野菜の下処理、目からウロコのスペイン流
こんにちは。野菜料理家の庄司いずみです。
野菜を愛し、野菜料理にこだわってやってきたので、野菜のことならたいてい知っている気になっていましたが……。
いやいや、私はまだまだだなと思った出来事がありました。
実は先日、代々木上原にある私のスタジオに、スペイン人の講師をお招きし、スペイン・ムルシア地方の野菜料理レッスンを開いたのです。講師はタオ・ロメオ・マルティネスさん。
「世界の家庭の味を日本に紹介する」をライフワークに、外国人が教える料理教室を企画するサイトtadakuを主宰。自らも故郷ムルシア地方の料理を教えていらっしゃる男性です。
ご紹介いただいたメニューはムルシア名物の野菜のパエリアやガスパチョ、サラダやお菓子など。いずれもおいしくて感動しましたが、驚きもたくさん。
出来上がりに驚いたのは、なんといってもパエリアです。驚くほどたっぷりのオリーブオイルで野菜を焦げるほど炒めてから水を注ぎ、米を加えて煮込んで作るのですが……。
大きなパエリア鍋になみなみと野菜とスープが煮立っているというのに、加える米はほんの少々。「そんなことでいいんですか!?」と尋ねたら、「これで十分」とのお返事なのです。
リゾットみたいになるのでは、と思っていたら案の定、出来上がりはつゆだくのリゾット風。
今までパエリアは汁気を飛ばしてパラパラに仕上げるものと思っていた私は大ショック。
「バルセロナに旅行したとき、毎日のように食べたパエリアも、パラパラのピラフ風でしたが!?」と尋ねると、汁気を飛ばすやり方もあるものの、汁だくもあり。それぞれの家庭や好みによって、仕上がり具合は違うのだとか。
リゾットのようなパエリアははじめていただきましたが、野菜とオリーブオイルのうまみが溶け出した汁がすばらしい。その汁を吸った柔らかごはんは心震えるおいしさで、大感激の味でした。
料理の味にも衝撃を受けましたが、それ以前の作るプロセス、特に野菜の下処理も驚きの連続でした。
たとえばトマト。パエリアに加えるトマトは、ピュレ状にするためにザクザク刻むのですが、まな板ではなく、ボウルの上でトマトを回しながら小さく切るのです。
私もマネしてやってみましたが、慣れないとなかなか難しい。それがタオさんの手にかかるとあっという間。きゅうりもいんげんも、すべてがこの調子でドンドン刻まれていくのです。
そういえば、ヨーロッパ旅行では、いつもキッチンつきのアパートメントに泊まるのですが、キッチンにまな板はありません。
まな板がないと料理できない私はスーパーなどで探すのですが、あったとしても小さなカッティングボードが関の山。どこに行けば見つかるのかしらと毎回不思議に思っていたのですが……。
ヨーロッパの方はまな板は、使わないのかもしれません。
そして! 一番衝撃を受けたのはこれです。
なんとタオさんは、マッシュルームの皮をむくのです。
パエリアの具材のためにたくさんのマッシュルームが用意されていたのですが、へたをポキンと手で折り取り、カサの端からつるり! ぶどうの皮のように皮がむける光景には心底ビックリ。
「なんでむくんですか!?」と尋ねたら、「えっ、むくのが当たり前でしょ。マッシュルームのサラダでもソテーでも必ずむくよ。日本ではむかないの!?」と逆に驚かれる始末です。
むきません、むきませんとも! マッシュルームに皮があるということすら考えたこともありませんでしたから!
むく理由をしつこく尋ねましたが、「考えたこともなかったけど……。食感とか、味のしみ方とか、違うんじゃないかなあ」という程度。玉ねぎの皮をむくのと同じように、スペインの方にとっては「そんなもんだ」という、お決まりのルールらしいのです。
スペイン料理レッスンのあと……。しつこい私はマッシュルームを買ってきて、半分は皮をむき、はんぶんはむかずにサラダをこしらえました。
オリーブオイルと塩で和えるだけのシンプルなサラダ。
写真は皮をむいたマッシュルームのサラダ。結論から言うと、こっちのほうがおいしい。
食感が柔らかなのもありますし、マッシュルーム独特のクセも和らぐよう。
何よりも、皮をむいたマッシュルームはオリーブオイルをグンと吸い込み、味馴染みとてもよいのです。
今回はオリーブオイルと塩だけで仕上げましたが、ドレッシングやソースの馴染みもきっとよいはず。
野菜料理は奥が深い! 今回はスペイン料理から教わりましたが、いろんな国の料理を体験すると、発見がたくさんありそうです。
まだまだ勉強は続けます。新しい発見があればこの連載でもお伝えしていきますね。お楽しみに!
庄司いずみ
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