油をとらないと、体をつくるために必要なタンパク質が不足してしまう!
最近、タンパク質の重要性については広く知られるようになりましたが、まだまだ誤解が多いのが脂質、つまり「油」のとり方です。体内でタンパク質にしっかり働いてもらうためには実は油が不可欠。では、その理由とは?
「私たちの体の細胞のひとつひとつにはミトコンドリアが存在し、そのミトコンドリアの中には、体を動かすエネルギーを生み出す代謝経路があります。このエネルギーを生み出すのに欠かせないのが、3大栄養素の糖質、脂質、タンパク質で、中でも最も効率のよい原料となるのが脂質です。
タンパク質も使われますが、脂質や糖質に比べると効率がよいとは言えません。
タンパク質は筋肉やホルモン、消化酵素など体をつくる材料になり、そちらに優先的に使われるからです。
ところが脂質が減るとタンパク質がエネルギー源として使われ、体をつくるためのタンパク質が不足してしまいます。これを防ぐために、良質な脂質をしっかりとったほうがよいのです。
ちなみに、ジムで筋トレをしている人などで、筋肉をつけるためにと、脂肪の少ない鶏の胸肉とブロッコリーしか食べず、脂質はまったくとらないという人がいますが、この食べ方だとタンパク質がエネルギーを生み出すことに使われてしまい、筋肉をつくる分のタンパク質が不足してしまうことを理解していただきたいですね」(金津里佳さん)
加熱調理には、酸化しにくい動物性の油やココナッツオイルが◎
では、どんな油を選んでとるとよいのでしょうか?
「油ならなんでもよいわけではなく、質のよいものを選んでとることが大切です。
まず、加熱調理におすすめの油は、構造が安定していて酸化しにくい飽和脂肪酸、つまりバター、ラード、牛脂などのような動物性の脂です。
酸化した脂がなぜよくないかというと、ヒトの細胞の膜は油でつくられているので、それが酸化した油でつくられると、膜がガチガチになって栄養素が取り込まれにくくなり、細胞の働きが低下するからです。
私は炒め物にはバターやラードを使っています。最近、よく見かけるようになったマヨネーズのような容器に入っているラードは使いやすいのでおすすめです。肉を炒めるときに使うとコクが出ておいしいですよ。
ちなみに、肉の脂も飽和脂肪酸で、酸化しにくいので悪者ではありません。ただし、肉は質が重要で、どんな飼料で育てられているかによって質に大きな差が出ます。例えば牛は牧草だけを食べて育つのが本来の姿なので、グラスフェッドビーフなら肉質も脂も良質です。
あまりにも安い肉は質の悪い飼料で育てられた可能性が高く、脂の質も悪いので避けましょう。良質な肉の脂は白っぽいですが、質の悪い肉は臭みが強かったり、脂が黄色くなっていたりするので、買うときの参考に。
そのほか、加熱調理にはココナッツオイルもおすすめです。植物由来ですが飽和脂肪酸が多く、酸化しにくいのが特徴。無臭タイプも売られているので、そういったものを選べば料理の味をじゃましないのでおすすめです。ただし、粗悪品もあるので、有機JASマークがついているものを選びましょう。
逆に控えたほうがいい油は、サラダ油や、加工食品に多く使用される食用油脂などのオメガ6系の油です。現代人は過剰摂取ぎみで、とりすぎると炎症の原因になるのでなるべく控えましょう」
加熱せずにとりたい油は、オメガ3系の不飽和脂肪酸
では、加熱しない場合におすすめの油とは?
「最も積極的にとりたいのはオメガ3系の不飽和脂肪酸。亜麻仁油、えごま油、青魚などに含まれる油です。これは体内でつくることができない必須脂肪酸で、ほとんどの人が不足しています。
このオメガ3系の油はとても酸化しやすいので、亜麻仁油やえごま油は加熱調理には使わず、サラダや納豆などにかけてとるのがポイントです。
亜麻仁油やえごま油に醤油や岩塩を混ぜ、刺身にかけてカルパッチョ風にすると、良質の油とタンパク質が同時にとれるのでおすすめです。
また、常温以下の飲み物に入れてとってもいいですし、スプーン1杯程度をそのまま飲むのもいいと思います。ただし、亜麻仁油やえごま油は、容器に低温圧搾製法と書かれたものを選びましょう」
ちなみに、オリーブオイルやごま油はとってもOK?
「オリーブオイルはオメガ9系の脂肪酸で、体内でつくることができますし、加熱によって酸化してしまうので、積極的にとる必要はありません。ただ、良質なオリーブオイルには抗酸化作用が高いポリフェノールが豊富なので、この点ではおすすめ。とるときは加熱せず、サラダなど完成した料理にかけてとりましょう。
また、ごま油もオメガ6系とオメガ9系の脂肪酸なので積極的にとる必要はありません。こちらも酸化しやすいので、料理ができたあとに風味づけに加えるというような使い方をするといいと思います」
上記のような点に気をつけて賢く油をとって、タンパク質に体でしっかり働いてもらいましょう。
【教えていただいた方】
医療法人美健会 ルネスクリニック東京・管理栄養士。北陸学院大学短期大学部食物栄養学科卒業。産科婦人科、人工透析科、栄養療法を主とする自由診療クリニックでの勤務を経て、2019年より現職。「人の身体はみな同じではない」をつねに意識し、日々の栄養カウンセリングに臨む。「食事は治療」との信念から一生続く食事という行為を根本治療ととらえ、論拠が納得できる正しい情報を届けたいという思いから、書籍などで情報を発信。著書に『9割が間違っている「たんぱく質」の摂り方』(青春出版社)がある。 金津さんphoto/久富健太郎
写真/Shutterstock 取材・文/和田美穂