福岡県生まれ。高校3年生からカリフォルニアに留学。大学卒業後は広告代理店でCMプロデューサーとして活躍後、料理研究家となる。またデンマーク親善大使に選ばれるなど北欧インテリアに造詣が深く、インテリアコーディネーターやリフォームプランナーとして、多数の家づくりに携わる。料理レシピ本のほか、インテリア本、英語スピーキング教材など著書は50冊以上。2023年、東京国立博物館のアンバサダーに就任。館内のレストラン・カフェ「ゆりの木」の照明ディレクションのサポートを務める。最新刊は『人生を変えるリノベーション』(講談社)。
こんにちは、行正り香です。
前回は、心地よいすまいづくりの第一歩は自分の「好き(理想)」を見つけること、というお話をしました。
とはいえ、理想を見つけたあと、どうするのか。その選択肢はいろいろあります。
模様替えですませるのか、インテリアコーディネーターなどプロの手を借りるのか、工務店などに頼んで間取りの変更など大がかりなリノベーション(リフォーム)までするのか、など。
どれを選ぶかで、かかる予算も手間も時間も大きく変わるので悩むところですよね。
そこで今回は、「これを替えれば劇的にインテリアの印象に変化をもたらすもの」をご紹介します。
住まいを劇的に変えるもの、それは照明です。
〔写真上:大好きなデンマークのブランド、ルイスポールセン。なかでもお気に入りがこのPH アーティチョーク〕
◆ライトは温かい色を選んで、明るさを絞る
まずは照明についているLED電球を見直してみるだけでも、部屋の雰囲気が変わります。
白色系(蛍光灯の色)の光は、仕事や勉強をするのに向いていますが、心地よい空間づくりには向いていません。
おすすめは、電球色です。
電球色とは、オレンジ色がかった温かみのある光の色です。
電球色を選ぶこと、その際には20W程度の明るすぎないものにするだけでも大きく雰囲気が変わります。
一般的には60Wの電球を使うことが多いので、20Wでは暗いのでは?と思うかもしれません。
でも、20Wでも十分明るいですし、なんなら10W台でもいいくらいです。
電球は明るさを絞って、落ち着いた色合いのものを選ぶようにしましょう。
◆ひとつの照明ですませるのではなく、いくつも組み合わせた多灯を
また、部屋に置く照明の種類についても考えていきましょう。
日本では一般的に、天井に設置して部屋全体を照らすシーリングライトが居住空間に使われていることが多いですよね。
でも、シーリングライトのような部屋全体を照らす明かりひとつですませるのではなく、いくつもの照明を使えば、部屋の印象にメリハリが生まれます。
我が家はペンダントライト、テーブルスタンド、フロアスタンド、ダウンライト、スポットライト、キャンドルといった部分照明をいくつも置いています。
〔上の写真:行正邸のリビング。テーブル上のキャンドル、天井から吊るされたPH アーティチョーク、そして部屋の奥のフロアランプ(ルイスポールセン)、このワンカットだけでも3つの照明が効果的に配置されているのがわかる〕
普段シーリングライトを使っているお宅なら、勉強や仕事の際にはシーリングライトで部屋全体を照らし、食事や音楽を聴いたりといったリラックスタイムにはシーリングライトを消し、いくつもの部分照明を組み合わせた多灯にしてみる。
これだけでも部屋が心地よく、落ち着いた雰囲気に変わります。
◆ライトを使いこなすことで生まれる光と影を楽しむ
また、一室多灯にする際にポイントとなるのが光と陰。
一般的なお宅では影をなくす照明の使い方をしていることが多いのですが、あえて影を意識してみることでいつもの空間がまた違ったものになります。
〔上の写真:キッチンカウンター上には小ぶりなスタンドライトが。陰影が生まれ、並んだキッチンアイテムがまるで静物画のような印象に〕
例えば我が家では、天井に埋め込むタイプのダウンライトは、壁から50~60㎝のところに、ユニバーサルタイプという光の角度が変えられるタイプのライトを設置しています。
