【教えていただいた方】
東京女子医科大学卒業。亀田京橋クリニックにて、全国でも珍しい直陽と肛門の疾患に特化した「女性のためのこう門・おつうじ外来」を担当。専門分野は肛門疾患、排便機能障害、分娩後骨盤底障害。女性たちの便秘や痔、便失禁、直腸脱などのトラブルに対して、専門的な治療とともに生活指導を行っている。
痔とは肛門周囲の病気の総称。「痔核、裂肛、痔瘻」が痔の3大疾患
排便時に痛みを感じたり、トイレットペーパーに血がついたりして、「もしかしたら痔かも」と思ったことはありませんか? 痔は便秘や下痢、排便時の強いいきみなどの排便習慣が引き金となって起こることが多く、自分では自覚していなくても、実は多くの人が軽度の痔の症状を経験しています。「日本人の3人に1人は痔主」といわれるほど、痔は私たちにとって身近な「おしりの生活習慣病」なのです。
亀田京橋クリニックにて、「女性ためのこう門・おつうじ外来」を担当する高橋知子先生によれば、「痔とは肛門の病気の総称です。なかでも痔核(じかく)、裂肛(れっこう)、痔瘻(じろう)が3大痔疾患と呼ばれています。痔核は世間一般でいわれる“いぼ痔”、裂肛は肛門の内側の粘膜が切れる“切れ痔”のことです。そして、“痔瘻”は肛門の内側に膿(うみ)がたまり、”膿のトンネル”を作ってしまうため、“あな痔”とも呼ばれます」。
◆お尻にこんな症状、ありませんか?
更年期世代の女性に多いのは痔核(いぼ痔)と裂肛(切れ痔)なのだそう。よくある症状について、高橋先生にお聞きしました。
「出血が見られたときには、大腸がんや大腸の病気の可能性もあります。裂肛の一時的な症状だろうと自己判断しないで、念のため受診していただければと思います」
・便秘ぎみで、排便後にお尻が痛くなる。
⇒便が硬いために肛門の内側の粘膜が傷つき、裂肛になった可能性が大。
・排便後にお尻を拭くと、トイレットぺーパーに少量の血がつく。
⇒痔核や裂肛の可能性がありますが、出血は大腸がんのサインのひとつでもあるので要注意。
・肛門のあたりに出っぱっている部分がある。
⇒肛門周囲の細かい血管の集まりがうっ血して、痔核ができたのかもしれません。一方、「皮垂(ひすい)」と呼ばれる皮膚のたるみができているケースも少なくありません。
・肛門の内側から小さないぼが飛び出してくる。
⇒肛門の内側にできた痔核が、排便時のいきみとともに肛門の外に押し出されたケース、あるいは肛門ポリープの可能性もあります。
3大痔疾患の主な症状、発症の誘因は?
下記のイラストを参考に、痔ができる場所や具体的な症状、誘因など、“痔のいろは”を知っておきましょう。
痔核(内痔核・外痔核)
排便時に強くいきむ習慣や、過去の妊娠・出産、腹圧をかける動作が多いなどの理由により、肛門周囲の細かい血管の集まりがうっ血し、肛門内で膨らんだもの。肛門の内側には、「歯状線(しじょうせん)」と呼ばれる、腸粘膜と皮膚の境目があり、この境目の内側にできたものを内痔核、外側にできたものを外痔核といいます。
「内痔核はほとんどの場合、痛みがありませんが、排便時のいきみなどに伴って痔核を支える組織が緩み、症状が進むにしたがって痔核が肛門の外に押し出されてしまうんです。そのため、排便時に内痔核が傷ついて出血することもあります。一方、肛門の周囲にできる外痔核は悪化すると血豆のようになり、強い痛みを伴います」
裂肛
硬い便を出すときや、勢いよく下痢したときに起こりやすく、肛門の内側の粘膜が切れてしまった状態です。4~5日程度で自然に治癒する「急性裂肛」は、多くの人が経験していることでしょう。一方、排便時に肛門が切れてしまうのを繰り返し、2~3カ月にわたって治癒しない状態が続く場合は「慢性裂肛」といいます。
「主な症状は排便時の痛みと出血です。裂肛を繰り返す慢性裂肛の人の場合、大きくなった内痔核や肛門ポリープが排便時に肛門の外に脱出し、排便後に肛門の内側に戻ることを繰り返し、内痔核や肛門ポリープの根元が引きつれ、裂けてしまうのが原因のことも。また罹患歴が長い人の場合、肛門が狭くなり、便が出にくくなってしまうケースもあります」
痔瘻
肛門周囲が化膿して腫れ、膿が出るのが主な症状。強い痛みとともに、時には38度以上の発熱を伴います。肛門の内側で細菌感染を引き起こし、「肛門周囲膿瘍」と呼ばれる膿だまりができるのが発症の原因です。その膿だまりが膿を排出する出口を求め、肛門の外側の皮膚へと「膿のトンネル」を作ってしまうのが痔瘻です。
「軟便または下痢の人が発症しやすく、どちらかといえば、男性に高頻度で起こる疾患です」
「皮垂」って、知ってる? 実は多くの女性の肛門まわりにある!
皮垂(ひすい)とは肛門のまわりにポコッとできた「皮膚のたるみ」のこと。
「お風呂に入ったときに肛門のあたりに触れてみると、皮膚が盛り上がったところや、たるんでいる部分があります。それが皮垂。たるみがプクッと大きめな人もいれば、あまり目立たない人もいて、多くの人が気づかないで過ごしています。『これって痔核?』と受診したら、『皮垂だった』というケースも多いんですよ」
ときには肛門に強い腹圧がかかることがリスクとなり、皮垂が腫れて受診する人もいます。
「姿勢が悪く猫背になりやすかったり、排便時間が長かったり、強くいきむ習慣があったりすると、お尻に強い圧がかかりやすくなります。すると、これまで目立たなかった肛門周囲のたるみが腫れてしまうことがあるのです」
排便後に皮垂のたるみについた汚れをゴシゴシと拭いたり、温水洗浄便座の使いすぎが刺激になることもあります。温水洗浄便座の水流で肛門の周囲を洗うときには、やわらかな水圧で5秒間洗う程度にとどめるようにしましょう。
イラスト/内藤しなこ 取材・文/大石久恵