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人生の後半戦、納得のいく家づくりの第一歩は、自分の「好き」を見つめ直すこと。「みんなの憧れ、行正り香さんにきく〝50代。これからの住まい〟に思うこと〟」

50代になると老後(人生の後半戦)を意識し始める人も多いのでは。老後を快適に暮らすには住まいについて見直すことが大切です。料理家であり、北欧インテリアに造詣が深くインテリアコーディネーターや生活空間プロデューサーとしても活躍の行正り香さんに、50代に向けた心地よい家づくりのポイントを教えていただきました!

行正り香
行正り香さん
料理家、インテリアデザイナー
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福岡県生まれ。高校3年生からカリフォルニアに留学。大学卒業後は広告代理店でCMプロデューサーとして活躍後、料理研究家となる。またデンマーク親善大使に選ばれるなど北欧インテリアに造詣が深く、インテリアコーディネーターやリフォームプランナーとして、多数の家づくりに携わる。料理レシピ本のほか、インテリア本、英語スピーキング教材など著書は50冊以上。2023年、東京国立博物館のアンバサダーに就任。館内のレストラン・カフェ「ゆりの木」の照明ディレクションのサポートを務める。最新刊は『人生を変えるリノベーション』(講談社)。

 

はじめまして、行正り香です。

 

料理家として活動するほか、インテリア本を出版し、インテリアコーディネーターや生活空間プロデューサーとして家づくりから店舗の内装デザインなど、暮らしやすい生活空間を演出したり、理想の空間イメージを具体的な色や内装、家具、照明、ファブリックなどで具体的な形にするお手伝いをしています。

 

OurAge世代の皆さんは、だんだんお子さんも手が離れてくる年代ですね。

子どもが小さいうちは、とにかく機能重視で家具などを選んでいたのではないでしょうか。

でも子どもが巣立ったあとの生活を少しずつ意識し始める40代後半や50代になってきたら、空間に彩りを加えていくこと、家族のためというより自分のための空間を考えていくといいと思います。

 

この年代はリフォームとか住み替えというと、「老後を見据えて、まずはバリアフリーにしたほうがいいのかな」と思う方も多いと思います。でも私はそれよりも、家を自分が心地よいと感じる空間にするにはどうしたらいいかを考えることをおすすめしています。

 

「家を暮らしやすくする」と考えると、その手段として頭に浮かぶのがリノベーション。リフォームともいいます。先ほどもお話に出たバリアフリーのような構造面のほかに、システムキッチンの入れ替えなど設備面で家の中を変えていくことを想像しますよね。

 

でも「暮らしやすくする」というより「心地よいと感じる空間にするにはどうしたらいいか」を考えてみたら、必要なことはバリアフリー化やシステムキッチンの入れ替えではないかもしれません。

 

自分が大事にしている時間は何か

家でどんなことを楽しみたいのか

ということをじっくり考えていけば、自分にとって心地よい空間とはどのようなものなのか、つまり理想が見えてきます。

 

そういった住まいについての理想を突き詰めて、その理想をかなえる家につくっていくことが私にとってのリノベーションです。

「理想」を考えてみたら、必要なのは家具や照明を替えていくことで、バリアフリー化や大がかりな設備の入れ替えではなかったということもあるのです。

 

この連載では、そういったあなたにとって心地よい空間をつくるために大切なことを具体的にお伝えしていきたいと思います。

 

◆自分が好きだと思う、真似したい空間のビジュアルを探す

 

とはいえ、「住まいを心地よくする」といっても、「では何をしたらいいの?」と思ってしまいますよね。

 

まずは、自分が好きな空間のお手本となるビジュアルを探すこと(インテリアの実例、建物の施行事例などの実例を見つけること。雑誌や写真集、映画のシーンから探します)から始めていきましょう。

お子さんが巣立って夫婦二人だけの暮らしになるとするなら、夫婦で納得がいくビジュアルを見つけることが大切です。

 

私がインテリアのお仕事を通じて、いろいろなご夫婦を見て思ったのは、理想がわからないまま動き出してしまうと途中でもめてしまうということ。

妻が「こうしたい」ということを夫は「やりたくない」など、もめにもめて大変なことになるのです。

 

 

夫婦って、お互いのことをわかっているようでわかっていない部分がありますよね。

 

妻が「私はこんな部屋に住みたい」というのをどんなに言葉で表しても、結局うまく伝わっていなかったということも多くあります。

 

例えば「シックなテイストにしたい」と妻が言い、夫も「シック、いいね」と賛成したとします。

 

ところが妻が思い描いている「シックなテイスト」と、夫が「シック」ときいて頭に浮かべるイメージに大きな隔たりがある場合、もめるのです。

 

だからこそ、言葉だけに頼らないで、目で見てわかるビジュアルを提示し、どんな空間、どんなインテリアを目指したいのかを共有していくことが大切なんです。

 

逆にいうと、住まいの理想を見つけるためには、ぜひたくさん〝けんか〟をしていいのです。

 

ここでいう〝けんか〟とは、「僕はアマンのスタイルが好き」「えー、私はむしろ帝国ホテルみたいなのが好きだわ、例えばこのお宅はどう?」「うーん…だったらこういうパーク ハイアットの感じの家はどう?」など、二人が納得のいくものを見つけるためのディスカッションのこと。

 

