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水源池と森のSDGs―地下水源の未来―

竹村和花

竹村和花

ミネラル水鑑定士協会(イタリア)公認水ソムリエ&水鑑定士(n.2689
2004年より 社)日本温泉協会にて6年間温泉コラムを連載。取材活動を通して日本の温泉が抱える源泉問題を知る。
2008年EUの地下水源の実情と法環境を取材調査するため現地に活動拠点を移す。
2019年フィレンツェ大学法学部で就学後、一時帰国中にミラノがロックダウン。
現在は日本からイタリアの生活で培った情報を発信中。
【所属】 社)日本旅行作家協会・正会員、温泉学会・理事

 

 

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竹村連載89地下水源01山並み

ボンジョルノ!こんにちは、水ソムリエ&水鑑定士の竹村和花です。

コロナ・デルタ株が急拡大する不気味な状況が続いていますが、お変わりありませんか。

今日は、春以降ミネラルウォーターとその関連業界で話題となっているフランス/ボルヴィックの水源枯渇について紹介します。

 

<世界自然遺産から生まれてくるミネラル水>

竹村連載89地下水源02ミネラル水

 

フランス中部に広がる緑豊かな火山性丘陵は、2018年7月2日バーレーンで開かれた第42回世界遺産委員会で『ピュイ山脈とリマーニュ断層の地殻変動地域』として世界遺産(自然遺産)に登録されました。

この自然遺産エリアから生まれてくるのが、世界的に有名なミネラルウォーター『ボルヴィック(Volvic)』(ダノン/Danone・日本ではキリンビバレッジ)です。

 

こう聞くと、なんて豊かな水源地から生まれてくるミネラル水なのだろう!と、思うでしょうし、同じミネラル水でもより美味しく感じてしまうのが人の心情です。

そして事実、フランスのプロモーションは美しく、イメージ戦略としては完璧でした。

背景には、ミネラル水がフランスの一大産業となりつつある現状があります。

ところが今年、2021年末をもって日本国内でのボルヴィック販売中止が決定。

続いて5月、この美しい水源地で進行する地下水源の枯渇問題を伝えたのが、APP通信(26.may.2021, (c)APP/Celine CASTELLA)でした。

 

<APP通信が伝えるボルヴィックの現状>

竹村連載89地下水源03水車

※写真はイメージです

 

記事では「この地域のすぐ近くには、仏食品・飲料大手ダノンのミネラルウォーター“ボルヴィック”の巨大なボトリング工場がり、仏政府は2014年以降、ダノンに年間280万立方メートル、1リットルボトルで換算すると28億本分の採水を許可している。これは、毎秒89リットル近くの水をくみ出していることになる」

と具体的な数値を上げながら現地の状況を伝えています。

 

日本の一般的な家庭用のお風呂の水量は約200ℓですので、2秒少々でお風呂がいっぱいになるくらいのスピードで、地下から水をくみ上げていることになります。そして、それが2014年以降ずっと続いている、というのです。

 

APP通信によって伝えられた現地の状況を要約すると、

「かつては水が膝の高さまであり、水車を2台回していた川が、最近では水車もなくなり川が干上がっていることが多くなった。また、かつては工場近くの養魚場でもボルヴィックの源泉が湧き出ていたが、いまでは数か月間まったく水が出ないこともある。さらに水不足により木々に覆われた丘陵の湿度が下がっており、地域の生物多様性に影響が出はじめている。

同地域にあるフランス国立科学研究センター(CNRS)の専門家、クリスティアン・アンブラール氏は『砂漠化の始まりと言える』と指摘しており、地元住民や地質学者は、過剰なミネラルウォーターの採水により、地域一帯が危険にさらされていると警鐘を鳴らしている。」

ということです。

※元記事(c)AFP/Celine CASTELLA(26.05.2021)

 

<他人事ではない!?日本の水源地の今>

竹村連載89地下水源04温泉

日本の場合は水道水がそのまま飲める国なので、フランスのように水道水のカルシウムの含有量が多すぎて、飲みものとしての水をミネラルウォーターに頼る国とは少し事情が異なります。

 

ですので、こうしたニュースを聞いてもあまりピンとこない方の方が多いかも知れません。

 

でも実際には、ミネラルウォーターのように“生きるために必要な水分としての水”ではない部分で、既に日本でも水源枯渇が始まっていることをご存じでしょうか。

 

日本の場合、水源地の枯渇問題は「温泉地での源泉枯渇」という表現で話題になります。

日本の温泉の枯渇問題は、ボルヴィックと同じく地下水源の枯渇問題なのです。

空から降り注いだ一滴の雨水が、温泉となって湧き出すよりもずっと早いスピードで、地下からお湯を吸い上げ続ければ、温泉が枯れるのは当たり前です。

 

 

<持続可能な開発バランス ―水源地の未来を考える―>

竹村連載89水源地05女性と水

この日本の温泉地が抱える源泉環境の問題は、まさに2009年以降、私が活動拠点をヨーロッパに移し、現地での温泉や水源地の環境(法律など)についてフィールドワークを始めた最大の理由でした。

 

それから10年以上が経過し、今、地下水源に限らず環境開発に厳しいEUの国々の中から、地下水源の枯渇問題が発覚し、日本にまで届く事態となったことに対し、正直私はとても驚いています。

 

温泉や水といった地下のものは一体誰のものなのか?

水や空気や自然環境は、個人の(あるいは)今生きている世代の人たちだけで使い尽くして良いものなのか?

極端な環境主義になるのではなく、ほんの少し考えてみる時間を作ること。

すべては、そこから始まるように思うのです。

持続可能な開発やそのバランスを見極めることは、これからも安定して豊かな暮らしを維持してゆくために不可欠な状態になってきています。

ミネラルウォーターを手にした人の一人ひとりが、

水源地の今と、過剰な搾取から訪れる未来を想像することが大切です。

それはフランスであれ、日本であれ同じで、枯渇する問題がミネラルウォーターであれ、温泉であれ地下水源であることに変わりはないのです。

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