免疫を上げ、美肌をつくり、メンタルも強化するタンパク質「ヒートショックプロテイン」はお風呂で増やせる!
根来 前回の話では、長引く咳の背景に、新型コロナウイルスやマイコプラズマに感染後にも継続する慢性炎症の可能性があるというお話をしました。高熱やのどの強い痛みなど激しい症状が出る急性期を脱したものの、咳や疲労倦怠感などの不調が続いている場合、その解決法の一つとしてお風呂を活用するのもおすすめです。
いし 風邪をひいているときは、お風呂に入らないほうがいいとも聞きますけど。
根来 急性期を抜けて体温が下がってきたら、無理しすぎない範囲で、少し熱めのお風呂で体温を上げることによって、感染細胞の傷を癒してくれるタンパク質「ヒートショックプロテイン (HSP)」が増えるんです。
HSPはウイルスや細菌に感染した細胞やがん細胞を見つけ出し殺傷するナチュラルキラー細胞を増やし、その活性を高めてくれるので、HSPが増えると免疫機能が底上げされ、病気の回復が早まります。フリーラジカルを抑えて、皮膚を紫外線から守ったり、コラーゲンを保護したり、美肌づくりにも貢献してくれるんですよ。
また、記憶をつかさどる脳の海馬の神経細胞を守り、コロナうつにも効果を発揮するという報告もあります。
いし なんて素敵なタンパク質!
根来 HSPはほかのタンパク質がきちんとした立体構造を持って誕生できるようにサポートし、働きを終えたらきちんと分解されるように導いてくれるんですよ。タンパク質の一生を支え続けるその献身的な働きぶりから、「分子シャペロン」とも呼ばれます。
シャペロン(chaperone)の語源はフランス語で、若いレディが社交界にデビューし一人前になるのを介添えするご婦人のこと。HSPはまさにタンパク質の介添人のようなタンパク質なんです。
HSPはストレスで傷ついた細胞のタンパク質を修復!
HSPはストレス防御タンパク質。生命が地球上に誕生した際に、強力な紫外線など過酷な条件を生き抜くために遺伝子に組み込まれたのではないかと考えられます。
いし HSP、絶対増やしたいです! 熱めのお風呂でないと増えないんですか?
根来 HSPはストレスに対抗して増えるので、心地よいくらいの湯温ではストレスにはならず、 HSPは増えません。HSPは熱ストレスだけでなく、病原菌への感染、紫外線、飢餓、薬剤、精神的ストレスなど、どんなストレスにも対応してくれる心強い味方です。
いし 感染症で発熱しているときも、HSPが発動して感染細胞の修復にあたったり、ウイルスや細菌に負けないように免疫機能を高めてくれているんですね。
根来 ですから、解熱剤で安易に体温を下げるとかえって回復が遅れてしまうこともあります。高熱であまりにつらいときには、一時的に解熱剤を使うのも有効ですが、むやみに薬で熱を下げるのはよくないです。
そもそも発熱は生体の防御機能で、ウイルスや細菌は低温で繁殖するため、体温を上げることで病原体をそれ以上増やさないように抑制してくれているんです。
最近の研究でも、体温が38℃以上になると腸内細菌叢が活性化し、ウイルスの増殖やウイルス感染による炎症反応が抑えられ、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスに対する抵抗力が上がることがわかっています。
いし 効率よく体温を上げるにはお風呂はもってこいですね。
根来 そうなんです。そこで今回は「ヒートショックプロテイン入浴」をご紹介します。
HSPが熱ストレスによって増える性質を利用して、お風呂の温熱で細胞に適度な熱ストレスを加えHSPを増やします。
42℃のお湯にたった10分「ヒートショックプロテイン入浴」
少し熱めのお風呂に入り体温が38℃を超えると効果的にHSPが増加します。
42℃なら10分ほどの入浴でOKです。42℃で長湯をすると、深部体温が2℃以上上がって血栓ができやすくなるなどデメリットが出てくるので頑張りすぎないこと。
平熱が低い人は入浴前の体温プラス1.5~2℃以上になることを目安にしてください。
最初のうちは、防水タイプの舌下体温計で体温を確認しながら行うとよいでしょう。
体温が38℃を超えたら早めに切り上げてもOKです。
