前回は、歯周病は全身に影響を及ぼす全身病であることをご紹介しました。今回は、歯周病ケアの方法について、具体的にみていきます。
お話を伺ったのは…
Kenji Wakabayashi
若林健史さん
歯科医師、若林歯科医院院長。日本大学松戸歯学部卒業。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事、日本臨床歯周病学会副理事長。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや市民向けの講座も多数開いている
どうやって
治療するの?
歯周病のケアは、医師と患者の協力が必須だといいます。一度持ってしまった歯周病は残念ながらなくなりません。だからこそ、これ以上悪化させないために、ダブルのケアが重要なのです。
「歯周病はもともと歯周病菌という細菌による感染症ですが、それだけでは発症しません。歯周病菌のエサとなるプラークがカギとなります。ですから、治療ではプラークやプラークが石灰化した歯石の状態を検査して、それらを取り除くことです。これらのプロセスを"歯周基本治療"といいます。この歯周基本治療は、毎日行うセルフの歯磨きケアと歯科医院で行うプロのケアがセットになっています」(若林先生)
残念ながら、セルフケアだけでは行き届かない部分が必ず出てしまうため、プロの定期ケアは必須だといいます。歯周病は根治はできないので、歯周病と診断されたら、セルフと定期ケアを一生続けていきます。
最新の治療法は?
歯周基本治療でケアを続けたけれど、なかなか症状が改善されず、歯槽骨が溶けている場合には、次のステップに移ることも。「外科的」ケアは慎重に行うべきなので、医師と相談を!
歯科医院で行う歯周基本治療のケアは、歯周ポケットの奥に入り込んだプラークや歯石を超音波のスケーラーなどで除去していきます。奥に入ったプラークはセルフの歯磨きではケアしきれない部分です。基本治療やケアを繰り返しても歯周病が進行する場合は、プラークや歯石がかなり奥深くたまっている可能性があります。その場合は外科的処置を選ぶこともあります。
「外科治療にもいくつかの選択肢があります。最初に行われるのは、歯茎を切開して隠れている部分の汚れを除去する"フラップ手術"です。ただ、フラップ手術は進行を抑えるものなので、歯槽骨が溶けてしまった場合は、歯茎の奥にある歯周組織を再生する治療がプラスされます」(若林先生)
次ページで、歯周病治療の流れをご紹介します。
歯周病の治療の流れ
①検査
エックス線(レントゲン)で肉眼で見えない歯槽骨を調べる
[歯の動揺度]
ピンセットで歯を前後左右に動かす
[プロービング]
歯周ポケットの深さと出血の有無を調べる
歯垢の付着は、染め出し剤で染めて
[嚙み合わせ]
嚙み合わせの悪さが負荷をかけていないか調べる
[唾液検査]
唾液の出やすさ、歯周病菌の数を測る
↓
②診断
歯周炎
[軽度歯周炎]
歯周ポケットの深さ4~5㎜
[中等度歯周炎]
歯周ポケットの深さ5~6㎜
[重度歯周炎]
歯周ポケットの深さ7㎜以上
↓
③治療
[プラークコントロール]
ブラッシング指導
[スケーリング]
スケーラーで歯周ポケットの歯垢、歯石を取り除く
[ルートプレーニング]
キュレットで汚染されたセメント質を取り除く
[習慣の見直し]
禁煙、生活習慣病の予防、口呼吸改善
[抜歯]
歯周病を悪化させる可能性がある保存不可能な歯を抜く
↓
④再検査
炎症なし
↓
⑤定期的なメンテナンス
PMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)
歯科衛生士によるクリーニング
↓
ここまでが歯周基本治療
重症の場合
⑥手術
歯周病外科治療 フラップ手術
GTR法 エムドゲイン法 リグロス
※歯周病治療のベースは、「歯周基本治療」。どこに歯周病があるか細かく検査し、その後プロの手で付着したプラークや歯石を除去してもらいます。そして、自宅ケアとプロの定期メンテナンスを繰り返し、症状を安定させていきます。メンテのサイクルは変わっても一生続く治療
歯周外科治療の
おもな方法
フラップ手術
歯周ポケットの奥深くにまでプラークや歯石が侵入している場合は、基本治療で除去できないことも。その場合は、歯茎部分にメスを入れて切開し、奥に付着している汚れを除去。歯槽骨が溶けている場合は、下記の3つで組織を再生します
+GTR法
浸透性はありながらも歯周病菌は通さないGTR膜と呼ばれる特殊な人工膜を使用。溶けて失ってしまった歯槽骨をこの膜で覆うことで、人工的に歯のセメント質と歯根膜、歯槽骨の再生を促していく外科療法。健康保険適用
+エムドゲイン法
フラップ手術のあとに行われます。エムドゲインと呼ばれる特殊な再生素材を歯根の表面に塗って歯槽骨の再生を促します。まだ、一般的な治療ではなく、一部の医療機関の自由診療で、先進医療として行われています
+ リグロス
エムドゲインと同じように、歯根の表面の部分に直接再生剤を塗っていくという方法。2016年に保険適用になったばかりの治療法。新しい血管組織などを形成し、それに伴って歯周組織がよみがえり、歯槽骨も再生していく、という仕組み
次回は、歯周病を進行させないポイントについてご紹介していきます。
イラスト/内藤しなこ 取材・原文/伊藤まなび