【教えていただいた方】
栗原クリニック東京・日本橋院長。 医学博士。北里大学医学部卒業。慶應義塾大学大学院教授、東京女子医科大学教授を歴任。2008年、メタボリックシンドロームや糖尿病などの生活習慣病の予防と治療を目的とした、栗原クリニック東京・日本橋を開院。おもな著書に、『図解で改善! ズボラでもラクラク! 1週間で脂肪肝はスッキリよくなる』(三笠書房)、肝臓専門医の視点を生かし、肝臓病や糖尿病、高脂血症などの「生活習慣病」の治療に従事。薬に頼らない改善方法を
こんにちは。
僕はあなたの右脇腹にいつもひっそりといるカンゾウ(=肝臓)です。
僕に余分な脂肪が蓄積した状態、「脂肪肝」になると、痩せようとしてもなかなか痩せられません。
それは僕の仕事のひとつである、痩せるために大切な「代謝」が、過剰に蓄積した脂肪によって邪魔され、うまく機能しなくなってしまうからです。
「ダイエットを成功させたい!」という人は、僕に余分な脂肪が蓄積しないように注意してくださいね。
そのためにはまず、脂肪のもとになる糖質をとりすぎないようにすることが大切ですが、さらに、摂取した糖質の吸収スピードを緩やかにして血糖値を急上昇させないようにする栄養素や、糖質を効率よくエネルギーに変えて消費する栄養素を積極的に摂取すると、余分な糖質が中性脂肪になって蓄積するのを抑えることができます。
僕、肝臓の専門医であり、メタボリックシンドロームや糖尿病などの生活習慣病の予防と治療を目的とした診療を長年続けている栗原毅先生に、そんな脂肪肝予防のお助け栄養素と、それらがどんな食材に含まれているかについて聞いてみましょう。
水溶性食物繊維が糖質の吸収を抑える
こんにちは。
肝臓専門医の栗原です。
今日は、中性脂肪が増えすぎないようにするために、積極的にとりたい栄養素と、それを多く含む食材についてご説明しましょう。
まず、注目したいのが「水溶性食物繊維」です。
その理由のひとつは、水溶性食物繊維が腸内で分解される過程で「短鎖脂肪酸」を生み出すからです。
短鎖脂肪酸は、「腸のエネルギー源」と言われ、腸の免疫力を活性化するなどの作用で知られていましたが、近年の研究により、やせ型の人の腸内に多く、「脂肪の蓄積を抑える働き」があることが確認されました。
余った糖質や脂質は中性脂肪として、体内の脂肪細胞に蓄えられますが、これらの中性脂肪をためておくことは、ある程度、人間にとって必要なもの。飢餓状態など、エネルギー源が枯渇したときのために蓄えておく必要があるからです。
ところが、蓄えておくべき必要量を超えて、体内で消費できなかった中性脂肪が蓄積されると、脂肪細胞がどんどんふくらんでいきます。
これが「太る」という現象です。
そこで今、この「脂肪細胞が中性脂肪を蓄えていく働き」を抑える働きを持った「短鎖脂肪酸」に注目が集まっています。
血流にのって運ばれ、全身の脂肪細胞に働きかけます。
また、水溶性食物繊維の効果は、短鎖脂肪酸を作り出すだけではありません。
水溶性食物繊維は、腸内で糖が吸収されるのを妨げる働きがあるので、血糖値の上昇を抑え、吸収スピードを穏やかにする働きがあります。
こうした効果をより高めるには、水溶性食物繊維が豊富な食材は、食事の最初にとるようにするとよいでしょう。
海藻、きのこ、麦から水溶性食物繊維を摂取
そんなダイエットの味方である水溶性食物繊維を多く含む食べ物を、まとめてご紹介しましょう。
まずは、もずくや昆布、わかめなどの海藻類。これらのぬめり成分である「フコイダン」は水溶性食物繊維の一種。
糖の吸収を緩やかにし、腸内の余分なコレステロールや有害物質をからめとって体外に排出する働きがあります。
