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【遠距離介護】見守りサービスやIT機器も活用。献身的な世話や理想の看取りにはこだわらないで

遠方に住む郷里の親が要介護になったら? 老いた親を放っておけないけれど、たびたび帰省するのも難しい…仕事を辞めて実家に帰る? でも、今の自分の仕事・生活も維持したい。この悩ましい問題について、介護者メンタルケア協会代表の橋中今日子さんにアドバイスをいただきました。

無理は禁物。親も子もできるだけ今の生活環境を維持

 

セトッチ:故郷を離れて長年、遠方で暮らしてきた人の中には、「親が要介護になったらどうしたらいいのか」という不安を持っている人も多いですね。

 

橋中:難しい問題ですね。介護する人の仕事や家族関係、生活スタイル、実家までの移動時間、介護が必要な人の状態(要介護度)にもよるので、一概にはいえないというか、正解はないのですが…。

 

セトッチ:仕事を辞めて実家に戻るという選択をする人もいますが、それはやはり相当勇気がいるのではないかと…。

 

橋中:もしも、実家に帰ることを望んでいるわけではなく、介護のためだけに仕事を辞めようとしているのであれば、慎重に検討したほうがいいと思います。というのも、介護離職によって経済的に苦しくなり、親子共倒れになってしまうことがあるからです。

また、介護が終了した後のご自身の生活を維持できなくなる危険性もあります。介護が終わったら再就職するつもりでも、中高年になれば条件のよい職場はそうありません。

 

セトッチ:では逆に要介護の親を、今、自分が暮らしている場所に呼び寄せるという方法はどうでしょうか?

 

橋中:その場合は、まず親の希望を尊重したいですね。というのも、住み慣れた地域を離れることで、暮らし方や交友関係といった生活環境が一変します。それは高齢の方にとって、かなりのストレス。そこまでして、子どものそばにいることが幸せとは限らないのではないかと思います。

 

セトッチ:でも、そうなると、親の介護は誰がやるのでしょうか?

 

橋中:「子どもである自分がやらなくては…」と自分一人で背負って、苦しんでいる人が多いのですが、高齢化がこれほど進んだ現代は、介護を個々の家庭で子どもだけが背負うのは難しくなっています。高齢者は社会全体で支える時代。ぜひ介護保険サービスを頼ってください。

 

また、お世話をすることだけが介護ではないです。子どもが親にできること、子どもにしかできないことはいっぱいあります。親も子もできるだけ自分の生活スタイルを変えず、遠方で暮らしながらも、介護環境を整えることで親を見守る「遠距離介護」を選択る人が増えつつあります。

介護の申請手続きは電話とインターネットを活用して

 

セトッチ:遠距離介護とは、具体的にどんなことをすればよいのでしょうか?

 

橋中:まずは、介護認定のための調査員の訪問に対応したり、サービスの利用方法について地域包括支援センターへ相談しに行ったりして、介護環境を整えることです。

 

セトッチ:遠く離れた場所に住んでいると、それだけでも大変そうですね。

 

橋中:はい。帰省できる回数や時間が限られているので、効率よく進める工夫は必要ですね。

 

まず、親の家の近くの地域包括支援センターをインターネットで調べ、電話をしてみてください。そして、親の今の状況と介護保険の申請をしたい旨を伝え、手続きに必要な書類などを確認します。近年はこうした方が多いので、遠方に住んでいる旨を伝えれば電話で相談にも乗ってもらえますし、いろいろと教えてもらえると思います。

 

そして、必要な書類を準備したうえで、要介護認定の調査員が訪問するタイミングに合わせて帰省。さらに、地域包括支援センターを訪れ、ケアプランなどの話し合いもすれば、かなり効率的に介護生活の環境を整えることができます。

また、要介護認定が下りて、ケアプランに沿った介護生活がスタートしたあとはケアマネジャーと連絡を取り合って、親の状況を把握するようにしましょう。

 

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親の周囲の人たちとのコミュニケーションが遠距離介護のカギ

 

セトッチ:ケアプランが決まるとひと安心かなと思いますが、高齢の親の場合、急に体調をくずすなど、何かとイレギュラーなことも起きると思うのですが、そういうときのために準備しておけることは何かありますか?

