガ倉庫1号館3F イベントホール(各日2公演 計4公演)