【教えていただいた方】
栗原クリニック東京・日本橋院長。 医学博士。北里大学医学部卒業。慶應義塾大学大学院教授、東京女子医科大学教授を歴任。2008年、メタボリックシンドロームや糖尿病などの生活習慣病の予防と治療を目的とした、栗原クリニック東京・日本橋を開院。おもな著書に、『図解で改善! ズボラでもラクラク! 1週間で脂肪肝はスッキリよくなる』(三笠書房)、肝臓専門医の視点を生かし、肝臓病や糖尿病、高脂血症などの「生活習慣病」の治療に従事。薬に頼らない改善方法を
こんにちは。
僕はあなたの右脇腹にいつもひっそりといるカンゾウ(=肝臓)です。
僕に余分な脂肪が蓄積してしまった状態、脂肪肝を改善するには、食事と並んで運動がとても大切なんです!
「えー、やっぱり運動しないといけないの?」「運動は苦手、続かない」なんて言っているあなた、大丈夫です!
肝臓の専門医として、長年、脂肪肝などの肝臓病、メタボリックシンドローム、糖尿病など生活習慣病の診療にあたってきた栗原毅先生が、無理なく続けられて効果も抜群の「ゆる筋トレ」を教えてくれますよ。
タンパク質摂取+適度な運動で筋肉量アップ!
ご紹介ありがとう、カンゾウ君。
栗原クリニック東京・日本橋院長の栗原です。
私のクリニックでは、患者さんが継続できる運動や生活習慣をいろいろ考案してきました。
痩せるにはやはり運動が大切です。
なぜかというと、筋肉は糖質や脂質をエネルギーとして消費する器官。
筋肉量が少ないと脂肪が消費されにくく、体脂肪はなかなか減りません。
肉や魚、卵、乳製品、大豆製品などからタンパク質をしっかり摂取することと合わせ、週3回程度、適度な運動をする必要があります。
実は、日本人女性は世界的にみても「筋肉量が少ない」といわれています。
ご存じだったでしょうか?
2018年の日本肥満学会で問題視されて以降、懸念されていることです。
日本人女性の筋肉量が少ない理由としては、ダイエットなどによって食事量(特にタンパク質)が不足していることに加えて、運動不足が挙げられています。
さらに、筋肉量は年齢とともに低下しやすくなるので、OurAge世代の皆さんはぜひ運動習慣をつけるようにしたいですね。
とはいえ、冒頭でカンゾウ君も言っていたように運動は昔から苦手で…とか、仕事で疲れていて動くのもおっくうで…という人も多いかもしれませんね。
そんな運動が苦手な人でも無理なく続けられるエクササイズ、そして運動以外にも痩せるのに大事な口腔内の健康について今回はお話ししましょう。
まず下半身の筋肉を鍛える、スロースクワットがおすすめ!
私のクリニックに来る患者さんにも運動が苦手な人は多く、そうした人たちに私がおすすめしているのが「朝晩5回ずつのスロースクワット」。
これでしたら、皆さん無理なく続けられるようなので、ぜひトライしてみてください。
下半身には、太ももの前側の大腿四頭筋(だいたいしとうきん)、太もも裏側のハムストリング、ふくらはぎの腓腹筋(ひふくきん)、ヒラメ筋など、大きな筋肉が集まっていて、人間の体の筋肉全体の約7割は下半身にあります。つまり、下半身の筋肉を鍛えれば、全体的に筋肉量が増え、効率よく体脂肪が燃やせる体に近づきます。
私が推奨するスロースクワットは、どこでも誰でもできる「ゆる筋トレ」ですが、下半身の筋肉を鍛えるのにうってつけ。
1回10秒、朝晩5回ずつ行うだけでもOKです。
1カ月毎日続けてみてください。体の変化にちょっと驚くと思います。
<スロースクワットの方法>
①足を肩幅より少し広めに開く。
腕を胸の前で交差させる。
膝がつま先により前に出ないようにし、お尻を突き出す。
②「1、2、3」と声に出して数えながら、5秒かけてゆっくりと膝を曲げる。
太ももと床が平行になるまで曲げる。
③「1、2、3」と声に出して数えながら、5秒かけてゆっくりと、床面に対して約40度の角度になるまで膝を伸ばす。
④ 膝を伸ばしきらないまま、③の状態に戻す。
※ポイント
休まず、ゆっくり動作しましょう。
また呼吸を止めずに行うことが大切です。
スロージョギングなら、消費エネルギーはウォーキングの2倍!
