前回に引き続き、東京大学医学部附属病院放射線科准教授の中川恵一先生に「がんの基礎知識」についてお話を伺います。
中川恵一さん
Qがんにかかると必ず死ぬのですか?
Aがんの7割が治ります。
がんは不治の病…というのは、ひと昔前のお話。今は医療の進歩で、約7割が治り、早期発見なら9割以上が完治するといわれています。例えば、早期の胃がんや大腸がんなら、手術でほぼ100%治ります。しかし、進行がんですでにほかの臓器に転移していたり、治療後もがん細胞が残っていて、再発&転移した場合(多くは2年以内に発覚する)は、完治は難しく、がんを抱えたまま、少しでも長く普通の生活を送ることが目標になります。そのため早期発見・早期治療の重要性が訴えられているのです。(中川先生)
Q自分でできるがん予防はありますか?
A生活の悪習慣を改めることが大切です。
アメリカのデータでは、がんの原因の約3分の1が喫煙、3分の1が食事などの生活習慣によるものという結果が。特に喫煙は吸う本人だけでなく、副流煙を吸うことでも、肺がん発症率が約3割アップするといわれています。飲酒や肉食もほどほどに! お酒は東洋人の約4割が、アルコールを肝臓で処理する過程で生じる発がん性物質・アセトアルデヒドを分解する力が弱いことがわかっています。飲むと顔が赤くなる人は要注意。日本酒1合、ビール大瓶1本が適量。ほかに運動不足、塩分・熱いもののとりすぎにも注意が必要です。(中川先生)
Q感染によるがんもあるのですか?
A子宮頸がん、胃がん、肝臓がんがそうです。
がんそのものは人に感染しませんが、特定の細菌やウイルスへの感染が原因のがんもあります。例えば、胃がんはピロリ菌への感染が原因のものが95%以上。日本では衛生環境が悪い時代に乳幼児期を過ごした、60歳以上に感染者が多い傾向です。子宮頸がんは性交渉に伴うヒトパピローマウイルスへの感染です。20~30代に多く、現在日本で急増しています。そして肝細胞がんは肝炎ウイルスの感染が原因で、約8割が輸血によります。1963年に感染を予防する献血制度が導入され、現在は輸血による感染はほぼゼロになっています。(中川先生)
Qがんは遺伝するの? その確率は?
A遺伝的要因は約5%です。
がんの原因で遺伝性が疑われる人は約5%です。私たちの細胞には、がん化を防ぐがん抑制遺伝子があり、父親と母親から半分ずつ受け継いでいます。本来ふたつあるこの遺伝子が、生まれつきひとつしか機能しないケースでは、がんの発生率が高まります。特に女性特有の遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)では、罹患率が最大で乳がんは85%、卵巣がんは60%までアップします。血縁者に若い頃に乳がん、卵巣がん、大腸がんの罹患者が多い場合は、遺伝的要素を引き継いでいる可能性が。気になる場合は遺伝カウンセリングの受診を。(中川先生)
次回は、がんの予防・検査と治療法についてご紹介します。
イラスト/浅生ハルミン 構成・原文/山村浩子