言葉だけではうまく伝わらなかったことも、ビジュアルを見せ合いながらディスカッションすることで、「私が言っていた〝シック〟っていうのはこういう感じなの」「なるほど」とわかり合うことができます。

二人が納得できるところまで、根気よくあれこれ探していくことが大切です。

 

 

◆なぜ自分たちはそのテイストが好きなのか、分析を

 

こうしてお互いに納得できる一枚のビジュアルが見つかったなら、そこからどうやったら理想の空間にできるかを考える作業に移ります。

 

そこで必要な作業は、なぜ自分たちはそれを好きなのかを徹底的に分析していくこと。

 

ビジュアルを見ながら、

「キーカラーはどんな色にしている?」

「メインとなる建材はどんな素材を使っているのだろう?」

などひもといていくことで、自分たちの住まいづくりに取り入れられる部分が見えてきます。

 

例えば、夫婦二人が納得した理想の住まいのビジュアルが全部茶色系に統一したものであるなら、茶色のグラデーションでインテリアを構成しようとか、色鮮やかな赤と緑をキーカラーにした空間であれば「うちもそうしてみよう」など。

 

そうやっていくことで、目指すゴールがだんだん見えてきます。

 

〔上の写真:都内にある行正さんの自宅リビング。インテリアは茶系のグラデーションでそろえ、緑(観葉植物と右側壁の絵画)と赤(奥の壁の絵画)が差し色になっている〕

 

 

自分たちの「好き(理想)」がわかりゴールが見えたら、今度は次のことを考えていきましょう。

 

模様替えするのかリノベーション(壁紙や床の張り替え、床間取りの変更など大がかりなもの)をするのか

模様替えの場合はインテリアコーディネーターさんに依頼するかどうか

リノベーションをするならフルリノベーション、部分リノベーションのどちらにするのか

リノベーションは建築家さんに依頼するのか、ハウスメーカーなどのパッケージリノベにするのか

 

ほかにも考えなければいけないのが気力、体力、予算です。

 

インテリアは建築関係の資料を探して読み込んで、それらの中から選び取っていくのに体力や気力が必要だからです。

 

またインテリアコーディネーターや建築家といったプロに依頼するなら、相応の予算も必要となってきます。

こうしたことを考えていくと、模様替えや家具の買い替えですむ話なのか、工務店や設計事務所に相談するようなリノベーションの必要があるのかが見えてきます。

 

 

◆自分ができることや予算を考え、リノベの仕方や個性の出し方を考える

 

予算に余裕があって、インテリアコーディネーターさんや建築家さんといったプロに依頼する場合も、やはり理想の住まいのビジュアルを自分たちであらかじめ見つけておくことは大切です。

 

なぜかというと、プロに理想のテイストから探すことを頼むのは可能ですが、そうなると相手はいろいろなバリエーションを提案しようと頑張り、バリエーションが増えるたびにどんどんコストがかかってしまうからです。

 

インテリアコーディネーターや建築家さんにはそれぞれのスタイルがあり、依頼主はたいがいそのインテリアコーディネーターや建築家のスタイルが好きだから依頼します。だから実現したいそもそもの理想(テイスト)がわかっていないと、どのインテリアコーディネーターや建築家に依頼すべきなのかすら、わからなくなるのです。

 

ゴールとなるビジュアルを見つけたら、それに近いものを提案しているプロは誰なのかを探すのです。

逆に言えば、その誰かを探すには「自分の好き(理想)」がわからないと前に進めないということ。

 

例えば、私がインテリアのお仕事を受ける場合、私が現在所有している下記の3つの物件から好みのタイプを選んでもらいます。

 

・自宅のような「モダン×北欧」

・スタジオのような「クラシカル×北欧」

・京都の家の「日本×北欧」

 

インテリアは、壁の色ひとつ、フローリングの床板の幅ひとつとっても、選択肢がたくさん。決めることが山ほどあります。

 

 

♦家づくりに必要なのはお金(予算)だけではない。気力と体力も必要

 

例えばドアの把手を選ぶという場合。

 

把手ひとつにもものすごい種類があって、その中から選ぶのは結構大変なのです。

私の場合は「真鍮の把手にしたい」と思ったので、家全体でテイストを統一していますが、どれも選びに選び抜いたものを使っています。

〔上の3枚の写真、上から:キッチンにある食器棚の把手、リビングの引き戸の把手、リビングのチェストの把手。すべて自分で探し、つけ替えたもの〕

 

こうしてこだわればこだわるほど自分で探し求め、集めた情報の中から自分で選び取っていくことが増えていきます。

 

先ほどのお話と重複しますが、心地よいすまいをつくり上げていくには、

どれだけ予算がかけられるか

だけではなく

どれだけ自分で選ぶ手間をかけられるか(気力、体力があるか)

ということも考えないといけません。

 

ですから「老後になってから考えればいいや」と定年を迎えてから考え始めるよりも、体力も気力もある50代のうちから考えて行動するほうがおすすめです。

 

そもそも理想のビジュアル探しだって、探し始めてすぐ見つかるとは限りません。

 

日頃から素敵なものやいいものを見る習慣をつけて、自分の「好き」が何かを考えてみてください

それが理想を見つける一番の方法です。

 

次回も心地よいすまいづくりのヒントをお話ししていきます。

お楽しみに!

 

取材・文/倉澤真由美 撮影/本多佳子

 

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