美と健康を気遣う人々の間で今、大ブームの「手作り」発酵食品。なぜ「手作り」が人気なのか? その理由を前回から引き続き、紹介します。
監修
農学博士
矢澤一良さん
Kazunaga Yazawa
味の変化を楽しめて、毎日の料理もラク!
手作りの発酵食は健康効果だけでなく、味の点でももちろん魅力的。旨味がたっぷり含まれています。
また、発酵は生きた微生物の営み。時間とともに変化する味を楽しめます。例えば漬け物なら、作りたてはサラダ感覚で。日を追うごとに増してくる発酵風味と酸味を楽しみ、酸味がきつくなったら加熱して、旨味成分たっぷりのだしとして活用するなど。
また、たくさん入手した材料を発酵食として保存しておくという昔の人々の知恵は、時間に追われる現代人にとっても有効。時間のあるときに発酵食を作っておくことで、忙しい日の夕食作りの時短にもつながります。
毎日の料理作りに活躍してくれる、手作り「乳酸発酵食」3品
(写真左から)
「キャベツの乳酸発酵漬け」
キャベツ、玉ねぎ、にんじんと乳酸菌のヘルシーパワー
「きのこの乳酸発酵漬け」
生しいたけ、しめじなど、好みのきのこを組み合わせて
「白菜の乳酸発酵漬け」
水キムチのようなさっぱりとした味わいで応用自在
(レシピはこの連載の次回以降に紹介します)
次ページでは、発酵菌の代表、麴菌と乳酸菌について詳しく解説します。
【麹のチカラ】
ビタミン類&機能性成分たっぷり!
発酵菌の代表格、麹菌。麹には麹菌が繁殖過程で生み出す30種類以上もの酵素が含まれています。これらの酵素はもとの米の成分を分解して増大させたり、新たな成分を作り出したりします。なかでも、健康効果が特に高いといわれているのが以下のような成分。
■オリゴ糖 乳酸菌をはじめとする善玉菌の好物。腸内では善玉菌のエサとなってその働きを活性化し、腸内環境を整える。発酵の過程においては、乳酸菌の活動をサポート。
■ビタミンB群 疲労回復効果大。糖質や脂質、タンパク質の代謝を助ける。
■9種類のアミノ酸 全身の細胞を生成する。免疫力を強化。
■ギャバ 神経を鎮め、ストレスを軽減する効果が高い。
これらの成分は熱に対して比較的安定しているため、加熱して摂取しても十分効果を得ることができます。麹を使った味噌や甘酒には、これらの成分が豊富に含まれています。
また、麹に肉や魚を漬けておくと、酵素の働きによって身が柔らかくなり、風味もアップします。ただし、酵素は熱に弱いので、加熱処理されたものにはこの効果は期待できません。
【乳酸菌のチカラ】
腸内環境整備に! 免疫力アップに!
発酵の中でも最も身近なのが乳酸菌。働きとしてよく知られているのは「腸内環境の整備」です。しかし、乳酸菌の多くは胃酸に弱く、生きたまま腸に到達できません。また、生きて腸に到達する乳酸菌も一部ありますが、そのまま腸にすみつくことはなく、一定期間活動した後は排出されます。
それでも乳酸発酵させた食品が腸にいいといわれるのは、生きた乳酸菌の効果よりも、乳酸菌が食物を発酵させる際に生成した成分や乳酸菌菌体成分自体の効果によるところが大きいのです。乳酸菌の分泌物である乳酸、酢酸、プロピオン酸などが腸内環境を整える、あるいは死んだ乳酸菌の菌体成分が腸内の善玉菌のエサになって腸内の善玉菌を活性化します。
また、もうひとつ重要な効果が免疫力アップ。乳酸菌の菌体、細胞膜や細胞質を構成する糖タンパクなどが腸の免疫組織を刺激して、免疫機能を高める効果があります。この場合も、乳酸菌は生きていても死んでいてもその効果は同じです。
次回からは、乳酸発酵と麴発酵の2大テクを活用した、発酵食ビギナーさんにもおすすめのレシピを紹介します。
撮影/鈴木正美 スタイリスト/駒井京子 料理/荻野恭子 構成・原文/瀬戸由美子