【教えていただいた方】

SAWAKI GYM代表取締役。1991年よりトレーナー活動をスタート。静岡県の整形外科病院で、リハビリ後の患者からトップアスリートまで医学的根拠に基づき指導。その後、専門学校講師を12年、トレーナー団体理事を14年務め、のべ1万人以上を指導。現在はトレーナー活動のほか、講演会やメディアで健康情報を発信。著書は『4週間で姿勢がよくなる! スタスタ歩ける!長寿の体幹トレーニング』(大和書房)など多数。
「体幹」は、日常生活の基本動作すべてにかかわる重要な部分。衰えるとさまざまなトラブルの原因に
まずは、“体幹”とはどの部分を指すのか、改めて伺いました。
「体幹とは、頭と腕、脚を除いた胴体部分を指します。肩関節や股関節まわりの筋肉、背中の筋肉などまでを含めて体幹になります」(澤木一貴さん)
↑赤枠の中部分が体幹
「体幹がなぜ大事なのかというと、歩く、座る、立つという日常生活の中での基本的な動作にはすべて体幹がかかわっているからです。例えば、体幹の筋肉のひとつに、お腹の深部にある腹横筋という筋肉があります。この筋肉は“始動筋”という異名があるように、ペンを持つときにも手より先にここに刺激が入ります。この筋肉のおかげで手足を正常に動かせるのです。
この筋肉が衰えると体幹部以外の末端の筋肉に負担がかかり、膝が痛い、腕が痛いといったトラブルが起きやすくなります。体幹に力が入らないと、末端の筋肉を使って無理やり体を動かそうとするため、体を痛めてしまうのです。逆に言えば、体幹さえしっかりしていれば、脚を上げるのも腕を振るのも楽になり、歩く、座る、立つなどといった日常動作のすべてが快適になるのです。
また、体幹は姿勢や呼吸と深くかかわっています。体幹の筋肉が衰えると猫背になりやすくなったりするなど、姿勢がくずれるため、背骨や肋骨、肩甲骨などといった骨が本来の正しい位置からずれてしまいます。すると呼吸が浅くなり、酸素が体の細胞の隅々まで行き渡りにくくなり、老化が進んだり、疲れやすくなったり、代謝が落ちて太りやすくもなってしまうのです。さらに、お腹がぽっこりと出たり、お尻が垂れたりというボディラインのくずれも招きます。
逆に言えば、体幹を鍛えれば姿勢が整い、呼吸が深くなるので、代謝が上がって太りにくくなるうえ、疲れにくくなり、若々しさもキープできます。お腹が引き締まり、垂れたお尻も引き上がりやすくなります。このように、体幹を鍛えることは、“健康長寿”と美ボディキープの基本なのです」
体幹が弱いと…
・太りやすい
・猫背になる
・肩こりや腰痛になりやすい
・疲れやすい
・ぽっこりお腹になる
体幹が強いと…
・太りにくくなる
・姿勢がよくなる
・肩こりや腰痛が改善する
・疲れにくくなる
・歩きやすくなる
・ボディが引き締まる
体幹の6つの筋肉を鍛えることがトレーニングのポイント
では、体幹を鍛えるには、どの筋肉を鍛えればよいのでしょうか。
「体幹を鍛えるうえで重要な筋肉は6つあります。まずひとつめは、お腹の深部にある腹横筋。この筋肉はお腹をベルトのように包んでいて、腹圧を高め、体幹を安定させる役割があります。ふたつめは、お腹を縦に走っている腹直筋。体を前に曲げるときに使う筋肉です。3つめは、体を横に倒すときや、ひねるときに使われる脇腹の腹斜筋。4つめは、背骨を支える役割がある脊柱起立筋。5つめは、股関節の伸展や立ち上がるときに使われるお尻の大臀筋。そして6つめが、体幹部の奥にあり、主に脚を振るときに使われる股関節を支える腸腰筋です。
これらの体幹の筋肉は、しっかりと固まっていればいいと思いがちですが、中高年になると固まって動きが悪くなっている場合もあるので、程よい強さと程よい可動域があることがポイントです」
体幹を簡単に鍛えるなら、まずは「呼吸」から
筋肉は加齢とともに減っていってしまうため、運動の習慣がない人は、体幹の筋肉も衰えている可能性大。そこで澤木さんに、そんな人でもやりやすい体幹トレーニングを教えていただきました。
「体幹を簡単に鍛えられる方法が、呼吸です。深い呼吸をすると、腹横筋や横隔膜や肋間筋などが大きく動き、体幹の筋肉を鍛えることができます。呼吸は1日に約2万回もするといわれていますが、普段から深い呼吸を意識すれば、それだけで体幹トレーニングになるのです。
注意すべきなのは、深い呼吸を意識すると腰が反ってしまいがちなことです。腰が反ると、脊柱管狭窄症など腰のトラブルの原因になるのでNG。腰を反らずに、胴体を大きく膨らますように深く呼吸をするのがポイントです。赤ちゃんは、息を吸うと体全体がボールのように膨らむのですが、そのイメージで行ってみてください。日常生活の中で、気づいたときに深い呼吸を意識しましょう」
<体幹を鍛える呼吸法>
1.足を腰幅程度に開いて立ちます。両手を肋骨の下部に当て、鼻から3秒かけて息を吸います。このとき、胴体全体が大きく膨らむのを意識しましょう。
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これはNG
息を吸うとき腰を反らしてしまいがちですが、腰を痛めるのでNG。
2.口から6秒かけてゆっくりと息を吐き切ります。このとき肋骨がしぼむのを意識しましょう。これを3回繰り返します。この呼吸を普段、気づいたときにこまめに取り入れましょう。体幹が鍛えられていきます。
撮影/藤澤由加 ヘア&メイク/藤本 希 モデル/山下三輝(SAWAKI GYM) イラスト/内藤しなこ 取材・文/和田美穂