新型コロナウイルスの感染者数が再び増え、心配な日々が続きますね。日本でもワクチン接種が少しずつ進んでいますが、実はこのワクチンの効果をしっかり出すためには、もともと持っている免疫力を高めておくことが大事なんだとか!そこで、国産ワクチン開発の第一人者である、大阪大学の森下竜一先生にお話をおうかがいしました。
森下竜一先生
大阪大学大学院医学研究科臨床遺伝子治療学寄附講座教授。大阪大学帷幕部卒業後、スタンフォード大学循環器科研究員、大阪大学助教授大学院医学系研究科遺伝子治療学を経て現職。アンジェスMG社創業、バイオベンチャー支援のためのバイオサイトキャピタル社創業。現在、新型コロナウイルスワクチン開発を目指す。
これまで国内で主流だったワクチンは、ウイルスを無毒化や弱毒化して体に入れ、抗体をつくる不活化ワクチンでした。一方、新型コロナウイルスのワクチンは、今までとは違うメカニズムで抗体をつける、新しいタイプのワクチンです。これは一体どのようなものなのでしょうか?
◆新しい「mRNAワクチン」は体内でウイルスの一部をつくって抗体をつくる
新型コロナウイルスをはじめとするウイルスの表面には「スパイク」と呼ばれるトゲがあります。このトゲが人の体の細胞にある「ACE2」と言われる受容体でいわば鍵穴のようなものに刺さることで、細胞内に侵入して感染が起こります。このトゲを体内でつくって抗体をつくるのが、2月に承認され接種が進んでいる、ファイザー社が採用している「mRNAワクチン」です。
「ウイルスのトゲであるスパイクをつくるための遺伝子情報(mRNA)をワクチンで体に入れると、体内でスパイクたんぱくがつくられ、免疫細胞が反応して抗体がつきます」(森下先生)。
「この抗体がスパイクを挟むと、スパイクが人の細胞にあるACE2に刺さることができず、細胞内に進入できません。細胞内に入れなければウイルスは生き残れません」(森下先生)。
ただし、ワクチンを打って抗体がつくれればそれでOK!というわけではありません。体には「自然免疫」「獲得免疫」の2つの免疫システムがあり、連携して体を守っています。
「自然免疫」は体の中を常にパトロールし、ウイルスが侵入していないか見回る警察のような存在。ウイルスを見つけ次第攻撃します。森下先生によると、まずは免疫力をアップして「自然免疫」の力を高め、ちょっとくらいウイルスが入ってきても立ち向かえるようにすることが大事だそう。
この「自然免疫」でウイルスが撃退できなかったら、「獲得免疫」が出動。ワクチンでできた抗体が働くほか、ウイルスを強力に攻撃する「キラーT細胞」が直接ウイルスが増えている細胞を攻撃し、重症化を防いでくれます。
ところが、免疫はどの年代も同じではなく、一番強いのは10代後半~20代半ば。その後はどんどん免疫も老化していき、感染症に負けやすくなってしまいます。そこで免疫システムを元気にするカギとなるのが、細胞内にある「ミトコンドリア」なのだと森下先生は言います。
◆細胞内のエネルギー生産工場「ミトコンドリア」の活性化が免疫力アップのカギに!
「ミトコンドリア」は細胞の中にあり、細胞そのものを元気にして老化を防いだり、細胞そのものを正常に働く司令塔のような働きをしています。
ミトコンドリアは免疫システムでも重要な役割を果たしています。「自然免疫」ではウイルス探知システムのスイッチを入れたり、免疫活動を促進するたんぱく質を活性化するなどのサポートをしています。「獲得免疫」では、抗体をつくるB細胞を活性化するほか、抗体作用の増強をしてくれるほか、T細胞をつくる造血幹細胞を元気にしたり、T細胞自体の機能も活発化させてくれる働きも。コロナ禍を無事乗り切るために、欠かせない存在ですね。
ところがこのミトコンドリアも、年齢とともに減ってしまうことがわかっています。そこで大事なのが、効率よくミトコンドリアを活性化することなのだそう。
「ミトコンドリアは酸素を取り込んでエネルギーをつくるため、活性酸素をつくりますが、活性酸素はミトコンドリアのDNAなどを傷つけてエネルギーの生産効率が落ちてしまいます」(森下先生)。そこでミトコンドリアを活性化するのが、コエンザイムQ10。中でも還元型のコエンザイムQ10がミトコンドリアを活性酸素から守り、ミトコンドリアの働きを高めます。
コエンザイムQ10は体内でもつくられますが、産生能力は年齢とともに落ちてしまいます。そこで、毎日の食事から摂ることが大事です。ただし、食事から摂れるのは5㎎程度ですが、1日必要量は100㎎と言われ、すべてを食事から摂るのは大変!サプリメントなどを上手に活用して、補っていきましょう。
と、ここで注目すべき研究結果が。B型肝炎ワクチンの効果ですが、コエンザイムQ10を摂ることで、ワクチン接種後の抗体産生が増えたという結果が出ています。「B型肝炎ワクチン接種後90日間、コエンザイムQ10を投与したグループは投与しないグループに比べて抗体産生が上昇したことがわかっています」(森下先生)。新型コロナウイルスの実証データはまだありませんが、基本的にはウイルスの種類が違ってもメカニズムは同じなのだそう。新型コロナのワクチンでも同様の効果が期待できるかも⁉
コエンザイムQ10の摂取や生活習慣の改善をして、免疫力を上げて新型コロナに負けない体をつくるとともに、ワクチンを打つならその効果を最大限に出せる状態にしておきたいところですね。まだまだ安心できない状況が続きますが、このコロナ禍を乗り越えていきましょう!
取材・文/倉澤真由美