ぽっこりお腹の正体、それは内臓脂肪です。40歳を過ぎたら脂肪はどんどんつきますが、内臓脂肪は皮下脂肪より落としやすいのも事実。更年期の体と内臓脂肪の仕組みを知って、今すぐ対策を!
教えていただいた先生
横山裕一さん
Hirokazu Yokoyama
1959年生まれ。慶應義塾大学保健管理センター教授。医学博士。当初、アルコール代謝を研究、米国留学中、アルコール脱水素酵素(ADH7)の遺伝子解析に従事。本センター異動後は、飲酒を含めた生活習慣、メタボリックシンドローム、脂肪肝などをテーマに数々の研究成果を報告。著書に『こうして落とす! 女性の内臓脂肪』(PHP 研究所)
栗原 毅さん
Takeshi Kurihara
1951年生まれ。栗原クリニック東京・日本橋院長。医学博士。日本肝臓学会専門医。治療だけでなく病気予防にも力を注ぎ、わかりやすい生活習慣指導に定評あり。肝臓専門医の視点を生かした消化器疾患、糖尿病、高脂血症、脂肪肝、内臓脂肪、肥満などに関する著書多数。クリニックは連日、健康を気遣う中高年で満員に。
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閉経前後から
内臓脂肪が増えるわけ
さかんに注意喚起される内臓脂肪の蓄積。それは「男性に特有」のイメージです。でも、実は40代以降になると女性も注意が必要なことを知っていますか?
女性が気にすべきは皮下脂肪だけと思われがちですが、「閉経」や更年期の生活スタイルは、内臓脂肪と大きくかかわっています。
女性ホルモンはぽっこりお腹を予防していた!
女性は、年頃になると皮下脂肪がついて丸みを帯びた体型になりますが、これは女性ホルモンが内臓脂肪の蓄積を防ぎ、その結果、脂肪が皮膚の下にたまるからです。ところが、閉経前後から女性ホルモンが減ると内臓脂肪がたまり出し、お腹がぽっこり出てきてしまうのです。
内臓脂肪の増加で善玉ホルモンが減る
近年、脂肪細胞は単なるエネルギー貯蔵庫ではなく、多数のホルモンを分泌していることが明らかに。そのホルモンには「善玉」と「悪玉」があり、残念ながら内臓脂肪の増加で善玉が減り、悪玉が増えてしまいます。それが、女性に閉経前後からメタボが増える原因になるのです。
油の多い食事だけでなく糖質過多もNG!
体脂肪が多いというと「食事の油分を減らさなければ!」と考える人が大多数。でもそれでは不十分。食べる量を減らすべきなのは脂質と糖質の両方です。甘いものは当然ながら、ご飯やパン、麺などに含まれる糖質のとりすぎも、脂肪をため込む元凶になっています。
見た目だけじゃない! 問題を抱える内臓脂肪
「内臓脂肪と聞いて『それは男性のこと』と他人事のように思う人、『女性は皮下脂肪が多く、男性は内臓脂肪がつきやすい』といまだに思っているあなた。それは若い頃の話です。
40代以降の女性は男性同様、内臓脂肪がつきやすいもの。太りぎみの人はもちろん、痩せている人でも体脂肪率が高ければ内臓脂肪が多いはずです」
そう説明するのは、脂肪や肥満などに関する著書が多数ある栗原毅先生。内臓脂肪は皮下脂肪に比べて高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病を引き起こすリスクが高くなります。
これらは自覚症状がほとんどないため、放っておくと脳や心臓、血管などにダメージを与え、ある日突然命にかかわる病気を招いたりするのです。
一方、更年期以降の女性が「エストロゲン」の減少により、内臓脂肪がたまりやすくなる仕組みをクリアに解説してくれたのは横山裕一先生。
日本であまり説明されてこなかった、ある酵素とエストロゲンの関係については下でご紹介します。
閉経前後から内臓脂肪が増える仕組みは?
女性ホルモン「エストロゲン」は女性の体の守り神。骨や関節を維持、動脈硬化を予防、自律神経を安定化…。さらに最近、内臓脂肪への影響もわかってきたと横山先生。
「内臓脂肪のため込みが『アセトアルデヒド脱水素酵素』でつくられる、ある分子で活性化されることが明らかに。エストロゲンはこの酵素を抑えてその分子を減らし、内臓脂肪をたまりにくくしています。閉経前後からエストロゲンが減るとこの効果が弱まり、その結果、内臓脂肪の蓄積が始まります」
●「褐色細胞」と「ベージュ細胞」で痩せる?
一時、赤ちゃんの首や肩甲骨付近にあって、大人にはないとされていた褐色脂肪細胞。
「実は成人でも存在し、寒さなどの刺激によって褐色脂肪細胞や、ベージュ脂肪細胞(普通の脂肪細胞が変化した褐色脂肪細胞様細胞)が増えることがわかってきました」と横山先生。
これらは脂肪を燃焼して熱を産生する作用が期待できる細胞。
「ただ、BMI(肥満度指標)が高い人は細胞数が少ないので、期待しすぎは禁物です」
体重は変わらないのに体型は変わる!
脂肪は筋肉と比べて軽く、同じ重さなら脂肪の体積は筋肉の約1.2倍。同じ体重でも、脂肪が多い人は見た目が大きく見えるのも当然です。筋肉は年齢とともに減るため、脂肪がじわじわと増えれば体型に大きな差が出ることに。
「体重はずっと変わってないのに、なんか太ってる!」と気がついたときにはもう遅い。気にすべきなのは、体重よりも体脂肪率なのです。
体脂肪率は何%が理想的?
体脂肪は体内の脂肪、全部を指します。体脂肪率は体重のうち脂肪の合計量が何%なのかを表します。適正とされる体脂肪率は、統計学的にその体脂肪率の人が病気になりにくいところから求められたもの。そのため年齢によって適正な数値が違います。
40代〜50代女性の標準値は22〜35%と幅広く、肥満度的にはかなり緩めです。
イラスト/マイコ センボクヤ(CWC) 構成・原文/蓮見則子