ゆっくり老化で寿命を延ばす
空腹を感じることで長寿遺伝子が働き出す
長寿遺伝子を活性化させるNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)を増やすポイントのひとつは「空腹を感じること」だと樂木宏実先生。「食事は腹八分目に抑えること。空腹が続くと、若返りの遺伝子が動き出すことがわかっています。食事制限をしないまでも、少なくともしっかりお腹が空いてから食べることが大事です」。
時間がきたからなんとなく食べる、パソコンやテレビに向かいながら、ひっきりなしにお菓子を食べるといった行為は控える必要がありそうです。
●NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)を増やす食事法
◆カロリー制限
1日のカロリーを一定期間制限する方法です。1日の摂取カロリーを2年間平均12~15%減らすと、心臓や血管に関連する炎症が抑えられたという報告が。ただし、骨量や筋肉量も減る可能性があるので注意が必要です
◆断食(ファスティング)
「半日から数日間、食事を抜く」「月5日だけ小食にする」といった方法があります。断食により、細胞内のゴミを掃除するオートファジー機能が活性化して、老化スピードを緩やかにする可能性が。(高齢者には不向き)
◆時間制限ダイエット
食事量は減らさずに、1日のうち時間帯を限定して、水以外の飲食を制限する方法です。例えば、10~18時の間に3食とる16時間ダイエットなど。これでもオートファジー機能が活性化するといわれています
老化の速度は運動習慣で遅くなる
運動をすることでNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)が増えるという研究報告は多数あります。ある実験では、運動習慣がない、太っている中高年の男女16人(平均年齢59歳、平均BMI値31.7)が週2回、筋トレを10週間続けました。その前と後では、NADの濃度は127%、サーチュイン遺伝子の量は13%上昇。日常的に運動している男子大学生(平均年齢23歳)と同じくらいになっていたというのです(下グラフ)。
●筋トレによるNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)とサーチュイン遺伝子量の変化
肥満の中高年16人が10週間、筋トレを続けた結果、NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)もサーチュイン遺伝子も大学生並みにアップ。
「有酸素運動でも同様の効果が認められています。ポイントは少し息が上がる程度。筋トレもややきつめで、週2~3回を目安に。外出時に早歩きをしたり、家でスクワットをするなど、日常生活に取り入れるだけでも効果はあります」
人生を幸せに感じると14%長生きする
幸福度と寿命には密接な関係があるという報告があります。2011年の科学雑誌「Science」に発表されたのは「人生を幸せに感じている人はそうでない人に比べて14%長生き」「先進国において、幸せを感じている人は7.5~10年寿命が長い」というもの。またシンガポールでの研究でも、「幸福スコアが最も高い人は、最も低い人たちより死亡リスクが19%低い」との報告が。
「その理由として、幸福を感じるポジティブな思考や心のゆとりがあると、生活スタイルの修正やストレスの軽減がしやすいという要因があるかもしれません。結果、老化の促進や病気を回避できると考えられます。また、元気に老いる方法として、社会とのかかわりを持ち続けることが大切だと考えています。それには高齢者の雇用など、社会制度の整備も求められます。笑うと免疫力が高まるともいわれています。生きるうえで幸せを感じることが大切であることに間違いはありません」
人とつながり、ワクワクする気持ちを持ち、人生を楽しむ姿勢が、最大の長寿の秘訣かもしれません
column
老化細胞を除去する薬が新登場!
細胞分裂を停止したあとも生体内に居座る細胞を「老化細胞」といいます。これが過度に蓄積されると、慢性炎症を起こし、病気の原因になるといわれています。今、東京大学医科学研究所の研究グループによる、老化細胞を除去する新薬「GLS1(グルタミナーゼ1)阻害薬」が注目されています。これにより、がんや認知症など、加齢に伴うさまざまな臓器の機能不全が治療できるというもの。マウスでは大きな効果が見られており、現在、人への臨床研究が進んでいます。今後の実用化に期待したいところです。
大阪大学大学院医学系研究科内科学名誉教授。日本老年医学会前理事長、日本高血圧学会前理事長
イラスト/カケハタリョウ 構成・原文/山村浩子