筋肉量を増やすには筋トレに加えて、ウォーキングなどの有酸素運動で毎日体を動かすと、より効果が上がります。
なぜかというと、有酸素運動を行うことで毛細血管が増えるからです。
毛細血管は栄養の運搬を担っているので、毛細血管が増えると、筋肉の材料となるアミノ酸や、エネルギー源であるブドウ糖を、しっかり体の隅々にまで届けられるようになります。
有酸素運動は週3~5回、各15分以上を目標に行いましょう。
特におすすめしたいのが、頑張らなくても、筋トレと有酸素運動の両方ができるスロージョギング。
元福岡大学スポーツ科学部名誉教授の故田中宏暁氏が考案した運動です。
ウォーキング以上に、大腿四頭筋、大殿筋、大腰筋といった大きな筋肉を使うので、「通常のウォーキングの約2倍のエネルギーが消費できる」といわれています。
やり方はというと、「歩くくらいの速度でゆっくり走る」というもので、決して難しくありません。
1日10分から始めてみませんか?
〈スロージョギングのポイント〉
①笑顔でおしゃべりできる“ニコニコペース“で走る(時速3~5km)
②あごを少し上げて遠くを見ながら走る。
③背筋をしっかり伸ばす。
④腕ふり、呼吸は気にしない(自然のままに)。
⑤歩幅は狭く。
参考:日本スロージョギング協会HP(https://www.slowjogging.org/)
歯磨き不足は肥満を加速させる?
ところで、筋肉維持に口腔内の健康が大きくかかわっているということをご存じでしょうか?
「歯周病の原因菌が骨格筋に脂肪をつける」という論文が、2020年11月に発表されました。
口の中にはプラーク(歯垢)があり、プラーク1mg当たりには、多い人で10億個もの細菌がすんでいます。
そして、これらの細菌のうち、歯周病菌の原因菌が口の中から腸まで届くと、腸内環境を変え、それが筋肉の脂肪化につながる可能性が示唆されました。
筋肉に脂肪がつくと、筋肉の機能が低下してしまいます。
特に骨格筋は、ブドウ糖を取り込んでエネルギーとして消費するという役割を持っていますが、筋肉に脂肪がつくとこの機能が低下し、どんどん肥満が進んでしまいます。
そこで、1日に最低2回は歯磨きをしましょう。
必要に応じて、歯ブラシだけでなく、歯間ブラシを使って歯垢を除去するのがおすすめです。
また、口の機能低下は、全身の筋力低下につながり、過剰な体脂肪がつく肥満にもつながります。
舌や口のまわりの筋力が低下すると、唾液の分泌も減少してしまいます。
唾液が減ると消化力がダウンし、代謝にも悪影響を及ぼします。
また、舌の筋肉は全身の筋肉と相関関係があり、「舌の筋肉が弱ると、歩行速度や握力、脚力が低下する」という調査結果も出ています。
全身の筋力が衰えると、代謝が落ちて太りやすくなってしまいます。
舌や口のまわりの筋肉を鍛えるには発話をすることが大切です。
そのほか、舌を付け根から上下左右に動かしたり、反らせたりといった運動も、舌の筋肉の衰えを防ぐのに効果的です。
このように、脂肪をため込みやすい体質になる原因は、日々のさまざまなところにあります。
ぜひこうした生活習慣を見直して、肝臓に余分な脂肪がつかないよう気をつけてください。
そうすることで、ダイエットが成功したり、肌がきれいになったりといった体によいことがたくさん起きると思います。
そして、それは将来、重大な病気を引き起こすのを未然に防ぐ対策でもあります。
肝臓を守るための食事や生活習慣を身につけることで、一生モノの健康法を手に入れてください。
イラスト/内藤しなこ 取材・文/瀬戸由美子