ユニバーサルタイプは狭角、中角、広角と光を当てる幅を変えられますが、私は必ず幅が狭いものを使います。
そうすることで、光が縦に流れて影が生まれるのです。
絵もあちこちに飾っていますが、そこにも照明の工夫をしています。
絵全体や絵が飾ってある壁全体にまんべんなく均一の光を当てるのではなく、スポットライトのように当てているのです。
そうすることで、光と影が生まれてさらに雰囲気のある印象になります。
〔上の写真:まるでカフェのようなサニタリー。絵に当たったダウンライトと鏡のそばに垂らされたランプの生む陰影が、知的で静謐なインテリアにさらなる深みを与えている〕
また、人は光があるところを空間として認識し、影があるところは空間として認識しません。
その性質を利用して、部屋の奥にスタンドライトを置くことで、部屋に広がりを生む効果をねらっています。
このように、空間に陰影をつけることで心地よい雰囲気と広がりが生まれるのです。
◆照明器具は空間に浮かぶ彫刻。部屋に立体感を生み出すものを
ですから、部屋の雰囲気を大きく変えたいのなら、思い切って部屋全体を照らしているシーリングライトを替えてみましょう。
照明というと、なんとなく「明るければいい」くらいであまり意識していない方もいるかもしれません。
でも、天井につけているシーリングライトを外してランプを垂らしてみるだけでも、部屋に立体感が生まれ、まるでリフォームしたくらいの劇的な変化をもたらしますよ。
照明は、大きさや使われている材質により重さはまちまちです。
重量がある照明をつける場合は天井を補強する必要が出てきますが、そうでない場合は一般的なシーリングライトをつけられるところであれば、ペンダントライトなどの〝垂らすタイプの照明〟をつけることができます。
こうした垂らすタイプの照明器具を、私は空間に浮かぶ彫刻ととらえています。
照明を垂らすことで、空間に動きやリズムが出るのです。
垂らして使う照明には、ランプ型やちょうちんのような形などさまざまなタイプがあります。意外にも裸電球をそのまま垂らすだけでもかっこいい雰囲気になるんですよ。
このように照明を垂らしてみるのは、インテリア初心者も取り入れやすい方法だと思います。
そして垂らすタイプの照明をつける場合、迷いがちなのがどれくらいの高さに垂らすのかということ。
照明の高さを決めるコツは難しいのですが、基本的にはテーブルの上に垂らす場合、サイズが小さい照明であれば、照明の下部がテーブルから70㎝くらいのところにくるようにします。
とはいえ我が家の場合、食卓の上に下げている照明は大きめなので、少し上に設置しています。
ダイニングチェアに座ったときにお月さまが浮いているような感じにしたかったのと、目立つけれど生活のじゃまにならない位置を考えたらこの高さになりました。
私はインテリアの仕事でいろいろなお宅に照明を設置しに行きますが、とりわけ垂らすタイプの照明のときは、そのお宅に実際に行って部屋を見てみないと高さが決まりません。
なぜならまったく同じ照明を使う場合でも、ベストな高さがお宅ごとに違うからです。
ぐっと下ろしたほうがいい家もあるし、逆に低いと雰囲気になじまない家もあります。
照明は奥が深く試行錯誤の連続ですが、私が空間をコーディネートするうえでいちばん好きなジャンルでもあります。
私は東京国立博物館のレストラン・カフェ「ゆりの木」の照明ディレクションもしていますが、そのカフェではルイスポールセンのラジオハウス ペンダントという照明を使っています。
訪れる人にとってカフェが美術館に行く楽しみのひとつになったらいいなと思っています。
部屋を心地よくしたいけれど、どこから始めたらいいのかわからない…という人は、手始めに照明を替えることを検討してみてください。
想像した以上に、雰囲気が変わってくるかもしれませんよ。
次回も心地よいすまいづくりのヒントをお話ししていきます。
お楽しみに!
取材・文/倉澤真由美 撮影/本多佳子