測定直前に飲み物を飲むと正確な体温が出ないので、水分補給のタイミングには気をつけてください。
HSP入浴のコツ
① 入浴前、入浴中に十分な水分補給を。HSP入浴法で出る汗は体温調節のための汗でほとんどが水なので常温の水やお茶でOK。
汗の出にくい人は特に、入浴前に水分をしっかりとっておくと、のぼせにくくなります。
② 浴室内の温度が低いと湯温が下がるので、入浴前に浴室の床に温水シャワーをかけたり、お風呂のふたを取っておくなどして、事前に浴室内を温めておきましょう。
湯温は42℃で10分が基本ですが、気温が暑いときやのぼせやすい人は1〜2℃湯温を下げてよいので、その分入浴時間を長めにします。
HSPプロジェクト研究所の研究によると、41℃で15分、40℃で20分の入浴でHSP効果が得られることが確認されています。
炭酸系の入浴剤を入れると血管壁を広げるCO(一酸化炭素)が毛細血管の内皮細胞から分泌され、血流がよくなってスムーズに体温が上がり、入浴時間を短くできます。
③ 手足に掛け湯をして末端から温めてから、ゆっくりと肩までつかり、最初の数分間は全身浴でしっかり体を温めると、体温がスムーズに上がります。
途中で湯船から出てもかまいませんが、休息時間は入浴時間から差し引いてください。半身浴で行ってもOKです。
HSP入浴効果はお風呂上がりの過ごし方がキモ
HSP入浴後は、37℃以下にならないように体温をキープすることで、体内にHSPができる準備が整います。
そのためにはせっかく上げた体温を下げないように、最低でも10分くらい保温する必要があります。
その間は汗をかくのでしっかり水分補給しなければなりませんが、冷たい飲み物は体を冷やすので禁物です。
保温のときにかく汗もほとんど水分でサラサラしていますが、保温後にぬるめのシャワーや掛け湯でさっと汗を流してもOKです。
HSP入浴は、寝る2時間前くらいに行うと、ベッドに入る頃にはちょうどいい具合に深部体温が下がって熟睡できます。
ぐっすり寝ている間に、昼間に血中に入った栄養分や酸素、睡眠中に分泌されるホルモンが体の隅々まで行き渡り、傷んだ細胞をメンテナンスしてくれます。
HSP入浴後の過ごし方
熱いお風呂から上がったら、涼しい部屋で冷たいドリンクを飲んでほてった体をクールダウン! といきたいところですが、それでは体温が急降下して血流が悪くなり、HSPも思ったように増えません。
気化熱で体温が奪われないように浴室内で体を拭き、浴室から出たらすぐに大きめのバスタオルやバスローブをはおって15分ほどそのまま保温します。
常温か温かい飲み物でしっかり水分補給をしてください。
せきが出ているときは抗炎症・抗酸化作用のあるはちみつ入りのハーブティーがおすすめです。
感染症回復には週2回のHSP入浴が理想的
根来 残念ながら、HSPは年齢とともに減っていきます。
いし ヒートショックプロテイン、お前もか‥。
根来 ハイ。ですからHSP入浴を習慣にして、日頃からHSPを増やしておくと、感染症予防にもつながります。お肌も若返りますよ。
いし 今日から毎日入ります!
根来 毎日HSP入浴を行っても、HSPがその分倍増するわけではないんですよ。
前述のHSPプロジェクト研究所のデータでは、HSPは通常入浴2日後にピークを迎え、1週間後には元の値に戻ります。週に1度行うだけでも効果はありますが、感染症による不調が長引いているようなときは、治療だと思って週に2日、3~4日おきにHSP入浴をするのがおすすめです。
それ以外の日は寝る1時間前にぬるめのお湯につかって、副交感神経を優位にしてあげると寝つきがよくなります。
暑い日はシャワーですませがちですが、10分でもいいので湯船につかるほうが、寝ている間の細胞の修復・再生も効率よく進みます。
いし HSPはまさにアンチエイジング・プロテイン!
お風呂に入るだけで増やせるんだから、やらない手はないですね。
冷房病で夏バテを引きずっている冷え症のぐうたらライター。HSP入浴を始めてから体調がよく、今年の冬は元気に乗り切れそう!
撮影/角守裕二 イラスト/浅生ハルミン 構成・文/石丸久美子
参考文献/『ヒートショックプロテイン 加温健康法』伊藤要子(法研)