ピエール・エルメ上陸20周年。天才パティシエがもたらしたもの
高い技術と類稀なる発想力から“パティシエ界のピカソ”と称され、その魅力が凝縮されたスイーツ、そしてパティスリーを世界的ブランドに押し上げたフランス人パティシエ、 ピエール・エルメさん。いまから20年前、1998年にエルメさんが世界第一号店をオープンさせたのは、東京都千代田区紀尾井町にある「ホテルニューオータニ」でした。華やかなメインエントランスのあるロビィ階に設置されたショップは「ペストリーブティック」と呼ばれ、数をあまり置かず、ひとつひとつのケーキが宝石のように恭しく並べられたショーケースは、その美しさに思わずため息が漏れたほど。私の中にスイーツに対する「憧れ」という感情が生まれたのもこの頃でした。
エルメさんの代名詞的存在であるお菓子・マカロンは当時、日本でまったくメジャーではなく、あの頃の原稿には「マカロン(メレンゲ、砂糖、アーモンドパウダーで作る焼き菓子)」という注釈を入れることも多々ありました。雑誌の特集で紹介しても、この甘い上に甘い、フランスのお菓子が一般の方々にどれだけ好まれるか、正直、訝しんでいたものです。
今日では「マカロン」という単語が「ショートケーキ」のように普通に使われるようになり、コンビニエンスストアでも売られるようになり、こんな風にマカロンが日本で市民権を得る日が来ようとは…。エルメさんが日本のスイーツシーンにもたらした影響を、自分の顔のシワやシミと共に、しみじみと感じる今日この頃なのです。
エルメのスイーツが一堂に会したアニバーサリーイベント
この秋、「ピエール・エルメ・パリ」のブランド20周年を記念して、「ホテルニューオータニ」でアニバーサリーイベントが開かれました。会場内にはマカロンやショコラ、ソフトクリーム、 ヴィエノワズリ―にオリジナルカクテルなど、エルメさんが生み出したスイーツが一堂に。なんと言っても圧巻だったのは、歴代マカロン約150種の展示です。そのカラフルな色合い、個性豊かなフレーバー、エルメさんの才能を改めて見せつけられた思いです。来日していたエルメさんも謝辞を述べられ、 それはそれはスイートでゴージャスな夜でした。
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エルメが影響をもたらしたのはレシピだけではなかった
一方で、「ホテルニューオータニ」といえば、究極の厳選素材で作られるケーキ「スーパーシリーズ」で名を馳せる「パティスリーSATSUKI」を語らずにはいられません。実は「パティスリーSATSUKI」も「ピエール・エルメ・パリ」と同日にオープンし、今年で20周年を迎えます。
そう、エルメさんの影響はスイーツのレシピやバリエーションだけに影響した訳ではありませんでした。
「ホテルニューオータニ」からのリリースによると
「鬼才のパティシエが描く「味覚、 感性、 歓喜の世界」はホテルニューオータニの食文化にも影響を与えると共に、また、ピエール・エルメ氏も日本の食材、 味わいを取り入れたマカロンの開発、ホテル館内のレストランで自身が監修したフルコースメニューを提供するなど、 様々なコラボレーションを経て共に歩んで参りました。」
20年という長く密な時間が双方にもたらしたもの、それは日本とフランスの食文化、その意識の交流でした。
現在、「ホテルニューオータニ」グランシェフ(調理部長)の地位につく中島眞介さん(写真)は、20年前はパティスリー部門のシェフパティシエ。以前、インタビューをした時に、こうお話しておられました。
「当時、エルメさんがブティックオープンに備えて来日され、僕も毎朝、誰よりも早く厨房に出向き、エルメさんと一緒にメレンゲを焼いていました。それが本当に楽しくて、忘れられない思い出です」。
アニバーサリーイベントの会場内でも、目立たぬようにあちこちに目を配っておられた中島グランシェフの姿をお見かけしました。
20年間の感謝を込めた「エクストラスーパーイスパハンショートケーキ」誕生
この12月1日から、「ピエール・エルメ・パリ」と「パティスリーSATSUKI」のエッセンスを合わせた、ブランド20周年記念のアニバーサリーケーキが販売されています。 「ピエール・エルメ・パリ」の薔薇の香る代表作「イスパハン」と「パティスリーSATSUKI」の「スーパーシリーズ」がコラボして生まれたのが「エクストラスーパーイスパハンショートケーキ」(1ピース¥3,000税別)。
スポンジ生地には、あわ、きび、スーパーフードとして注目を集めるアマランサスを使った特製のホワイトシリアルを使用。ライチのシロップを染み込ませていて、しっとりした舌触りです。濃厚な生クリームはバラの風味とピンク色の2種類を使い、丹波産の黒豆やフランボワーズ、ライチが忍ばせてあります。下の段には豆乳ホワイトチョコレートガナッシュとライチのジュレ、ライチのフリーズドライで作った層が隠されていて、食感、味の膨らみ、想像以上の驚きです。フランボワーズと金箔を施したバラの花びらの見た目は、可憐で、華やかで、うっとりするほど。
新年のスペシャルなひと時のお供にいかがでしょうか。