 

橋中:落ち着いている状態のときに、緊急時のための準備をしておきたいですね。まずは「何かあったとき」に様子を見に行ってくれる人を探しておきましょう。例えば、親と交流のあった親戚や知人、ご近所さんたち。こうした人たちが、遠距離介護を円滑に進めるカギではないかと思います。

 

こうした、親の近くにいる人たちとの人間関係を良好に保つよう、帰省した際には挨拶に行ったり、連絡を取ったり、コミュニケーションを深めておくとよいと思います。

 

セトッチ:周囲の人たちの助けを借りることに、遠慮がある人も多いかもしれませんが…。

 

橋中:そうですね。でも残念ながら、介護保険サービスだけで介護が必要な方の暮らしをすべて支えることはできません。時には、民間サービスや地域の方々の力を借りることも必要になるでしょう。

 

•フォーマルサービス:「介護保険」「育児・介護休業法」などの公的制度
•インフォーマルサービス:移動スーパー、宅食サービスなどの民間サービスや、ご近所さんの助け、地域のボランティア など

 

公的なサービス(フォーマルサービス)と、地域の支えや民間サービス(インフォーマルサービス)を組み合わせることで、要介護の方の安心が確保され、ご家族の負担も軽減されます。

 

また、地域包括センターを訪れた際には、近所の民生委員の方の連絡先も聞いてみましょう。民生委員とは、ボランティアで活動する非常勤の地方公務員で、地域の見守りや相談、支援、福祉活動を行う方たちです。地域に密着しているので地域の情報にも詳しく、実際に訪問して状況を確認してくれるなど、とても心強い味方です。

 

さらに最近は、離れて暮らす家族を見守るサービス、IT機器がいろいろあります。こうしたものの活用を検討してみるのもよいでしょう。


親にも子にも負担にならず、さりげなく見守るサービス

 

セトッチ:コロナ禍を経てリモート会議など、通信機器を活用してさまざまな業務が可能になった現在、離れて暮らす親の様子をこうした通信機器で知ることもできそうですが…。カメラを設置するというのは、まるで監視のようで、見守られる親も見守る子どもも、ちょっと嫌なのかなぁと思います。

 

橋中:そうですね。さりげなく見守るサービスが人気のようです。

 

NTTドコモ “デジタル近居”サービス「ちかく」
NTTドコモ_chikaku_親機設置風景

NTTドコモ_chikaku_アプリ画面

 

白い家型の端末を実家のテレビに接続するだけ(Wi-Fi設定不要)。スマホアプリで、親の在室状況や起床・就寝時間などの生活リズムを確認でき、起床が確認できないと通知が届くなど、日常的な安否確認が可能。スマホが苦手な高齢の方でも、普段利用しているテレビ画面で簡単に顔を見ながらビデオ通話もできて、より安心です(最大4名で同時通話可)。

 

記事が続きます

象印 「みまもりほっとライン」

 

象印見守りぽっと

サービス開始から20年以上。これまでに1万4000人以上(2024年12月20日時点)が利用してきた「安否確認サービス」。親の家に通信機能を持った電気ポットを設置すると、使用状況が、指定した時刻に登録したメールアドレス(3つまで登録可能)に届きます。インターネット・Wi-Fi不要。ポットを置くだけですぐに使用可能。新品のレンタルのため清潔・安心です。

 

パナソニック「あかりdeみまもりサービス」対応 パルック LEDシーリングライト

panasonic_シーリングライト

 

「あかりdeみまもりサービス」対応のパルック LEDシーリングライトを、見守りたい家族の部屋のWi-Fiに接続し、スマートフォンの専用アプリで点灯状態(点灯・消灯)を確認。過去1週間の操作履歴(点灯・常夜灯・消灯)も見ることができます。ライトは、省エネ設計で、細かい手作業や文字を読むときに便利な「明るさアップ機能」等を搭載。