さらに、肝臓を守り、肝機能を高める働きや、老化を予防する抗酸化作用もあります。
そして、きのこ類。
しいたけやまいたけ、えのき、しめじなど。「β‐グルカン」と呼ばれる水溶性食物繊維が、血糖値の急上昇を抑えます。
また、腸内で余分な脂肪や老廃物をからめとり、体外に排出する作用があります。
きのこ類には糖質の代謝を促すビタミンB群が多く含まれているので、糖質の代謝アップも期待できます。
穀物であればもち麦(大麦の一種)にも、水溶性食物繊維の一種、β‐グルカンが豊富。
朝食にもち麦を食べると、昼食で摂取した糖質の吸収も抑えてくれるという、セカンドミール効果もあります。
また、オートミール(オーツ麦)、ライ麦パンなどにも多く含まれます。
なお、野菜には全般的に食物繊維が多く含まれているので、血糖値の急上昇予防に積極的に食べたいものです。
ビタミンや抗酸化物質も豊富です。
野菜は種類を問わず、旬のものを積極的にとるようにしましょう。
ただし、かぼちゃ、さつまいも、じゃがいもは栄養豊富ですが、糖質が多いので食べすぎないようご注意を。
脂肪の増加を抑える効果のある食材をまとめてチェック!
そのほか、糖質の分解・吸収を促す成分、血糖値の急上昇を抑える成分、悪玉コレステロールを下げる成分など、脂肪肝改善に役立つさまざまな成分が含まれる食材をご紹介します。
玉ねぎ、長ねぎ、にんにく、にら
玉ねぎ、長ねぎ、にんにく、にらに含まれるにおい成分「アリシン」は、血糖値を下げ、HDL(善玉)コレステロールを増やし、LDL(悪玉)コレステロールを減少させる働きがあります。
アリシンは、切ったり焼いたりしたほうがパワーアップするので、刻みねぎやおろしにんにくにして、薬味としてさまざまな料理に使うとよいでしょう。
酢 大さじ1杯(15ml)
なんとなく「ヘルシー」なイメージのある酢。
酢にはさまざまな健康効果があります。
例えばそのひとつが、酢の主成分である酢酸の「脂肪の合成を抑制する」「脂肪の燃焼を促す」という働きです。
酢の健康効果を得るには、毎日とり続けるのがポイント。
摂取量の目安は一日およそ大さじ1杯(15ml)。
そのまま飲むと喉や胃の粘膜を荒らしてしまう可能性があるので、必ず5~10倍に薄めて飲むようにしましょう。
味噌汁やスープに加える、納豆に混ぜて食べる、などが手軽に実践できるよい方法です。
キャベツや玉ねぎ、トマトなどを塩と酢で漬けておくと、すぐに食べられる一品になって便利です。
オリーブオイル
体脂肪のもとになる中性脂肪は、おもに糖質から合成されるため、私は基本的に脂質については特に制限を設けていません。
でも、もし油を使うなら、オリーブオイルをおすすめしたいと思います。
なぜなら、オリーブオイルには糖の吸収を緩やかにする「オレイン酸」が豊富だから。
オレイン酸には血糖値の上昇を抑えるインスリンの効き目を高め、糖質と一緒にとることで食後の血糖値急上昇を予防し、脂肪をつきにくくする働きがあります。
そのほか、オレイン酸には、整腸作用や、細胞の老化の原因となる酸化を防ぐ働きの抗酸化作用、悪玉コレステロールを減らす作用などがあります。
ドレッシングとしてサラダに使ったり、炒め物に使ったり、味噌汁やスープに少し垂らすといった使い方もよいでしょう。
摂取量の目安は1日大さじ2杯(30ml)くらいまで。
とりすぎには注意しましょう。
脂肪肝の予防・改善に役立つ食材。
いかがでしたか?
効率的に摂取できるよう、調理法にも工夫して、上手に食事に取り入れてみてください。
イラスト/内藤しなこ 取材・文/瀬戸由美子