今年、開業90年を迎える「東洋の貴婦人」
まだ香港に行ったことがないという方でも、「ザ・ペニンシュラ香港」というホテルの名前を耳にしたことがない人はいらっしゃらないのではないでしょうか。1997年の香港返還以降も益々増え続けているホテル群の中で、唯一無二の存在であることは間違いありません。
19世紀初頭、まだ未開発の丘陵地帯が広がっていた九龍半島。海上貿易の重要な寄港地として徐々に街の形を成していき、1898年にはスターフェリーが開通、1916年にはロンドンにまで通ずる九廣鐡路が竣工されました。第13代イギリス総督ネイザン卿は、何もない荒地に1本の道路を建設。これが今現在も賑やかさを誇る彌敦道(ネイザン・ロード)で、特に海岸線に近い尖沙咀(チムサーチョイ)エリアは当時、「ゴールデンマイル(黄金の1マイル)」と呼ばれ、人も店も物もありとあらゆるものが集まっていたといいます。
1928年12月、その九龍半島の先端に建てられた白亜のホテルが「ザ・ペニンシュラ香港」。港に入る貿易船と旅客たちがその凛とした姿を見て抱いたであろう感動は、「東洋の貴婦人」というニックネームにもよく現れています。
開業90年を迎える今でも、その「特別感」は変わりません。人懐こい笑みを浮かべるページボーイに迎えられて足を踏み入れるコロニアルスタイルの「ザ・ロビー」は、ため息をつきたくなるような壮麗な空間。「あぁ、香港にいるんだな」としみじみ思う瞬間です。
2つの中国料理レストランがコラボ
「ザ・ペニンシュラ香港」開業90周年を記念して、先月、3日間限定で、「ザ・ペニンシュラ東京」の中国料理「ヘイフンテラス」にて特別メニューを提供するプロモーションが行われました。「ザ・ペニンシュラ香港」の「スプリングムーン」のエグゼクティブシェフ、ゴードン・リャンさんが来日。「ヘイフンテラス」の料理長、ディッキー・トォさんとタッグを組み、香港と東京、2つの美食都市の中国料理をリードする2人のトップシェフがコラボした特別なコースが振舞われました。
海老と豚肉の滋味深いマッチングが至福の「赤海老と豚肉の小籠包」、最高の食材が点心師の技で華麗に生まれ変わった「北海道産帆立入り焼き韮餃子 鮑のオイスターソース煮込みと鶏肉入りパイ 蟹肉と海鮮蒸し餃子」。ひと口飲めばその店のレベルを知ることができる上湯(シャンタン)スープがベースの「キヌガサ茸と魚の乾燥浮袋入り蒸しスープ餃子」、豆鼓の奥行きのある味わいを繊細な魚介に合わせた「帆立貝の海老すり身包み ブラックビーンズソースの炒め」。
そして、「スプリングムーン」のゴードンシェフが今回のために初チャレンジしたという「牛バラ肉と牛スジの煮込み入り稲庭うどん」。香港では米で作られる米線(マイファン)や平たい河粉(ホーファン)という麺を使うのが一般的なのですが、短い滞在期間中も日本の食材探求に余念のなかったゴードンシェフは稲庭うどんをセレクト。香港と東京の融合を表した〆の一品になりました。
また、このランチコースでは料理ごとに合うお茶をサーブするという「ティーペアリング」も提案。今年の春に収穫されたばかりの西湖産獅峰ロンジン茶や15年もののプーアール茶などを、20時間かけて水出しして冷たいままで、またティーマスターの手による最高の温かい一服でと、料理との相性を楽しみながらいただくことができました。
懐古的で、最先端の広東料理を
今回のコラボレーションにあたっては、「広東料理の伝統を守り、いつもの高いレベルを保ちつつも、日本の食材を理解し、積極的に取り入れたかった」と2人のシェフ。その貪欲な探究心の裏には、広東料理のダイニングシーンを牽引する中国料理店を任された誇りも垣間見えます。九龍半島の歴史を作ってきたといっても過言ではないホテルの、その国を代表する料理を提供する料理店で働くということ。その重み、プライドが彼らに妥協を許さないのではないでしょうか。今回、共に来日した若き料理スタッフの「コストよりも、いかに美味なるものを作れるかを第一に考える厨房で働けることが嬉しい」という言葉も印象的でした。
長年、伝統的な広東料理を提案する「スプリングムーン」、そしてその伝統やスピリッツを時差なく提案する「ヘイフンテラス」。香港で、そして東京で、類い稀なき正統派の広東料理に触れてみてはいかがでしょうか。
写真 両方の内観
(写真左)
・ザ・ペニンシュラ香港/スプリングムーン(嘉麟楼)
http://www.peninsula.com/springmoon/jp
(写真右)
・ザ・ペニンシュラ東京/ヘイフンテラス(起鳳臺)