 

橋中:また、全国に拠点があり、郵便の配達を通して地域の家々をよく知る郵便局ならではの地域密着型の訪問サービスもあります。

 

「郵便局のみまもりサービス」

 

郵便局見守りサービス_イメージイラスト

離れて暮らす高齢者等を近隣の郵便局員が毎月訪問し、生活状況を確認。そのときの様子を写真とともに報告してくれます。こうした、「人づきあいを通じた会話が認知症予防にも効果がある」との研究結果も報告されています。

 

 

看取りにこだわらず、一緒に過ごせた時間を大切に

 

セトッチ:それから、こうした実務的なお世話や見守りの面だけでなく、要介護の親と遠く離れて暮らしている場合、看取りができないのではという心配もあるかと思います。

 

橋中:お気持ち、よくわかります。でも、看取りというのは、希望していたとおりにはできないことのほうが多いのだというふうに思っていたほうがよいかもしれませんね。

 

同居して、毎日介護をしていても、最期に立ち会えるとは限らないのです。一生懸命介護をしている人ほど、最期をきちんと見届けたいと願っているものですが、ほんの少しの時間、離れただけなのに運悪く「そのとき」が訪れてしまうということもあるのです。

あくまでも個人的な考えですが、看取りの瞬間にこだわる必要はないのではないかと思っています。

 

「看取り」とは最期の瞬間に立ち会うことだけを意味するものではありません。介護をしている日々の中、介護されている人のそばにいてともに時間を過ごし、不安な気持ちに寄り添って、過ごした日々も立派な看取りです。

 

息を引き取る瞬間には間に合わなかったとしても、要介護状態にあるときにベッドのそばで手を握ったことや、わずか数分間でも一緒に笑って過ごしたことで、感謝や見送りの気持ちは伝わっているのではないかと思います。

 

介護をしていた家族が亡くなったあと、「できなかったこと」に対する自責の念で苦しくなったときは、したかったこと、してあげたかったことを書き出したり、亡き人に向けた手紙を書いたりすることで、心の痛みを少し緩めることができます。

 

そして、もし心に余裕が生まれたら、一緒に過ごした時間の中で「できなかったこと」ではなく「できたこと」に目を向けていただけたらと思います。

 

セトッチ:介護をするというのは、体力的にも精神的にもやはり大変なことが多いですね…。やはり、一人で背負うのは厳しいです…。

 

橋中:介護をする人の状況は千差万別ですし、正解もない中、厳しい選択を迫られる場面も少なくないです。

 

ですから、孤独感を感じたり、いら立ちを感じたりしたときには、窓を開けて空を見る、風に当たるなど、自然や気候の変化に意識を向けてみましょう。そして、少し心の余裕を取り戻せたら、ケアマネジャーや友人、職場の人に相談や助けを求めることを視野に入れてみてください。

 

相談しても、介護のトラブルや負担をすぐにゼロにすることはできません。でも、話せた、わかってもらえたという体験は、心の安定とケアにつながります。わかってもらえない! と思ったときこそ、「つらい、助けてほしい」という声を上げてほしいと願っています。

 

 

【お話を伺った人】

橋中今日子
橋中今日子さん
理学療法士・公認心理師  介護者メンタルケア協会代表
公式サイトを見る

リハビリの専門家として病院に勤務するかたわら、家族3人(認知症の祖母、重度身体障害の母、知的障害の弟)の介護を20年以上にわたって一人で行う。自分の介護体験と、病院勤務の経験、心理学やコーチングの学びを生かし、これまで2000件以上の介護相談に乗る。介護者のケア、介護と仕事の両立、ヤングケアラー問題、グリーフケアに取り組むほか、医療/介護/福祉従事者自身のケアや職場環境づくりにも注力。自身も元ヤングケアラー。

 

取材・文/瀬戸由美子

 

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