股関節を使わずに腰や背中を丸める前かがみ姿勢が、腰痛を招く
腰痛を防ぐためには、なぜ「股関節」が大切なのかを、吉原潔先生に伺いました。
「腰痛になる大きな原因に、私たちが普段、無意識のうちにとっている前かがみや中腰の姿勢があります。腰や背中を丸めて前かがみになると、腰椎や腰の筋肉に多大な負担がかかり、これが腰にダメージを与えます。長年これを繰り返すと、次第に椎間板が劣化し、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などのリスクを高めて、腰痛が起きやすくなります。特に、以下のような動作のときは、腰や背中を丸めて前かがみ姿勢になりやすいので要注意です」
・荷物を持ち上げる
・洗顔、歯磨き
・床に落ちているものを拾う
・掃除や庭仕事などをかがんで行う
・下段の引き出しを開ける
「これを防ぐには、腰や背中は丸めた猫背姿勢にならないように、股関節から体を動かすことがポイントです。股関節を支点にして体を折るイメージです。
ただし、股関節から体を折るには、連動する骨盤がスムーズに動かなければならないのですが、腰痛がある人の多くは、太ももの裏のハムストリングスが硬くこわばっているため、骨盤が固まって動きが悪くなっています。そのため股関節から曲げにくくなり、腰や背中を丸めてしまうのです。
ちなみに、アフリカ人にはあまり腰痛がないといわれていますが、これはハムストリングスが柔軟で骨盤がよく動くためです。
日本人は昔から畑仕事をするときにも背中や腰を丸めて行う人がほとんどで、腰痛になる人が多いのですが、アフリカ人が畑仕事をしているところの写真を見ると、股関節から体を曲げています。そのため腰痛にならないのです」
そこで吉原先生がおすすめしてくれたのが、股関節の使い方をマスターするためのエクササイズ。
「お辞儀のような動作をする“グッドモーニング”というエクササイズをこまめに行うことで、硬くなった股関節と、ハムストリングスの柔軟性を高めることができ、普段の生活の中でも股関節から体を曲げられるようになります」
股関節から体を曲げる動きをマスターする
<グッドモーニング>
① 背すじを伸ばして立ち、足を腰幅に開きます。両手は腰に当てます。
② 息を吐きながら、お尻を後ろに突き出すイメージで股関節から上体を倒します。このとき、あごは引き、頭からお尻までをできるだけ真っすぐにし、膝が曲がらないようにして、太ももの裏側が伸びているのを感じるところまで倒します。腰を曲げたり反らしたりしないように注意。この①②の動きを10回。
次に、生活の中で股関節を使うコツを教えていただきました。
<物を持ち上げるとき>
物を持ち上げるとき、膝を伸ばしたまま腰を丸めて持ち上げると、腰への負担が大きいのでNG。
背すじは伸ばして、お尻を後ろに引き、股関節と膝を曲げて、体の近くで持ち上げると腰に負担がかかりません。
<顔を洗うとき>
洗面台で顔を洗うとき、膝を曲げず、背中や腰を丸めて前屈み姿勢になると、腰に負担をかけるのでNG。
背すじと腰を真っすぐにして、両足を開き、少しお尻を突き出すようにすると、膝が自然と曲がって、股関節から体を曲げられます。
上でご紹介したような股関節から曲げる動きを、ほかの場面でも取り入れることで、腰痛が起きにくくなっていくのでぜひ実践を!
【教えていただいた方】
医学博士。アレックス脊椎クリニック名誉院長。日本医科大学卒業後、同大学整形外科入局。帝京大学医学部附属溝口病院整形外科講師、三軒茶屋第一病院整形外科部長を経て、2017年よりアレックス脊椎クリニック院長。日本整形外科学会専門医、日整会内視鏡下手術・技術認定医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター、全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会(NESTA)公認パーソナルフィットネストレーナー、食生活アドバイザー。運動療法や筋力トレーニングにも精通した医師として、多角的な診療に定評がある。トレーナーとしての信条は「ケガをしないトレーニング方法を指導すること」。50歳を過ぎてから筋トレでメタボ体型を脱し、ベストボディコンテストに出場、受賞歴多数。著書に『ドクターズスクワット』(アスコム)など。
撮影/藤澤由加 ヘア&メイク/佐々木 篤 モデル/SOGYON 取材・文/和田美穂