「昨日のニュースで見たんだけど、ほら、あのドラマに出てたあの俳優。えっと、何てドラマだったかな…、俳優の名前は…」。会話の途中で肝心の単語が出てこなかったり、年を重ねるごとに「あれ」「それ」を連発するようになったと自覚している人も多いのでは?
「認知症の中で最も患者が多く、しかもその患者数が年々増加していると報告されているのがアルツハイマー病です。高齢者の病気と思われやすいのですが、発症の原因とされるアミロイドβの蓄積は30年くらい前から始まっています」
桜美林大学 大学院教授 同老年学総合研究所 所長の鈴木隆雄先生です。アミロイドβとは、“脳のゴミ”とも言われる老廃物。多少は溜まっていても正常ですが、加齢と共に除去する能力が衰えてくることで蓄積が進み、単語どころかエピソードごと抜けるなど『もの忘れ』が深刻に。
「認知症の予備軍とされる段階が軽度認知障害〈MCI〉です。認知症発症のリスクが高まっている状態ではありますが、この段階で予防すれば回復したり、発症を遅らせることが出来ると理解されています」
「あれ」「それ」が増えてきたからMCIという単純なものではないけれど、気軽に取り入れられる予防策があるならすぐにでも始めたいところです。
「脳の栄養とも呼ばれるたんぱく質BDNF(脳由来神経栄養因子)は、加齢や認知症発症によって血中濃度が低下します。神経細胞の発生・成長・維持・再生を促進させる物質ですから、予防には血中濃度を高く維持することが大切です」
このBDNFは運動によって増加することがあきらかになっていますが、食品の摂取による研究成果はあまりありませんでした。そんな中で、大きな進展が! 桜美林大学、東京都健康長寿医療センター研究所、明治の共同研究グループが世界で初めて、ヒトを対象にした試験でカマンベールチーズを食べることで血中BDNFの濃度が上昇すると確認したのだそう。
「以前から牛乳や乳製品が認知症発症を抑制するとの観察研究による発表はされていました。では、たんぱく質、ミネラル、ビタミンを効率よく補えるチーズはどうだろうとヒトを対象に調査を行ったのです」とは、東京都健康長寿医療センター研究所 研究部長の金憲経(キム ホンギョン)先生です。
MCIと判断された70歳以上の高齢女性71人を2グループに分け、それぞれ3カ月間、白カビ発酵チーズ(カマンベールチーズ)、あるいはカビ発酵していないプロセスチーズ(対象チーズ)を1日2ピース食べてもらう試験を実施。3カ月お休みした後、食べるチーズを入れ替えて同様の試験を実施したところ、カマンベールチーズを摂取したグループの血中BDNF濃度が有意に増加したことを確認。この研究成果は、老年学・老年医学分野で評価の高い国際科学雑誌「JAMDA」に掲載されたのだそうです。
さて、カマンベールチーズはそのまま食べるのはもちろん、飽きずに楽しむために、こんなアレンジを加えても。写真手前は、ドライフルーツとナッツ類、ローズマリー(生)をはちみつと混ぜてトッピング。左奥のカマンベールチーズに添えられているのはカレー粉です。これらはすべて、脳の機能を維持する働きや、認知症予防に良いとされる抗酸化作用を持った食材やスパイスなのだそう。
「カマンベールチーズ側面の柔らかい部分にカレー粉を付けて召しあがってみてください。ひと味違った美味しさが楽しめます」とは、上記のアレンジレシピを考案したC.P.A認定チーズプロフェッショナル・料理研究家の小野孝予さん。
「カマンベールチーズは、お味噌汁に入れてもまろやかな味になりますし、お醤油やお味噌と同様、チーズも発酵食品なので和風カレー鍋などとも好相性です」
ワインのお供、としてだけでなく、おやつとして、あるいは料理に加えて、1日2ピースのカマンベールチーズ、早速取り入れてみては?
取材・文/佐藤素美